32 エピローグ
「クリスは今、殿下達とお遊戯中かな?」
レイチェルの元へジェームズがゆっくりと近づいてくる。
「えぇ、そうよ。もう少し親娘で一緒に居たかったのだけれど仕方ないわね」
「それにしても、レイチェル…。その格好はなんだい? 凄い扇情的だけど、もしかして誘ってる?」
「そんな訳ないでしょう。アンジェも一緒よ」
「つまりどういう事?」
「趣味よ」
全く答えになってないなと思ったジェームズだが、詮索しても無駄だと思い、話題を変える。
「そうなんだ、残念。それはそうと、耳に入れておきたい事があってね………。おっと。みんな丁度揃ったようだね」
その場に、サマンサとメアリー歩いてくる。
「クリスには伝えなくていいのかしら?」
サマンサが、これから何を言うのか察したように尋ねる。
「時期をみて言うさ。今はまだ言えないからね。それより、やっとあの二人が口を割ってね。ホント、しぶとくて疲れたよ」
「そう。で、どっちだったの? 赤い方? 青い方?」
「赤の方だったよ」
「そう強欲王の方なのね。でも、それにしては今回は随分と杜撰じゃない?」
「そうなんだよね。うちの領って結構離れているんだよね。それなのに態々殿下を攫いにきた訳で…」
「別の目的があったんじゃない?」
「いや、聞く限りは、あの頭ってのを唆して殿下を浚う予定だけだったらしい」
「まぁ、最近よく来るからね。狙われても不思議じゃないよね」
一国の王子が頻繁に一伯爵家に遊びに来ること自体がおかしいのは今更なのだが。
「そういえば、あの店の地下通路は何だったの?」
「あれは昔からあったらしいね。店主も最近入ったばっかで知らなかったらしいね。そんなものを何故知っていたのか。謎だよねぇ…」
家主とその家族を一週間近く監禁して拠点にしていたのだ。何かしらの理由があって然るべきだが、その答えは引き出せなかったらしい。ただ単に黙っているのか、あそこを使えと指示されただけなのか。もうこれ以上は情報を引き出せそうにないらしい。
「ま、クリスが無事だったんだから今回はよくない?」
「いや、私はこの後、上司に報告があるんだよ。分かんないままだとちょっと…」
「頑張って、あ・な・た!」
「他人事だと思って…」
「じゃあ、もう報告は終わりよね?」
「一応はそうなるね」
肩を竦めて、同意するジェームズ。
「じゃあ私たちはクリスに混ざってゲームしてくるわね」
ルイス、サマンサはそう言って屋敷の方へ歩き出す。
「大会の時みたいにイカサマはダメだよ、サマンサ」
「何の事を言ってるのかしらお兄様は。あれは実力よ」
「そういう事にしておこうか。クリスにはバレてるみたいだけどね。それはそうと、今更なんだけど、クリスって何か人が変わったような気がするんだけど…」
「ホントに今更ね、お兄様。でもいいじゃないクリスが変わったって、私のかわいい妹には変わりないわよ?」
「いや、一応弟だけどね」
すかさず訂正を入れるルイス。
「それに私は、今の方が好きよ。いつだって私を楽しい気持ちにさせてくれるもの。きっと楽しいのは今だけよ? だったらもっと楽しまないと損じゃない? ほら、お兄様行きましょう。きっとまた何か面白いものをやっている気がするわ」
そういってサマンサはルイスの手を取って、屋敷へ向かっていった。
ルイスは連れられながら、何かを考え始めていた。