79 お茶会③
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「さてあたしも孫の所に行くとするかね。嬢ちゃんも来るかい?」
「あっはい。ご一緒させていただきます」
「ほっほ。嬉しいねえ。じゃあ、先に失礼するよ」
「では王妃様、お先に失礼いたします」
そう言ってグレートとクリスは、席を立った。
「うちの孫の好きな娘の名前なんて言ったかなぇ」
「えっ! リアム好きな人いるんですか!」
「何を驚く事があるんじゃ、この歳で一人や二人いるのは当たり前だろう」
「そ…そうですよね…」
後ろ髪をひかれることなく孫の話をしながら中庭を去っていった。
「さて、じゃあ私達も…」
「ねぇ、そういえばシグマとメアリーに何やらせてたの?」
「私も行きましたよぉ」
レイチェルの問いにサヴァが片手を上げ喚く。
「いや、あの…言っていいのかしら?」
「うちのメイド使ったんだから、ちゃんと報告しともらわないと」
「分かったわよ」
不満そうな顔でエテルナは話し始めた。
「レイチェルの所に女神様いるでしょ?」
「どっち?」
「どっち!?」
そこで今まで傍観していたメアリーが補足を入れた。
「確かにクリス様は女神そのものですが、今回は元祖の方です」
「あぁイデア様の方ね」
「待って。女神様ってイデア様なの? あの?」
「何よ。知ってて聞いたんじゃないの?」
「いや、名前までは…」
「話進まないから続けて」
一伯爵夫人が王妃様を急かすという通常ならあり得ない光景だが、二人の関係性を知っているものからすれば、当たり前の光景だ。故にディンゴとテオドールは驚き固まっている。
「そうね。クリスちゃんの事なんだけど、今女の子になっているじゃない?」
「えっ! クリス今お◯ん◯んないのぉ?」
「「⁉️」」
「僕の代わりに使うぅ?」
「はぁはぁ…。テオドールちゃんもう一回言ってもらっていいかしら?」
「そうね。凄く心が熱くなったわ」
「何バカな事言ってるんです。さっきから全然進まないじゃないですか。テオドール様も、真っ赤になって続きを言おうとしなくていいですよ」
もじもじしていたテオドールはこくんと頷いてそのまま俯いてしまった。
そんなテオドールの頭を撫でがならエリーが慈しむような顔をした。
「あとで私が使ってあげるわよぉ」
「最初はクリスがいいの」
「私、このまま推移を見守った方が良い気がするの」
「それは同感ね。だけど、それは追い追い見守るとして続きを話しなさい」
何も分かってない純真無垢なテオドールとそれを狙う野獣エリーを微笑ましく見ながら続きを話す。
「そうね。えっと…女神様の力って永遠じゃないらしいわね」
「そうみたいね」
「つまり、レオちゃんと確実に結ばせるには、定期的に女の子にすればいいのよ」
「何が何でも阻止するわ」
「いいじゃない。正真正銘娘になるのよ?」
「分かってないわね。アレが生えてるからこそいいのよ。まぁ、だからといって今のクリスが魅力半減とは言わないけど、あんなに可愛いのに生えてるのよ? 興奮するじゃない」
「あんたそれ絶対にヨソで言っちゃダメよ? 親失格よ?」
「誰のせいでこんな性癖になったと…」
「悪かったわよ…。私が原因ですよ。でも、いいじゃない。もう一人女装してる息子がいるんだもの。一人くらいいいじゃない。ね、ちょうだい」
「そんなに言うならサマンサ貰ってあげてよ。あの子あのままだと貰い手ないのよ」
「私が悪かったから、その提案取り下げてもらっていい?」
一気に白い顔になったエテルナが必死になってレイチェルに頭を下げる。
「まぁいいわ。それで、うちのメアリーを使ってイデア様を探していた…と」
「そうなるわ。まぁ見つからなかったんだけどね」
「え? イデアさん? それならうちにいるけど?」
再びティートローリーを押して、空いた皿を回収に来たソフィアが何の事は無いといった感じで話す。
「えっ! ちょっと待って。え、いつから?」
「年明けてすぐ位にうちに来たわよ。そういえばずっと滞在してるわね。それがどうしたのよ?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。その女神様をずっと探していたんだから」
「そうなの? まぁ、あの人ずっと研究所に籠もりっぱなしだしね」
「…そうだね…。僕と一緒にゲーム作ってたからね」
「ゲーム?」
「まぁ、おもちゃみたいなものよ」
「どうして女神様がそんな事を?」
「趣味と実益がどうとか…」
「そう……。何でもっと早く言わなかったの?」
「聞かれてないし、というか、ホテルでいきなり連れられてメイドの真似事させられたんだもの。言う暇なんて無かったわよ」
「誠にごめんなさい…」
謝ってるんだか、バカにしているんだか分からない言葉を口にするエテルナ。
「じゃあ今すぐに行って…」
「エテルナ様。それは難しいかと…」
急に立ち上がり行動に移ろうとしたエテルナを制するシグマ。
「どうして?」
「明日はパーティがあります。準備等ありますので、今から伺うのは難しいかと」
「じゃあ明後日にしましょ。ずっとそこにいるんなら一日二日遅れても問題ないでしょ」
「そうですね。先触れを出しておきましょう。サヴァ…」
「えぇー。まーた私ですか? ちょっと人使いが荒いんじゃないですか?」
「ホテル宿泊の請求書、給料からの天引きでもいいんですよ?」
「やだなぁシグマ先輩。行くに決まってるじゃないですか。へへへ…」
ラムダが無言で着替えの入っているであろうバッグを手渡した。
「ラムダ先輩も一緒に行くんですか?」
「これは一人分の荷物ですよ?」
「あぁそうですか。そうですよね。結局ラムダ先輩もそうなんですね」
「私も行きたいのは山々ですが…」
「シグマがいるからラムダも行っていいわよ。ずっと城内だと鈍るでしょ?」
「⁉️」
「へへへ。ラムダ先輩。死なば諸共ですよ」
「別に死にはしないでしょう。少なくとも私は」
「え? 私は死ぬんですか?」
「バカなことやってないで行きなさいよ」
変なテンションのサヴァとがっくりうな垂れたラムダが中庭を後にした。
「ずっとクリスちゃんを女の子状態にしておけば、いずれそれがノーマルの状態にならないかしら?」
「あ、言い忘れてましたが、本日クリス様のクリス様ご帰還を確認いたしました」
「え? 今戻ってるの? じゃあ確認しないと」
「あなたがすることじゃないでしょ? というか戻ってるんならここにいる理由も無いわね」
「ちょっ! お願い。明日のパーティくらいは出てってよ。レイチェルいないんですか? って問い合わせが多いのよ。そろそろ復帰してもいいじゃない。ね?」
「まぁ、クリスの社交界デビューもしないといけないから、今回は断腸の思いで出席するけど」
「どんだけ嫌なのよ」
「最初から全部だけど?」
小首を傾げるレイチェル。
そして、その話を聞いていたテオドールとエリーが話し出した。
「クリスのお◯ん◯ん戻ってよかったぁ」
「私のはいつでも使っていいからねぇ」
「うーん。いらない」
「なっ!」
そんな二人を終始黙って見ていたギガは、恍惚の表情で気絶していた。
「全然良くないよ」「全然良くないわ」
アンバーレイク兄妹がそれぞれ不満をぶちまけたところで、お茶会はやっと終わりを迎えたのだった。




