81 ついに公表される
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翌日、パーティ会場である王城のホール。
流石に外はまだ泥濘んでるし、寒いので室内での開催だ。
やっぱり王家主催のパーティとなるといろんな人がいる。
ウィリアムは父親のパジェロ将軍と祖母のグレート様と一緒に挨拶回りをしている。ウィリアムは女性陣に囲まれて顔を真っ赤にしてデレデレしている。やっぱり年上が好きなのね。
他にはアーサーがテオドールたんの前に跪き何かを大仰に話している。告白しているんじゃないでしょうね?
エリーはというと、手当たり次第男を捕まえては中央で踊っている。踊り終わった男の人がその周りでぐったりしている。あんな激しい踊りをする場じゃないでしょうに。
私はというと、お母様と一緒に壁の花に徹している。
私はともかく、お母様が壁際にいるなんて意外よね。普段あんなにヒラヒラフリフリの服着てステージ上で駆け回っているのにね。
そして、今回のパーティにはソフィアとスケキヨさんも参加している。王妃様に借りたドレスで。
スケキヨさんは、フリルがふんだんに使われたティアードスカートと姫袖を組み合わせたドレスを着ていた。表情筋が乏しく中性的な顔立ちのせいで、よりお人形さん感が増している。暗闇に棒立ちしていたら失禁してしまうくらいだ。まぁつまりそのくらい似合ってるという事で。
「どうして僕が…こんな…こんな…」
ちなみにソフィアとメアリーは最初から料理の並ぶテーブルの前に陣取っている。尚、あそこに並んだ肉料理は全部二周目だ。
こういう時も食い意地優先な所はブレないのね。ある意味関心するわ。
昨日時間を作ってと言われたけど、結局来なかったのよね。きっとどこぞで何か食べてて忘れたんでしょうね。
「クリスにしては珍しい色のドレスを着てるわね」
「これですか? 昨日こちらを着て出席して欲しいと渡されたんですけど、確かにちょっと派手ですよね」
「なるほど…。エテルナ様そこまで………」
ドレスのデザイン自体はシンプルなんだけど、金色に近い黄色なのよね。
「あと、スケキヨ君のドレス姿似合っていて素敵ね」
「…は……伯爵夫人……褒められても嬉しくないです…」
「まっ、最初はそうよね。でもそのうちそれが快感になるし、それが当たり前だとおもえるようになるわよ。クリスを見て見なさいな。堂々としてるでしょ?」
「……見てるのはいいけど、やるのは別……」
あぁそういえばそんな感覚あったなぁ。久しく忘れてたわ。寧ろ今の方が正しいって思ってるくらいだし。
そのうちスケキヨさんも女装沼にハマると思うのよね。イヤイヤやっているうちが一番快感なんだけどさ。
それにしてもやっぱり普段のお母様を知っていると、今の落ち着いた感じに違和感しか感じない。
「あの…お母様?」
「なぁにクリス」
「どうしてこんな端っこにいるんです? それにいつもより落ち着いてますし…」
いつも堂々としているお母様が動揺する。珍しい。
「いや…昔いろいろとやりすぎちゃって…」
明後日の方向を見ながら苦いするお母様。
「あら…レイチェル様ではございませんか?」
「え…えぇ…」
「あら、本当だわ」「嘘! レイチェル様いるの?」「うわホントだ!」「生レイチェル様よ」「うわぁ。感激」「握手して欲しいわ」
もしかしてお母様って相当人気あるのでは? 一気にご婦人方に囲まれてしまった。
「お会いできて光栄ですわ」
最初に話しかけてきたご婦人が、感極まって涙している。
「社交会の薔薇と呼ばれたレイチェル様がお越しにならなくなって、一体どれほどの年月が過ぎたかと」
「お…大袈裟では?」
「何を仰います。あなた様は我々の憧れなんですよ」
そこまで言われても苦い顔をしているお母様。もしかして昔結構無理したのか、好き勝手やったのかのどぅちかですかね?
次々とご婦人やご令嬢方が集まり、私はどんどんと外へ追いやられてしまった。
「クリス」
最近ドキッとする声の持ち主に背後から名前を呼ばれた。
「れ……レオ様」
恐る恐る振り返ると、満面の笑みでレオナルドが立っていた。
ただいつもと違うのは、水色をベースにアクセントに青が使われたアビ・ア・ラ・フランセーズを着ていた。
「私が送ったドレス、ちゃんと着てくれたんですね。嬉しいです。そしてとっても似合ってますね」
「あはは…あ…ありがとうございます……」
そして、私の手を握るレオナルド。
「えっ…レオ様?」
「さぁクリス、行きますよ」
レオナルドはそのままずんずんと奥の方へと歩いていく。私は引かれたままついていくしかない。
そして、少し高くなっている所へ連れられる。ここからだと入り口の方まで見通すことが出来る。つまり逆に向こうからもこっちが見やすくなっているということで…。
「皆さん。本日は王家主催のパーティにお越しいただきありがとうございます」
その言葉とともに参加していた全員がこっちを向いて、恭しく頭を下げた。
「今日は皆さんに報告したい事があります」
会場全体がざわざわしだす。私の心もざわざわしている。
「こちらにいるクリスティーヌ・オパールレインは私レオナルド・レッドグローリア・トリニティ・ダイアモンドの婚約者です。本日皆様にお披露目したくこの場で紹介させていただきました」
その言葉と共に会場全体から拍手が鳴り響いた。
一瞬何が起こったのか理解できなかったけど、え? もしかして天守閣も落とされちゃった感じ?
え…嘘でしょ? だって私男よ? ただの女装趣味の男なんですけど。
遂にレオナルドの婚約者として紹介されてしまうなんて、これ婚約破棄とか無理ゲーじゃないかしら? ここに集まった貴族の数だけ広まってしまうでしょう。そうすると、秘密裏に婚約破棄なんて出来るわけない…。
その後も何かを言っていたようだけど、全く耳に入ってこない。ずっとキーンという耳鳴りだけが響いていた。視界がぼやけてゆっくり流れていく。
そして、こちらに向き直ったレオナルドはにっこり微笑み、私にだけ聞こえるように囁く。
「大好きですよクリス」
耳鳴りの中、それだけが甘い響きで鮮明に聞こえた。
その気持ちはものすごく嬉しいんだけど、もうバレるとかバラすとかの段階を過ぎちゃっているのよね。ホントどうしたらいいのかしら?
でもまだ婚約者だし。破談の可能性もあるわけで……あるよね?
チラと横を見ると国王様と王妃様がニコニコしていた。
あ、これハメられたのかしら。
その後、国王様と王妃様。そしてレオナルドと共に、参加した貴族の方々と挨拶する羽目になったんだけど、私の中のお城がどんどんと整地されていく…。これ石垣壊されて新たにお城建てられるまであるんじゃないかしら?
「よくもやってくれたわね」
「あらレイチェル。そんなに怒るとシワが増えるわよ」
「お生憎様。私老けないので。誰かさんと違って小皺とか無縁ですのよ」
「……あら……そう…………ふーん…………」
お母様の元にやってきた途端にバトルが始まる。飛び火しそうなので男勢は全員離れている。
「これからどうするのよ」
「どうもこうも。計画通り進めるだけよ?」
その計画ってなんなんですかね? 気になるけど、怖くて聞けない。
その後、ソフィアの元に行くと…。
「ふははははは。どうですかソフィア? 出し抜かれた気分は?」
「サイッテイ! いいわ。そっちがその気なら奪い返すだけよ」
「やれるものならどうぞご自由に。まぁあなたに勝ち目はありませんけどね」
涙目で震えるソフィア相手にここぞとばかりに煽るレオナルド。
しかし奪い返すって、私を奪ってどうする気なのかしら?
その後も挨拶回りをしたけれど、殆どの人が好意的に接する中、テオドールたんとウィリアムだけは不機嫌なままだった。これも謎だわ。
しかし、よくメアリーが暴れずに落ち着いていたなと感心するわ。少し成長したのかしらね?
そうして、この日のパーティは終わりを迎えたが、夕食時も参加させられるとは思わなかったわ。勿論お母様もご一緒したので、変なことにならなかったのが幸いだったわ。




