57 駄犬メアリー
あの後、結局メアリーのわがままは収まらず、一旦時間をおいて話し合いをする事になった。
でも、今日はもう無理だろうなぁ。
あの王妃様でさえ、最終的には疲れた顔して生返事するだけだったもの。何ていうか、早く終われって感じで投げやりになっていた。よく怒らなかったなと感心しているくらいよ。
ああいうのは後で反動が怖いのよ。向こう見ずなメアリーの行動や言動が私に返ってくるのよ。きっと。
私用に充てがわれた部屋へ行く間、デルタさんとディンゴちゃんを牽制しながら、私を抱きかかえながら歩いてきたのだ。
そもそもどこに部屋があるのか分からないでしょうに…。
部屋に着いた頃には、抱かれ疲れでもうぐったり。こんなに地上から足を離していたのは初めてよ。
メアリーはしっしっと払うように二人を追い出していた。
流石にこれは咎めるべきだろうと、メアリーへ向き直る。
「メアリー、さっきからずっと失礼じゃない? 一応うちのメイドなんだからちゃんと弁えてもらわないと! 従者が勝手してたら主の資質が疑われるでしょ? 王妃様が寛大だからいいけど、普通なら牢獄行きよ? 分かってる? ここではちゃんと慎ましく節度を守ってもらわないと。私と会えて嬉しくて浮かれてるのは分かるわよ? でもね、毎回そうだけれど、自分さえ良ければいいという考えは改めるべきだと思うの。そのうち誰も守ってくれなくなるわよ?」
「あっ…そ…そう………ですよね。すいません……」
私が強く出ないと思っていたのだろう。叱責されしゅんとなっている。
耳と尻尾が垂れているのが見えるわ。
その瞬間どこからかパチパチと拍手の音が聞こえた。
音のする方へ振り返ると、デルタさんとディンゴちゃんがドアの隙間から一部始終を見ていたらしい。感心したのか朗らかな顔で拍手していた。
そして、それで溜飲が下がったのか、ディンゴちゃんはサムズアップとウインクを。デルタさんは軽く一礼してドアを閉めていった。
やっぱり、あの二人も内心イラってきていたのね。
暫く帰れそうにもないから、メアリーとここで過ごす以上は、一般常識を叩き込む必要があるわね。
こんな事をずっと続けていたら、私のイメージが悪くなりそうだもの…………。あっ、別にいいのか…嫌われても……。いや、ダメでしょ。ダメダメ。
一瞬、嫌われて王城出禁、婚約破棄までイケるかなと考えたけど、謎の力で感じ悪いまま有耶無耶にされそうな気がした。メアリー一人が悪くなればいいけど、主である私のイメージが悪くなるのは避けたい。
変な噂が一人歩きする気がしたので、ここは気を引き締めていかないとね。
ここで暮らしていく以上最大の障害になりそうなメアリーを説教しないと、平穏が訪れない。
「メアリー…」
「はいなんでしょう」
ピンと立った耳とぶんぶん振り回された尻尾が見える。この駄犬に今から躾をしないといけないわね。ここは心を鬼にしてメアリーに向き合うのだった。
*
長々と説教していたら、いつの間にか夕方近くになっていた。
またもやお昼ご飯を食べ逃した。今日のメアリーのせいで、他のメイドさん達も気を使って呼びに来なかったのだろう。或いは、私が説教に没頭していて無視しちゃったのかもしれない。
そんなメアリーは、まさかここまで怒られると思ってなかったのか、完全降伏のポーズを取っていた。
…………よく見たら突っ伏して寝てるわね。こいつは……。
一体いつからこの状態だったのか分からないが、馬鹿馬鹿しくなってしまったので、このまま放置してお風呂に入る事にする。
メアリーは一度寝たらなかなか起きないから、今のうちにゆっくりとお風呂に入ってリラックスしましょ。




