52 王妃様は朝から忙しいらしい
翌日、王妃様の執務室にて―――――
「昨日の今日で悪いわね。すぐに終わらせるから待っててね。つまんない仕事をちゃちゃっとかたしちゃうから」
忙しそうに書類仕事をしている。ペーパーナイフで開けて中を確認し、サインをしたり印鑑を押したりしているって事は手紙かな。毎日あれだけの量が届いてそれを確認するのは骨が折れそうだ。
「あの…」
「何かしら?」
書類から目を離さずに答える王妃様。
「その…こういうのって国王様がやるものだと思ってたので…」
その言葉に動きを止めて、にっこり微笑みながら私をみつめる王妃様。
「そうね。本来ならそうなのよ。でもね。あの人にやらせるとロクでもない事になっちゃうのよ。だから今では私が全部受け持っているのよ。例えば、レオちゃんとあなたとの婚約とか」
一瞬、雑音全てがかき消された感じがして、体の芯から急激に寒くなっていくのを感じた。
「あぁ別にそんな責めているわけじゃないのよ。私はクリスちゃん大好きだし。本当に義娘になって欲しいってのは本心だしね」
うちのお母様とは違った怖さがあるわ。
「あぁもうそんな顔しないで。ね? それにクリスちゃんにはお世話になっているのよ。本当よ?」
「そう…ですか?」
「そうよぉ。あの薄い本を毎晩読む事によって元気になるもの」
「「お…王妃様?」」
私と控えていたメイドさんが同じタイミングで戸惑う。
「な…何よ。ちょっと空気が悪くなったからジョークを言っただけじゃない。本心だけど…」
それはジョークとは言わないんじゃ?
それから暫く、王妃様は再び書類に目を通し始めた。さっきよりも速度が早くなっている気がするけど、気のせいよね。
そんな中、一通の手紙を見ると、頬杖をついて、よりつまらなそうな顔をしてその手紙を別のところへ置いた。
続けて開けた手紙を読んだ王妃様は、さっきと打って変わって失笑する。
「…ふふっ。なんだ終わってるじゃないの…」
そして、先ほどの手紙の上へ重ねて置いた。
そして最後の手紙の封を開けて中身を確認すると、片眉をピクッとあげる。
「あら。これ私宛じゃないわね」
そう言って立ち上がり私に手紙を手渡す。
「これクリスちゃん宛だったみたい。ごめんね開けちゃった」
「は…拝読いたします」
どうして私宛の手紙が王妃様のところに紛れ込んでいたのかしら? そもそも今ここにいる私に誰が手紙を出すというのかしら?
渡された手紙を読む。
「なるほど」
顔を上げると、王妃様が『何かお願い事があるんでしょ?』といった顔で待っていた。
「王妃様、一つお願いがあるのですが」
「えぇ。聞きましょう。ただ、その前に…」
「?」
「どうしてそのメイド服で来たのかしら?」
「あ……癖ですかね…」
小さく鼻息を漏らした王妃様はパンッと手を合わせていたずらっ子みたいな顔をする。
「その前に、正しい格好をしましょう。ラムダ」
「はい王妃様」
控えていたラムダと呼ばれたメイドさんが恭しくお辞儀をして一歩前へ出る。
あ、この人って、壁ドンされた時にメチャクチャ頭下げてきた人だったわ。
向こうもその事を思い出したのか、ハッとした顔になった後、再び頭を下げていた。
「ラムダはもう少し自信を持てればいいのにねぇ…。メイド長なんだから」
この人上級メイドのメイド長なのか。なんか他の人が助長するのも分かる気がする。
「えっとね、クリスちゃんに会うドレスを用意して欲しいの。あと、今日から過ごすお部屋もね」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
「お話は着替えた後でね」
妖艶な微笑みで手をひらひらさせる王妃様。あれはきっと何か企んでいるんじゃないだろうか?
嫌な予感が的中しませんように。




