53 王妃様の手の上で遊ばれるクリス
重い…。
あれ、ドレスってこんなに重かったっけ? 暫く簡素なメイド服しか着てなかったから、凄く動きづらい。
おかしいな。前世も含めてずっと着ていたというのに、たかだか一ヶ月程度でこんなに変わるものなんだろうか?
スカートを掴み持ち上げる。凄い重厚感。重い。布の総量どのくらいなんだろう。持ち上げている腕がプルプルしてるし、持ち上げている感覚がない。
もしかして、少し痩せたのかな? 筋肉が減ったんだろうか。歩くだけでドスドス音が聞こえてきそうだ。立っているだけでも辛いのは初めてだ。
もしかして、風邪気味で体調悪いのかな?
「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
「そう…ですね。ちょっと重いです」
「ですよね…」
ですよね? あれ、この人大丈夫なのかな?
そんな時、部屋の扉が勢い良く開けられた。
「もう遅いわよ。着替えるだけでどんだけ時間かけるのよ………って、ラムダ……そのドレスはないわ。式典にでも出るつもり?」
王妃様がこれまた酷い棒読みをする。
「いえ…寒そうだったので、なるべく温かいものをと思いまして」
「それじゃあ動けないでしょ? いくらクリスちゃんの趣味嗜好が特殊だとしても、そのドレスじゃ日常に支障をきたすわ」
いったい私をなんだと思っているんだろうか。まぁ、なんというかお人形さんになった気分で悪くはないんだけど、動けないのは流石にいただけない。
「分かりました。ではこちらはどうですか?」
「うん。それならいいんじゃない? 最初からそれにすれば良かったのに」
王妃様とラムダさんが終始棒読みで話すので確信した。これ予定通りなんでしょ?
「あの…王妃様?」
「何かしら?」
「着替えるんですけど…」
「知ってるわよ」
「じゃあどうして?」
「そりゃあ見てみたいじゃない? クリスちゃんのクリスちゃんを」
中々部屋を出て行かないと思ったら、とんでもない事言い出したよこの人。
王妃様は早く脱ぎなさいといった感じでわくわくしている。
その横でラムダさんが気まずそうな顔しながらチラチラとこっちをみている。
「別にいいですけど、今とある事情でついてませんからね」
「へぇー。ふーん。そうなんだぁ」
あ、信じてないですねこの人。
それはそうと言われるがまま着たこのドレスなんですが、一人で脱げないんですが。後ろの編上げ部分を解いてもらわない事には脱げません。
「あら、よく考えたら手伝わないといけないわよね」
「そうですね」
「じゃあ手伝ってあげるわ。うふふ…」
もしかして、このドレスを着るよう仕向けたのは王妃様なんじゃないだろうか?
うちのお母様も着せ替えごっこが大好きだけど、もしかしてこの人の影響なんじゃないかな?
手をワキワキさせながら脱がせようとする王妃様。
そんな時、またもや扉が開け放たれた。
「クリスがここにいると聞いて……あっクリス!」
助かったのかなこれ? レオナルドがニパーッと満面の笑顔で駆け寄ってお腹のあたりに飛び込むように抱きついてきた。
圧倒的布地の前に倒れる事なく、スカートの中に埋もれるレオナルド。
「えっ! えっ!」
スカートの中でもがくレオナルド。そのまま滑り落ちて床に突っ伏すレオナルド。
「???」
「ごめんねレオちゃん。この後ちょーっと用事があるの」
「うぅ…」
しょんぼりするレオナルド。
「では、着替えますので王妃様もどうぞあちらでお待ちを」
「いや、私は…」
「母上?」
「ぐっぐぐぐ…」
一体何がしたかったのか、悔しそうな顔をして部屋を出て行った王妃様とレオナルド。
「じゃあラムダさん。今度は正しい方のドレスをお願いできますか?」
「気付いてたんですね…」
この人も苦労してるんだろうな。
その後、ちゃんと用意されていた青を基調としたドレスに着替える。
そうよ。これよこれ、こういうのでいいのよ。これなら軽く二メートルくらいはジャンプ出来るわね。さっきのが重すぎたから、逆に今何も着ていないかのような感じがするわ。
気分も軽いので一回転してみる。スカートがふわりと広がりながら回る。
「お美しいです」
「ありがとう」
「では、こちらのドレスは寝室にパジャマ用として置いておきますね?」
「えっ?」
もしかして夜に突撃するんですかね? まぁ、あったかそうではあるんだけど肩凝りそうだな。




