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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第1章

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33 番外編 レオナルド視察に行く

 

 私の名前はレオナルド。レオナルド・レッドグローリア・トリニティ.ダイアモンド。

 無駄に長ったらしい名前だが、このダイアモンド王国の第二王子だから仕方がない。


 十一歳になってしばらく経ってから、父親である国王デボネア・レッドグローリア・トリニティ.ダイアモンドに呼び出された。

 一体何の用事なんだろう。誕生日はとっくに過ぎたし、夏季の余暇にもまだ早い。

 呼び出された理由が全く分からないまま、国王の執務室のドアをノックした。


 「御呼びでしょうか、国王様」

 「あぁ、来たかレオナルド。待ってたぞ。それと、他の貴族が居ない時はパパと呼べと言っておいたじゃないか」

 「そうでしたね、お父様」

 「パパって呼んでくれんのね……」

 流石に男でこの歳になってパパ呼びは少し恥ずかしい。

 王命でパパ呼びを強制されなかっただけよしとしよう。

 「それで、一体何の御用でしょうか?」

 「ふむ。呼び出した理由はじゃな…」

 随分と勿体ぶった言い方をするという事は、きっと面倒臭いことを申し付けられるんじゃないだろうか?

 「レオナルドはもう十一歳になったのだったな?」

 「はい。そうですが?」

 「ふむ。では、そろそろ母親離れしたほうがいいんじゃないかなと思ってな?」

 「⁉️」

 なんという、恐ろしい事を軽々と言ったのだろうか。

 衝撃のあまり言葉を発せずにいると。

 「いや、のう…。最近のエテルナはちょっと奇行が目立つというか…。いや、以前護衛騎士のレイチェルがいた時よりはマシになったと思ったのだが、ここ一年ちょいくらいは前より酷くなった気がしての。流石に他国の貴賓や、我が国の貴族の前に出せそうに無くてな……」

 まぁ、分かる気がする。

 確かにここ一年くらいは奇行に磨きがかかったというか、名人芸の域に達したというか、見ていて非常に楽しくさせてくれているのに。

 「それで、少しリハビリと、親離れをするのに丁度いいかなと思って…」

 「私にお母様から離れろというのですか!」

 「いや、普通は乳母や使用人と暮らしたりするのが普通なんだが…」

 他国(ヨソ)他国(ヨソ)我国(ウチ)我国ウチだと思うんですがね。


 「それでお父様は私にどうしろと仰るのでしょうか?」

 その言葉を待っていたとばかりに、少し佇まいを正した後、前のめりで笑顔になるお父様。

 「うむ。ここ数年で飛躍的に経済力の上がった領が二つあってな。そこの二つの領の視察に行ってもらいたいんじゃよ」

 「えっ! そんな…。視察と言ったら一週間や二週間。はたまた一ヶ月かかったりするじゃないですか! そんなにお母様と離れられません!」

 「だからじゃよ。いい機会じゃし、今後公務をするにあたって視察なんてかなりの数こなさないといけないんじゃぞ? これも今後の勉強だと思って行ってきなさい」

 なんてことだ。そんなに長い期間お母様と離れた事なんてないのに、私にできるのだろうか?


 仕方ない。ここは腹をくくろうか。

 ところで、その二つの領って何処だろう? もう少し、政治や経済の勉強もしておくべきだったと反省する。

 「お父様、その二つの領ってどこですか?」

 特に気にした様子も無くお父様は告げる。

 「まず一つ目は王都から南西に位置するオパールレイン伯爵領。二つ目がそこからすぐ北西。王都から西にあるアンバーレイク公爵領じゃよ」

 頭の片隅の朧げな地図を思い出す。

 そこまで遠くもないけど、近いわけでもない微妙な位置だ。

 「オパールレイン領って、お母様の元護衛騎士方が嫁いだところですよね?」

 「そうじゃな。いつまでもエテルナを誘惑し誑かす魔性のような奴がいる場所じゃな」

 そんなに怖いところなんだろうか?

 「因みにアンバーレイク領はどんなところなんですか?」

 「山と湖ばっかの辺鄙なところじゃよ。広いだけが取り柄」

 こっちに関しても酷い言い様だ。

 「だからこそ不思議でなぁ。儂がいってもいいんじゃが、折角だしな旅行気分で行ってくるといい」

 気楽に言っているから、そんなに大変なことじゃないかな。だったら大丈夫かな。

 ふと、何か忘れている気がして、それが何だったか思い出そうとする。

 オパールレイン領……。オパールレイン伯爵……。事故……。事件……。出来事……。

 「⁉️」

 思い出した。今までよく忘れていたなと思う。

 お父様も分かってて視察に行けと命じたのだろうか?

 「お父様…、一つ気になる点があります」

 「ん? なんじゃ?」

 「オパールレイン領って、例のサマンサ嬢が居るところですよね」

 「………そうじゃったかなぁ」

 この後に及んで惚けるなんて。

 「六年前に王宮でゴールドメッキ男爵の悪事を暴いたのがサマンサ嬢ですよね?」

 「そう、じゃな。すまん。ちょっと朧げでな、あの辺の記憶の混濁が…」

 当時、謀反を企てたゴールドメッキ男爵以下数名を王宮の晩餐会で一人で暴いてボッコボコにした事件。あの時の鬼のような、般若のような、死神のような姿は国中の貴族の畏怖の対象になったとかなってないとか。

 そもそもボッコボコにしたのがサマンサ嬢なだけで、他にも何人か関わっていたんだよね。ただ、噂に尾ひれがついて一人歩きしていただけだと思おう。

 でも、当時のことを知る人からは噂のが弱いって言っていたんだよなぁ。

 たまたまだとは思うんだけど、国内の不祥事が暴かれる時に何故か伯爵の関係者が関わってたりするんだよね。

 だからなのか、ここ数年はパーティには呼ばれてないかったりする。

 やだなぁ。怖いなぁ。行きたくないなぁ。

 悪いことしてるわけじゃないけど、何かあったら一気にキュッと首を絞められそう。

 「では、一週間後からじゃから頑張るんじゃぞ」

 そう言って、無理やりに視察行きが決定してしまった。



 こんな時はお母様に相談だ!

 「お母様ちょっと、ご相談が…」

 「あら、レオナルドどうしたの?」

 「えーっと、その格好は?」

 「あら、これ? これねー、レイチェルのところの領で流行ってる衣装の一つよ。どう似あってるかしら?」

 それは、制服のようにも見えるけれど、ノースリーブで何よりスカート丈が異常に短い。腕をクロスさせたポーズをとっている。お母様のやることに否やはないが、今回はちょっときついのではないだろうか?

 まぁ今はそんなことよりも。

 「お父様に視察を命じられたのですが…」

 「あら、まぁ大変ね。でもそうね。もうこの歳になったら公務の一つや二つこなせるようにならないとダメってことかしらねぇ」

 あ、止めてくれないんですね。

 「でも。これは大事なことだから、レオナルドにとってもいい経験になると思うわ」

 「でもお母様と離れるのは寂しいのですが」

 「あら〜。そんなこと言っちゃダメよ。お仕置きしちゃうわよ?」

 うーん。確かに以前のお母様に戻ってもらわないといけない気がしてきたな。


     *     *     *


 雲ひとつない綺麗な透き通った水色に近い青空。

 風は強くないが、日差しは少し強めの五月の行楽日和。

 ガタゴトと揺れる馬車。王都を出発して二時間程。まだ、オパールレイン領に入ってすらいない。

 やだなぁ。もう帰りたいなぁ。

 そんな風に不安そうな顔をしていたのだろう。護衛の三人がニッコリと笑って励ましてくれる。

 「大丈夫ですよ、殿下。今回は初めての視察ですから、そんなに気負わないでも大丈夫ですよ」

 「そうですとも。本来であれば問題点を見つけ出して解決策を練ったりしますが、今回はそれもありませんから、観光気分でいいのではないでしょうか?」

 「そ、そうかな? ははは…」

 「えぇ。我々も上からはそんなに難しい内容ではないと聞いております。もしかしたら、殿下の婚約者探しの第一歩かもしれませんね」

 なるほど。そういう考えもあるのか。そういえば、ずっとお母様について歩いていたから婚約者とか考えたこともなかった。

 そうこう考えているうちに、馬車の揺れが減った。

 「オパールレイン領に入ったようですね」

 「分かるの?」

 「はい。領ごとに道の舗装具合が変わるんですが、オパールレイン領は凄いですね、揺れをほとんど感じません。一体どうやっているのでしょうね?」

 揺れを感じず、スムーズになったことで、本来かかる時間の半分以下でついてしまった…。



 門を通り、屋敷の前へ馬車をつける。

 五人の伯爵家の人と思われる人達と、その横にズラッと並ぶ使用人達。

 ドキドキしながら、馬車を降りる。

 「レオナルド殿下、ようこそオパールレイン領へ」

 この家の当主と思しき男が恭しく頭を下げてきた。

 「ふむ。よく来たなデボネアの息子よ。まぁゆっくりしていくがいい」

 なんだろう。このお母様のような雰囲気の人は。この人がお母様の言っていたレイチェル様だろうか。

 確かにお母様のように奇抜な格好に、何かの役に徹したよな台詞。でも、お母様より感染具合がひどいような気がする。

 そして、もっと酷いのがこっちの人。

 「祝福の鐘を鳴らそう(ようこそ)」

 「え? 何ですか…」

 「灼熱の業火に焼かれ、魂を焦がし給え(お初にお目にかかります。お会いできて嬉しいです)」

 「あっ、はい…。よろしくお願いします?」

 どうしよう。何言ってるか全然わかんないや。この人は女性だよね? ちょっと声がハスキーだけど、そういう人もいるよね。

 どうしよう。帰りたくなってきたな。この独特の空気感に気圧されたというか、関わっちゃいけない気がして、そっと視線を横にずらす。

 視線をずらしたことを激しく後悔した。

 ずっと頭の中で悪魔のような笑みをした恐怖の存在がいた。

 「お初にお目にかかりますレオナルド殿下。オパールレイン家が長女、サマンサです。今日の佳き日にお会いできた事、大変嬉しく思います」

 思ってたのと違った。でも、先の二人のように演技をしているだけかもしれない。

 ここは、気を引き締めて平常心で返そう。

 「あ、あぁ、貴女が、あ、あの噂のサマンサ嬢ですか……。そ、その聞いていたのとは随分と違うようで……」

 「はい? どのような噂でしょう? この後の視察で是非ともお伺いしたいですわ」

 「そ、そそそんな、とんでもない。高々風の噂。根も葉もない嘘みたいなものです。どうかお気になさらず。はははは……」

 ダメだ。怖くてまともに話せない。

 どこにでもいるような令嬢なのに、笑顔が怖い。

 もうダメだ、もうどにでもなれ。スッと横に素早く視線をずらす。

 すると、一瞬ふわっとこの空気が弾き飛ばされたような、そこだけ眩しく清浄な世界に見えた。

 「初めまして、レオナルド殿下。クリスティーヌと申します」

 なんということだろう……。こんな可憐で美しい人がいるのだろうか。

 前の三人と違って、自然体で気取らずありのままの美しさ。例えるならそう、荒野に咲く一輪の花…。

 なんだろう…。胸のあたりがドクドクと音がなっている。雑音が消えたような、視界が少し眩しく感じる。それに体が熱くなってきた。この気持ちはなんだろう。

 「それではこの後は、私とこのクリスとで我が領内を案内したいと思います」

 なんと! それはちょっと嬉しい。それにこの気持ちの理由がクリスティーヌ嬢と居ることで分かる気がする。

 なんとなくだけど、邪魔が入る気がするので、その前にとっとと視察に行ってしまおう。

 「そうですね。今すぐに行きましょう。実は見てみたいところが結構ありまして…」

 「あら、でしたら尚の事私も一緒に行った方がいいのではなくて?」

 「⁉️」

 え? サマンサ嬢も来ると?

 そんな地獄の底から足を引っ張られるような感覚を味わっていると、更に追い討ちをかけられた。

 「そうですね。お姉様のがお詳しいでしょうから、そちらのがよろしいかと…」

 一気に天国から地獄に落とされた気分だ。

 これは何としてでも阻止しなければ。

 最悪サマンサ嬢は諦めても、クリスティーヌ嬢には一緒に来てもらいたい。

 「いえ、クリスティーヌ嬢には是非とも来ていただきたい」

 「あら、でしたら私も一緒ではないといけませんわね。クリスはまだ幼いですからね?」

 ぐぬぬ……。

 「いや、私がいるから大丈夫……」

 「え?」

 伯爵の助け舟がいともたやすく撃沈されてしまった。瞬殺だった。

 そして、壊れたドアノブのように意見を翻した。

 「街の事は、このサマンサが詳しいようですので、案内させます」

 「ちょおっ!」

 つい心の声が出てしまった。でも仕方ないと思うのだ。

 大好きなお菓子と同量の毒も一緒に召し上がれって言われたら、流石に遠慮するというもの。そう、これは拒否じゃなくて遠慮です。

 「では、四人で行きましょう? ね、お父様」

 もう仕方ない。この胸の気持ちが何だかわからないけれど、サマンサ嬢を見ると、波が引いていくような感じがする。平常心を保つには、もしかしたら必要なのかもしれない。ずっと気分が高揚している状態では視察なんて上手く行く訳がないですからね。

 と、そんな事を自分に言い聞かせていたら、唐突にサマンサ嬢に窘められた。

 「何をこそこそ言ってるの? 早く行かないと日が暮れてしまうわよ?」

 「「「あっ、はい」」」

 どうやら、伯爵とクリスティーヌ嬢の間でも何かを相談していたようだ。

 何とか、クリスティーヌ嬢の横の席に座れたらいいなと思った。


     *     *     *


 オパールレイン領での視察が終わり、そのままアンバーレイク領へ向かったが、この胸のざわつきや高鳴りはより一層大きくなっていく。

 もしかしたら、これが恋という気持ちなのだろうか。

 その後のアンバーレイク領へ着いて、公爵に家族を紹介され視察に向かったが、殆ど内容が頭に入らなかった。

 同年代の金髪の少女がいた気がしたが、何故か一歩も二歩も引いた状態で接された気がした。

 きっと、私が上の空だったせいだろう。申し訳ない気がしたが、今は頭の中はクリスティーヌ嬢でいっぱいなのだ。

 王宮へ戻ったら、お父様とお母様に婚約の話をしてみようと思う。

 王宮への帰り道でそう決意したのだった。

 ふと窓の外を見ると、綺麗な透き通るような水色に近い青空だった。

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