65 知ってた
とりあえず、私の私物が何処にあるか分からないディンゴちゃんには、とりあえずソファで待機してもらって、カバンの中から下着を取り出して身につける。そして、昨日のドレスを…と思ったんだけど、皺くちゃになってるし、ほんのり湿っぽい。これは流石に着れないわね。一度洗ってアイロンがけしてもらわないと……。これ洗えるわよね?
クローゼットに何かないかなと思って開けると、何故か大量の私サイズのドレスが掛けられてあった。
「悩むわね……」
こんな時に何だけど、物凄く目移りしてしまう。
色やデザインに、装飾の種類に生地と……。どれにしようか迷ってしまう。
……いや、どうして私サイズの服があるのかしら? 教えてもないのに…。それにこの量。一体いつから作っていたんだろう……。
背中が冷たくなる感覚があったけど、気味悪いと言う感覚よりも、素敵なドレスを着たい方が優っているので、すぐさまさっきの感覚は排除した。
さて、一着ずつ着て楽しむ時間はないので、とりあえずどれか着ないとだけど……。裸でどんだけ悩んでんだって話よね。
そんな自分に呆れていると、後ろからディンゴちゃんが手を伸ばして一着のドレスを迷いなく選んだ。
「これが一番似合うんじゃないかしら?」
ターコイズとアイボリーを組み合わせたちょっとロリータ感のあるドレスだ。
なるほど。ディンゴちゃんの好みはこういうのか…。私と気があうわね。
「いい趣味ね」
「そうかしら? クリスの事を考えたら選択肢は自然と決まるわよ?」
なんか怖い事言い出した。え? こんな性格だっっけ?
「ほら、着せてあげるから……」
顔を真っ赤にしてつっけんどんな言い方をするディンゴちゃん。どことなくカリーナちゃんっぽいなと思った。
「今、別の女の事考えたでしょ?」
「⁉️」
えぇ…。なんでそんなわかるの? 怖っ……。
「意外と難しいわね…」
慣れない手つきでドレスの背中側の紐を編み上げていくディンゴちゃん。確かに慣れないと難しいよね。均一で編めなかったり、紐がねじれたりするもんね。
こういう時ファスナーだと楽なんだけどね。まぁ、ファスナーも布を食んだりずれたり外れたらすぐに直せないってのもあるんだよね。
「もうこれめんどくさい……。もっと楽な方法ないのかしら?」
やっとの事で編み上げ終わったらしく、愚痴をこぼしている。王妃様の専属になるんだったら治さないといけないわね。
「じゃあ、髪の毛セットするわね」
ドレッサーの前に座らされ、鼻歌交じりに私の髪をセットしていく。
鏡ごしに見ると、心なしか嬉しそうだ。ドレスと何が違うんだろうか?
「ねぇ…聞いてもいい?」
「何?」
「いつから気づいていたの?」
まさかディンゴちゃんから切り出されるとは思わなかった。
「実は、停車場であった時にはちょっと疑ってた」
「え! そんな最初から? 何で?」
「まず、方言がおかしい。今時あんなキツイ訛りの子いないんじゃない? それにいろんな地域の方言が混ざって違和感しかなかった」
「うぅ……」
「あと、一週間で標準語になったでしょ? 無理して作ってたのバレバレよ? 普通はそんな短期間で直せないし。まぁ、他のメイドさんは気づいてないっぽかったから、私がいなかったら騙せてたかもね」
「そっか…」
それにね、鈍ってたけど、チーズ村って確かメアリーの出身地だったはず。あそこは今出稼ぎなんかしなくてもいいくらいチーズの輸出で潤ってるから貧しいはずないし、鈍ってる人もいないのよね。まぁ、全員がそうとは限らないかもだけど。
それに、取引で何度も行ってるから違うってのはわかってたし。あそこも目をつけられたんでしょうね。
まぁ、今回絵図を描いたやつが下手くそだっただけの話なのよ。
変に回りくどいことしてるくせに、肝心なところでツメが甘いんだもの。失敗して当然よ。まぁ、オパールレインじゃなかったら、もう少し上手くいったかもしれないけどね。
「あと、初日にメイド服着た時に歩き方がおかしかった」
「え?」
「試しにガーターリングにナイフを忍ばせたんだろうけど、慣れてないのかぎこちない動きしてたわ。まぁ、傍から見たら知らない人には気づかれない程度には隠せていたわよ」
髪の毛を触る手が止まった。
鏡ごしに見ると、自嘲気味に苦笑いしていた。
「クリスには何でもお見通しなのね」
「まぁ…正直、杞憂で終わればいいなとは思ってたわ。実際、次の日からは付けていなかったでしょう?」
「うん…。動きづらいし、何より王妃様に近づけていないのに持っていたらいろいろと危ないでしょ?」
「いい判断よ。ターゲットに近づくまで変に疑われたらお終いだものね。疑われない事と信用を得ることが重要よね」
「それ、私に言っていいの?」
「だって、最初からやるつもりなんて無かったんでしょ?」
今度こそ、髪の毛から手を離して下ろしてしまった。
「はぁ…。クリスには敵わないなぁ。もしかして分かってて付き合ってた?」
「まぁ、私はきつめの王妃教育だと思ってたからね。お互い大変だなって」
「なにそれ」
クスクス言いながら、最終的には二人で声を出して笑ってしまった。




