62 メアリー嫌いになるよ?
そうして暫くゆっくりと楽しんでいたら、メアリーが神妙な面持ちで問いかけてきた。トイレかな?
「クリス様…この度はお疲れ様でした」
「えっ…あっ……あぁ…はい。お疲れ様。でも、多分まだ終わってないわよ」
「そうですね。ところで、もう少し早く呼んでくれても良かったんじゃないですか?」
「手紙を渡されてからそんなに時間経ってないでしょ?」
「いやぁ、天井裏って寒いんですよ」
「あぁ……」
そんな理由か…。
「ところで、私の置き手紙読みました?」
「呼んだわよ。ちゃんと、お土産持ってきて偉いわね」
「えへへ…」
「それと、これ」
席を立ち、カバンの中からメアリーの置き手紙を取り出し、テーブルの上に置く。
「気づきましたか」
「そりゃあ、あんだけミカン食べていたんだもの。これに気づかない方がどうかしているわ」
メアリーからの手紙には、あぶり出した文字が浮かび上がっていた。
『準備ができたら手紙を送りますので、王妃様の部屋で私を呼んでください』
「別にこれも書いたらよくない?」
「いやあ、面白いかなと思って。ミカンもいっぱいありましたし」
面白そうで、こんな面倒なことされてらたまったもんじゃないわ。
「まぁ、私としては、クリス様がメイド服だったことが一番の衝撃でしたね。そんなに王妃教育って厳しいんだって」
「あ、メアリーでもそう思ったんだ」
「えぇ。まぁ、あのエテルナ王妃の事ですから、ただ単にコスプレさせていただけの可能性もありましたが、それにしては、生地がペラペラの安物だったので、その線は捨てました」
なんだかんだ言ってもメアリーってちゃんと見てるのね。ちょっと見直したわ。
「そういえば、お父様もあぶり出しの文字を入れていたのよね」
「えぇ…。旦那様と同じ……」
そんな露骨に嫌そうな顔しなくてもよくない? まぁ、お父様の場合は牛乳で書いてあったのよね。ちょっと臭い。
「で、なんて書いてあったんですか?」
『エテルナ王妃に暗殺者を仕向けられたから、ちゃんと守るんだよ』
まぁ、その暗殺者はプロじゃなくて、脅して仕向けられたディンゴちゃんだった訳なんだけれども。
「これこそ、直接言った方がよくないですか?」
「私もそう思うんだけど、まぁ結果オーライだったし。いいかな」
「クリス様は寛大すぎます。もう少し怒ってもいいんですよ」
「そうすると、メアリーには説教しないといけなくなる訳だけれども、いいの?」
「この話はやめにしましょう」
私の心は海のように広いのよ。ちょっとやそこらのことでは怒らないわよ。それに、怒って変な皺作りたくないしね。
それにしても、やっぱりメアリーはお酒苦手なのね。ほぼ水かなってくらい水で割って飲んでいる。あんなの美味しくないでしょうに。
そして、暫くメアリーとここ一ヶ月何があったのかをいろいろ話し合っていたんだけど、メアリーはお酒に弱いのか、段々と呂律は回らなくなり、目もトロントして、顔が上気している。
あんなうっすい水みたいのでよくそこまで酔えるわね。
私はというと、二回ほどおかわりして飲んでいる。いやぁ、すっごく美味しいのよ。流石は国王様。いい酒飲んでるわ。
「あら、もう眠いの? じゃあそこのドレスあげるから着て先に寝てていいわよ」
「ぅえ? これぇ…わらしにはぁ…ちっさすぎてぇ〜………着れませんっ! ……特にぃ……胸のところがぁ……きつくてむりですぅ…。クリスしゃまの匂いがするけどぉ……すんすん………」
盲点だったわ。あのクッソ重いドレスをメアリーに着せれば、寝ている時に抱き枕にならずに済むなと思って着せようとしたんだけど、そもそもサイズが違うから着られなかったか…。
しかし、酔い潰れたメアリーが私の代わりにドレスを抱いて寝落ちしたので、今日はゆっくり眠ることが出来そうね。
明日以降どうするか考えないといけないわね。
そんなことをお酒をチビチビ飲みながら考えていた。
この世界に来初めて、久しぶりにお酒をゆっくり飲めてとても楽しい。
本当はもう少しワイワイやりながら飲みたいんだけど、こうして一人静かに飲むのもいいね。
メアリーが寝落ちしてから一時間くらい経っただろうか。
まだまだ夜は長いというのに、もったいない。
そうだ。月でも見ながら飲むというのもオツなんじゃないかな?
そう思って、窓の方へ回り込んで外を眺めた瞬間、後ろからガバッと抱きしめられた。
「ちょっ! 溢れる………って、メアリー……寝たんじゃないの?」
「むぅ……。折角クリス様と二人きりなんですよぉ? 普段できないことをしないといけませんよね?」
呂律は戻っているが、まだ目がトロントしている。それよりも妙な色気がある。
赤らめた顔と少し潤んだ瞳。そして艶のある唇が普段のメアリーとは別人のように見える。
「め……メアリーさん?」
「そんな他人行儀なの悲しいです……おいおい……」
態とらしくさめざめと泣きマネをするメアリー。
体重をかけてきてあぶない。零したら勿体ないので、残りのお酒を一気に呷る。
「〜〜〜〜〜!!!」
流石蒸留酒。喉があっつい。これは一気に酔いそう。
そんな事を気にしていたら、メアリーがグラスを持つ手を掴み、もう片方の手でグラスを取り上げ、その辺のチェストの上に置いた。
「ふふ……。クリス様ぁ。女の子同士一緒に楽しみましょう?」
あ……これ絶対に逃げられないやつだ。
ベッドの上に押し倒されて、強引にキスをされた。
「ふふ……。まだまだ夜は長いですからね」
「ねぇ…やめよう? ね?」
「嫌です」
「嫌いになるよ?」
「そんな心配いりませんよ。きっと好きになります」
すごい自信だな。私が何を言っても聞いてもらえず夜は深まるのだった。




