76 復活の日
朝、下腹部に違和感を覚え目を覚ます。
なんていうか、張っているというか懐かしい感覚というか…。
それはメアリーも同じだったのか、いつもは全然起きないのにこの日は珍しく私より先に起きていた。
「クリス様ぁ……」
まぁ、起きているといっても半分虚ろな感じだ。
いつも通りメアリーが私を抱き枕にして寝ているんだけど、途中途中で身を捩る。ただ、今日はその回数が多い気がする。
「…んん〜……ん〜……なんか固いものがぁ…………はっ!」
ばっと飛び退いたメアリーは、痺れて動けない私の服のスカートをバッと捲ると驚愕の表情をして、すぐに頭を下げた。
「お帰りなさいませクリス様…」
「おい…。どこを見て言った! どこを私だと認識してるんだ」
「だって、クリス様のクリス様が復活してるんですよ。それも以前よりパワーアップしての復活です。頭を下げない理由がありません」
なんて事を言うんだ。まぁ、確かに人並み以上に大きいのは自負しているけど、そんな言うほどの訳ないでしょ。
痺れが収まって起き上がり確認する。
「あれ…こんなに大きかったかしら?」
「ですよね! ですよね!」
そんなバカみたいなやりとりをやっていると、ドアが開けられディンゴちゃんが入ってきた。
「おはようございまー………って何やってんの?」
「いやこれは…その……」
「クリスも……あ、クリス様もクリス様のメイドもおかしいのは知ってるけど、朝から何を…………………………………」
そのまま歩いてきたデンィゴちゃんが、さも当然といった感じで覗く。
「なっ……ななっ……ななな……なんで……どうしてそんなものがクリスに……」
「何を言っているんです? これがクリス様の完全体ですよ」
「えっ……じゃあクリスは本当に……」
「クリス様はクリス様です。それ以上でもそれ以下でもありませんよ?」
何を言ってるんだか…。
「あ、あのねディンゴちゃん。これは…その……」
「(これなら合法なんじゃ……)」
何か言ってるけど聞き取れない。やっぱり衝撃だよねぇ。
いつまでも下半身露出しているわけのもいかないので、捲れていた布で覆い隠す。
「「あっ…」」
何で二人ともそんな名残惜しそうな声出すのよ。
というか、ドア開けっ放しだから、誰かがまた入ってくる前に閉めてほしい。
「あ、そうだ。朝ごはん持ってきたんだけど…」
「そ…そうね。食べながら話しましょうか…」
「昨日は食べずに寝ちゃいましたからね」
ディンゴちゃんが朝ごはんの用意を始めるけど、動きがぎこちない。まぁ仕方ないね。
ベッドから起き上がると、妙に下半身がスースーするのよね。振り返るとベッドの上には千切れたパンツがあった。
「…………………まじか……」
それを見て急に恥ずかしくなってしまった。
「つまり、クリスは元は男だと…」
呼び方が元に戻っているけど、今はそれどころじゃないので黙ってる。
「はい…」
「でも、どこからどう見ても女の子よね? 声も体型も…」
「勿論です。アソコ以外は完璧に女子ですね」
「そっか…よかった…」
え、何が? 何が良かったの?
「でも何で今まで女の子だったの?」
どこまで言ったものかな…。
「少し前に起きたら女の子になってました」
「じゃあ、戻る可能性もあるの?」
『戻る』というのは語弊があるけど…。
「まぁ可能性としては…」
「じゃあいいや。私からはこれ以上聞く理由が無いわ」
「賢明な事です」
だからメアリーはどこから目線で話しているのよ。
そんな事を言いながら食事は終わり、私の着替えに移ったのだが…。
「ねぇ…。どう考えてもこれでクリスのお…おち……おちっ……」
「無理して言わなくていいから」
「そ…そう? こんなちっちゃいパンツで包めなくない?」
「うん…」
確かに。前は少しはみ出すくらいで……………。あれ、ちゃんと履けてないわね。
もうこの際ボクサーパンツかペチパンツみたいのに変えた方がいいかしら。でも、現状ドロワーズも履いてるから…。
もう布面積の少ないパンツは履けないなぁ。
目線を下へ向けるディンゴちゃん。
「ね、ねぇ触ってみてもいい?」
「え? やだけど…」
「なんでよ。寮にいた時は触ってたじゃん」
「それはお風呂に入った時に洗いっこしただけでしょう? それとこれとは別よ」
「ちょっと聞き捨てなりませんね」
またぞろ寛いでいたメアリーが話に割り込んできた。
「なんでよ」
「言われないと分からないんですか? クリス様の柔肌に触れていいのは私だけです」
「そうなの? クリス…様」
「嘘だから気にしないで」
「ちょっ、クリス様。そこは嘘でもそうだと言ってくれいないと」
「メアリーが割り込むとめんどくさいことになるから黙ってなさい」
「むぅ…」
鏡ごしに勝ち誇った顔のディンゴちゃんと拗ねて睨め付けるメアリー。いい歳なんだから、もう少し淑やかにしなさいよ。まぁ、だからと言ってディンゴちゃんにアレを触らせるかどうかは別の話なんだけどね。
「うちのお父さんのより大きいから気になっちゃたのよね」
「待った」
「どうしたの?」
「え、私ディンゴちゃんのお父様より大きいの?」
「そうよ。ふた回りくらい」
「マジか……」
これもう逆に病気の可能性ない? 腫れてるとか。
「クリス様、後で触診しましょうか?」
「うーん……考えとく……」
いや、待てよ。ディンゴちゃんのお父様より大きいという話だけど、お父様の方がちっちゃい可能性はないかしら? だとすれば私のは適正サイズ。
まぁ、調べる術も調べる気もないんだけどね。見ず知らずの令嬢にアレ見せてください。なんて出来る訳ないものね。
態々うちのメイドさん達に調べさせるような内容じゃないし。でも気になるし……。
………待って、メアリーさっき何て言ったのかしら? とんでもない事を生返事してしまった気がする。
確認しようにも髪のセットの途中なので振り返って確認出来ない。
鏡ごしに見てもメアリーの様子を窺うことは出来ない。
まぁいいわ。後でメアリーが何かしてきても拒否できるようにしないとね。
と、そんな事を考えている間に私の支度は終わったらしい。
「はい、終わったわよ。……やっぱり信じられないわ。こんなに可愛いのに、あんな凶暴なものがついてるなんて…」
「ギャップ萌えというやつです」
「ギャップ萌え…。なるほど」
なるほどじゃないわよ。
鏡を改めて見ると、それはもう見事な可愛い女の子が写っていた。自分が見ても溜息が出る程の美少女だ。
はぁ…。こんなに可愛いのにね……。
視線を鏡から、股の方へ向ける。この圧倒的布地に隠された下に暴れ馬がいるのよね。この感覚久しく忘れてたわ。
そんな感じで気落ちしていたら、またぞろノックも無しに扉が開け放たれた。
「おはようございますクリス。今日は天気もいいのでお出かけしませんか?」
「レオ様おはようございます。まずは、レディの部屋へ入る際には最低でもノックをしていただかないと」
「あっ…これは失礼しました…」
シュンとなるレオナルド。
そして私の後ろでボソボソ話すディンゴちゃん。
「(レディ…………あのサイズで……)」
いいのよ。心は半分以上は女の子なんだから。
「そうよレオちゃん。女の子の部屋に勝手に来て入るのは失礼ね」
続いてやって来たのは王妃様だった。
「あっ……おはようございます」
「おはようクリスちゃん」
「母上はどうしてこちらに?」
そうだわ。王妃様が来るなんてよっぽどの事だわ。何か書類上のミスでも有ったのかしら?
「今日はね、女子会を開こうと思って…。だからレオちゃんには悪いんだけど、今日はクリスちゃんを借りるわね」
「そういうことでしたら………」
凄く不満そうだけど、何とか飲み込んで部屋を出て行った。
そして王妃様が部屋の外を覗いて何かを確認してから口を開いた。
「ごめんねぇ…。最近レオちゃんの束縛大変じゃないかしら?」
「はい」
「あら即答」
だって恐怖を感じるくらいグイグイ来るんだもの。昨日の三時間踊りっぱなしの件も少し考えたら異常よね。
「まぁそれだけクリスちゃんが好きって事だと思うのだけどねぇ。私も報告聞いてびっくりしているくらいよ。どうしたらいいかしら?」
私に聞かれても…。
「まぁ、今日はそういうの忘れて楽しくお茶を飲みましょう?」
「はい。…えっと、どちらで…」
「中庭で待ってるわね」
それだけ言うと王妃様は手をひらひらさせて部屋を出て行った。
「私が言うのもなんだけど、男同士で結婚って出来るの? それも王族が」
「エテルナ様以外は気づいてませんよ」
「やっぱりそうだよね。どっからどうみても美少女だもんねぇ…」
「あ…ありがと」
うちの領では何故かバレてるんだけどね。いやバレてるのかな? どうなんだろ?
「お茶会だそうだから、ここは気合を入れて可愛く仕上げないとね」
ディンゴちゃんが鏡ごしにウインクした。
「あっ! わ、私もお手伝いしますよ。クリス様を知っているのは私ですからね」
「じゃあ二人で作り上げましょうか」
「ふふ…望むところです」
ちょっと怖いなぁ。そんな堅苦しいものじゃないんだから軽くでいいのよ?
「そういえばこのドレスはどうかしら?」
「確かにクリス様には似合いますが、クリス様には地味じゃありませんか?」
「じゃあこっちは?」
「少し装飾過多ですね」
二人で楽しそうにしているのはいいんだけど、遅刻は厳禁だからね?




