02 変わらない日常
まぁ、悲観してもしょうがないからね。
いまを楽しめればいいんじゃないだろうか?
件の第二王子レオナルドも、友人の騎士団長のご子息ウィリアム・クロムウェルと一緒に二日に一遍はうちに遊びに来る。
そんな頻度で遊びに来て他に支障は出ないのだろうかと疑問に思うが、こうも頻繁に来ていることを鑑みるにないんだろうなと思う。
うちに来始めた頃は屋敷に入ることすら躊躇していたあのレオナルドだが、ここ最近はお姉様と普通に会話できるようになってきている。きっかけはなんなんだろうね?
お兄様ことルイスは十五歳になったので、王都にある学園へ入学していった。
基本無口なお兄様も、誰に触発されたのかここ一年ちょいくらいは女装していたんだけど、入学が決まるや否や制服を改造してちょいゴスロリ風にしてしまった。
剰え、薄く微笑みながら「これを指定の制服にしてくるよ」と、それを挨拶に王都へと出立していった。
うちで頭がおかしいのはお姉様だけだと思っていたけれど、お兄様も負けず劣らずだったんだなぁと、改めて思ったのだった。
あれから二ヶ月程経ち、お兄様から手紙が届いたのだが、内容は短く、生徒会長になったとだけ書いてあった。入学して早々生徒会長になれるなんて、よっぽどお兄様が優秀か、生徒会長が不人気職のどっちかなんでしょうね。
そんなお兄様は王都で寮生活になった為、朝の稽古は私とお母様の二人だけになった。
かと思いきや、毎日ではないがウィリアムとレオナルドの二人も午前の稽古に参加している。
本人曰く。
「親父のもとで訓練するより、こっちのが鍛えられるんだぜ」
と、殊勝な事を言っていたが、本当かどうか疑わしいものである。
その証拠にこの二ヶ月でウィリアムは大して強くなっていないからだ。
まぁ、ウィリアムの成長に比例して私も強くなっているから、一概にはそうとも言い切れないかもしれないけどね。
レオナルドは後から始めたのだが、才能があったのかあっという間にウィリアムを追い抜いてしまった。
最初の頃は悔しいのか口を利かなくなることが多々あったが、最近ではそれもなくなり互いに切磋琢磨している。まぁ、差は開くばっかりなのだが……。
しかし、お母様も容赦がなく、結構吹っ飛ばされる。バドミントン並に空へ舞い上がる。そして、円形に立ち並ぶメイドさん達にキャッチされる。
「あらあらクリス様♡ 危ないからこのまま見学しましょう」
「レイチェル様、こっちへも飛ばしてください!!!」
「ちょっと、そこは私のエリアでしょう!」
「今日はいっぱいキャッチできてラッキーだわ」
「なんだ…。ウィル坊か…。ほらあっちへお行き…」
「レオナルド殿下も吹き飛ばしていいのかしら?」
等と、お母様に吹き飛ばされるたびに、メイドさん達から悲喜こもごもの感想が聞こえて来る。
私に対して、ウィリアムの扱いが酷すぎる気がしたけれど、私も一回ごとに吹き飛ばされているから、あんまり変わらないのかもね。
そもそも、人の力でこんなにも飛べるんですね。ちょっと高所恐怖症になりそう。
*
今日の午後は、お姉様ことサマンサとレオナルドとウィリアムの四人で、最近領内で大バズリ中の麻雀をやっている。
正直、ポーカーや大富豪の比じゃない。我が屋敷内でも、麻雀に熱中するあまり仕事を疎かにしている人が続出しているもの。これは、禁止令の発動も近いかもしれない。
という事で、南四局六巡目―――――
「ふっ…。私の勝ちね」
お姉様が勢いよく【中】を出す。
「「「ロン!」」」
「は?」
眉間に青筋を立て、ちょっと不機嫌になるお姉様。
「大三元」
「四暗刻単騎」
「国士無双」
ウィリアム、私、レオナルドの順で役を言う。どっかで見た事ある流れだな?
「ちょっと、冗談じゃないわよ! 何なのこれは!」
いや、そんな事言われても役が揃ってしまったのでとしか言いようがない。
「もう…。わかったわよ。脱げばいいんでしょう? 脱げば!」
「「いや、結構です」」
ウィリアムとレオナルドがすかさず否定の意を唱える。
「なんですってー! クリスは見たいわよね? ね?」
いや、そんな事言われても困るんですが…。
そもそもこれ、脱衣麻雀じゃないですからね。毎日やってるのに、何故かお姉様だけ脱ごうとしたり、脱がせようとしたり。中身おっさんなんじゃないの? あ、それ私か…。
毎回こんなやりとりをしているものだから、みんな慣れきって「結構です」を言うまでがセットになっていたりする。
最初の頃は、負けて脱ごうとしたお姉様にウィリアムとレオナルドが顔を真っ赤にしながら狼狽えていた。
あれはあれで見ていて面白かったんだけどね。こう続くとマンネリするというか。
さて、時間も丁度いいし、ここいらでおやつタイムにでもしましょうかね。
*
本日は、今日初披露のボンブケーキ。丸い形が特徴的だよね。
普通のケーキよりちょっと手間だったんだけど、生クリームが沢山食べたくなったので、今回作ってみたのだ。
そのケーキを見てお姉様が目を輝かせ、何故か胸を強調すると。
「私と同じくらいの大きさね」
その発言にウィリアムが素の表情でつっこむ。
「そんなにないだろう。毎日見てて分かんないのか? なぁクリス?」
私に振るんじゃない。見てみなさいな。般若のような顔で睨んでいるわよ。知らないわよ後で闇討ちされても。
まぁ、気を取り直して、ケーキを切り分ける。断面も可愛くて美味しそう。
毎月、一個づつ新しいスイーツを披露しているんだけど、意外や意外。ウィリアムが一番喜んでいるんだよね。やっぱりお子様って事で。
先月のプリンアラモードの時は、「ありがとう、ありがとう」を連呼し出して怖かったわ。今日は大丈夫よね? コーヒーを一滴ずつ垂らしながら淹れないわよね?
因みに、麻雀最下位だったお姉様は今回はお預けです。
「クリス美味しい?」
「は、はい美味しいですよ」
両手で頬杖をつきながら至近距離で見てくる。食べづらい……。
「あーん」
「…………」
そっと、ケーキの乗った皿をお姉様の前へ出す。
いや、負けたわけじゃないよ。感想を聞きたかっただけ…。嘘です。面倒臭くなっただけです。はい。
「ク、クリス、あーん」
レオナルドもかぁ…。まぁ、自称婚約者ならしょうがないのかな?
「はいはい。あーん…」
「んー! 美味しいですクリス!」
「そうですか。それは良かったです」
「ちょっとクリス! 何で私にはやってくれないのよ!」
さっきあげた一皿をペロリと平らげて抗議するお姉様。
「なんか、お前も大変だな…」
まさか、ウィリアムに同情されるなんて………。そんな顔をしていたのだろうか。
「おい! どういう意味だよ!」
そのまんまの意味だよ。心を読んでくるなよ。
*




