54 そろそろ終わりにしましょう
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その後、ラムダさんと一緒に王妃様の執務室に戻る。
「あらあらまあまあ。すっごく可愛いわね。クリスちゃんって濃いめの青いドレスが似合うと思ってたのよ」
それには私も同感です。私が一番可愛く見える色だと思います。
濃い青地に、水色。白、黒、金色がアクセントで入ってる。かなりいい生地を使っているし、デザインもいい。
……ですが、それよりも別の事が気になって仕方がない。
朝から今の時間まで、あんなに私を毛嫌いしていた上級メイドの人達を見ないのだ。一体どこにいったのだろうか?
ラムダさんだけが忙しなく動いている感じだ。
つい気になって聞いてしまった。
「そういえば、あのメイドさん達はどうしたんですか?」
それに対し、王妃様が軽くにっこり笑って答える。
「あぁ…彼女達ねぇ…。残念なことにね。辞めちゃったのよ」
「えっ!」
上級メイドともなれば、それなりに色んなところに影響力を波及出来そうなのに。
「ふふ…。なんかねぇ、クリスちゃんがレオちゃんの婚約者だとか、オパールレイン伯爵家の次女♂だってのを知って、みんな青い顔して退職願を持ってきたわよ」
あぁそうか。私が平民だと思って嫌がらせしてたんだっけ? そういう選民思想みたいの良くないと思うのよ。
尚も楽しそうに王妃様は語る。
「朝一で逃げるように出て行ったわよぉ。あの子達どうするのかしらね? 帰る場所なんてあるのかしらね?」
うっすらと開けた瞳は全然笑ってない。
「それでねぇ。ほとんどの子が辞めちゃって手が足りてないのよぉ。ラムダもいつもよりミスが多いしね」
いや、この人の場合は素なんじゃないかな?
「それでね、私思ったのよ。上級とか下級とか分けているのっておかしくない? ずっとバカバカしいって思ってたのよ」
確かに。でもまぁ、下手に色んな人入れるとセキュリティ上問題が出るとは思うんだけどね。
「ということで、じゃじゃ~ん。入ってきていいわよぉ!」
王妃様がそう言うと、扉が開き、何人かのメイドさんが入ってきた……って、えぇ!
「いやぁ、なんか照れるな」「こんないい服着たの初めてよ」「緊張するにゃー」「こら、勝手に私語を話すなと…」「あっクリス…」「うぉ! ホントだ」「まるでお姫様じゃない」「こっち目線くださーい」
今まで一緒に仕事していた仲間達が上級メイドの服を着て入ってきた。
「人手が足りないなら、一緒にしちゃえばいいのよ。クリスちゃんのお陰でみんなすっごい仕事出来るってのを知れたんだもの。ね?」
ウインクする王妃様。凄く若く見える。
入ってきたみんなも照れくさそうにしているけれど、それに慣れないといけないのよ?
「これがサプライズの一つ目。みんな忙しいのにごめんねー。戻っていいわよー。あ、あなただけは残ってもらえる?」
そう言うと、みんな恭しく礼をして出て行った。
あんなガサツなのに、一体いつの間にあんな優雅に動けるようになったのだろう。
そんな中、一人だけ残されたディンゴちゃんが気まずそうに立っている。
「ふっふっふ…。サプライズの二つ目は、この子にクリスちゃんの専属メイドになってもらおうと思いまーす」
ディンゴちゃんの両肩を掴んでニコニコする王妃様。
あぁ…そういう事か…。
私が軽く頷くと、王妃様の口角が上がった。
「ディンゴちゃん……」
「く……クリス……様……」
あぁなんだろう。様付けされると一気に距離感じちゃうなぁ。
顔を赤らめ照れるディンゴちゃんを抱きしめる。
「えっ! えっ!」
凄く戸惑っている。でも、このくらいで戸惑ってもらっちゃ困るのよね。
そのまま、ディンゴちゃんのメイド服のスカートを掴みゆっくりと持ち上げていく。
「そ…そんな。クリス…王妃様の前でそんな事っ」
「ふふ…かわいい…」
「ぁう………」
耳元に息を吹きかけるように囁くと、びくんと震えるディンゴちゃん。
そのままスカートを腰高まで持ち上げる。
と、同時にディンゴちゃんがふともものガーターリングに忍ばせたナイフを取り上げる。
「あっ……」
「ごめんねディンゴちゃん。やっぱり見過ごせなくって」
掴んでいたスカートを離し、ディンゴちゃんに向き直る。
「い…いつから気づいてたの?」
「うーん。寮に来た日かな…」
「なんだ…最初からバレてたんだ……」
「まぁ…ね。でも、ナイフを忍ばせたのは今日が最初でしょ?」
こくんと観念したように下を向くディンゴちゃん。
床に一つ二つと水滴の跡が出来る。
「でも…私がやらないと…家族が……」
「そうだね」
「くっ…クリスには他人事かもしてないけど…」
「そんな事ないわよ」
そう言ってもう一度、慈しむようにディンゴちゃんを抱きしめ、背中をポンポンと叩き、最後に頭を撫でる。
王妃様とラムダさんが手を握りしめてわふわふ言っているが、ここは我慢して続ける。




