60 騒がしい食事会
その後、夕食に呼ばれたのはいいんだけど、まさか王族と一緒に食べることになるなんて思わなかったわ。
まぁ、王族じゃなかったら、一体誰と食べるんだよって話よね。考えなくてもわかる話だったわ。
「いやぁ。かわいいなぁ…。義父と呼んでくれていいんだよ」
「とても恐れ多い事です…」
「あなた。私だってまだ呼んでもらってないのよ」
「なぜエテルナより先に呼ばれたらダメなのか分からないが、まぁ追い追い…な?」
こちらをみてウインクする国王様。ただ苦笑いするしかない。
そんな国王様がさっきからずっと、一方的に私を褒めちぎるから、非常に気まずい。
「そ…それよりも、レオナルド殿下はどうしたんですか?」
「あぁ…それがねぇ? 熱出しちゃったみたいで、今自室で寝ているわ」
「そうですか…。大丈夫ですか?」
「んー…多分大丈夫だと思うわ。心配してくれてありがとうね」
「いえ…」
メアリーの事だから、どこかに雑に置いてきたんじゃないかと内心ヒヤヒヤだったのだが、ちゃんと運んだようだ。流石にそこまではしないよね?
「レオナルドが羨ましいよ。ワシも熱を出したら看病して貰えるかね?」
「ふふふ…。あなた何言ってるの? あなたが熱を出したら地下の氷室の中に放り込んでおいてあげるわよ」
うーん。夫婦仲が上手くいってないんだろうか?
まぁ、そんな事よりも一番気になって仕方がないことがある。
「どうしてメアリーがいるのかしら?」
「何いってるんですか? 今の私は客人。クリス様いるとこ私ありです。何かおかしいこと言ってますか?」
「いや……うん……うん?」
メアリーの堂々とした態度は凄いね。誰もが緊張するこの場においていつもどうりに振舞っているんだもの。というか、よく同じ席に着こうと思ったね。私ですら遠慮したいくらいなのに。
他の王家の人達も特に気にもとめずに粛々と食事をしている。
あれ? 気にしてる私がおかしいのかな? でも、控えているメイドさん達もおかしいって顔しているし。後で根掘り葉掘り聞かれないだろうか…。
しかし、こういう場にあったドレスがあったはずなんだけど、胸元が寂しいからか首元から隠すようなドレスを着ている。
今は、女の子やってるんだから、多少あってもいいと思うのよ。なんでまな板なのよホント。あの駄女神め…。
隣のメアリーを見るとまぁ見事におっきい島が浮かんでるわ。悔しい。
私の視線に気づいたのか、メアリーがそっと耳元で「お楽しみはデザートのあとで」なんて言ってきている。何を勘違いしたいるのかしらね?
ライオネル殿下とルキナ王女とも初めての会食なんだけど、なぜか二人とも静かだ。まぁ、変に絡まれないだけいいんだけど、ちょっと疎外感を感じる。
そんな時、後ろから抱きつこうとする人がいた。
「クリスちゃん〜寂しいなぁ」
デロンデロンに酔った国王様が絡んできた。この短時間でこんなに出来上がる普通?
「あなた!」
王妃様がダンッとテーブルを叩きながら立ち上がる。
「もう〜そんなに怖い顔するとシワが増えるぞ? なぁクリスちゃん?」
「い…いやぁ……」
「あぁ?」
ああ…早くこの場所から逃げ出したい。
そんな気持ちを汲むことなく、国王様は尚も話し続ける。
「レオナルドの婚約者なんだから〜、義父っていって欲しいなぁ〜なぁ〜〜〜」
この人が国王様じゃなかったら多分蹴り飛ばしているかもしれない。絡み方が非常に鬱陶しい。
国王様への好感度が爆下がりしている中で、国王様が何かに気づいたようだ。
「あぁ、済まなかった。そうだよなー。まぁ、これでも飲んで、な?」
「!」
手に持っていた琥珀色の酒瓶を私の方へ差し出してきた。
「あっ! い…戴きますお義父様」
なんだいい人じゃん。お酒を勧められたら飲まないわけにはいかないわよね。そうよ。これはこの国で一番偉い人からの勧めだもの。飲まなきゃ失礼ってもんよ。
すかさず空いてるグラスを両手で持って差し出す。
「おっ! 嬉しいねぇ。パパんのお酒飲んでくれるんか!」
「ダメに決まってるでしょう!」
いつの間にか国王様の後ろにいた王妃様が、さっと酒瓶を取り上げ、テーブルの上に置き、国王様の耳を摘みながら連れ去っていった。
「あなたはいっつもそう。酔っ払うとすぐバカみたいな行動するんだから!」
「ちょ…痛い痛い。離してくれエテルナ。ワシが悪かった。悪かったから、な?」
「今日という今日はダメよ。一度話し合う必要があるわ。全くもう…。クリスちゃんの前で何て失態を演じるのかしらね!」
「いや、つい……な…」
「つい…で、子供にお酒なんて飲ませちゃダメに決まってるでしょ! バカなの? ねぇ、ホントバカなのあなた?」
「そ…そこまで言わんでも良いではないか……だって飲みたそうにしていたから」
「そんな訳ないでしょ! 何でそんな判断も出来なくなるくらい飲むのよ!」
「というか、痛いから離してくれ……」
王族とは思えない位騒々しい。怒った王妃様に耳を引っ張られながら国王様は半泣き状態で部屋を出て行った。
ドアがゆっくり閉まると同時に室内は一気に静寂に包まれた。
「……そ、その…父がすまない」
「……えぇ。うちの恥部を曝け出してしまって申し訳ないわ」
「……いや……はい。大丈夫です……」
こんな返しでいいのか分からないけど、とても気まずい。
そんな中、空気を読めないのが一人。
「クリス様、それ食べないんですか? もらってもいいですか?」
「メアリー……少しは空気を読みなさいよ」
「ははっ! 何いってるんですかクリス様? 空気は吸うもんですよ?」
道理で空気が読めない訳だわ。
というか、さっきメアリーが止めればよかったんじゃないかしら? こういうところが従者らしくないのよ。
そんなメアリーは、私から奪ったローストビーフを口いっぱいに頬張っていた。
「リスみたいな顔して……」
「もう返せませんよ?」
「いらないわ」
そんな様子を見ていたライオネル殿下とルキナ王女が苦笑いしていた。




