51 今日こそはと思ったのに
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「いいのか、クリス? こっちに来ちゃって」
「いいんですよ。最後くらいみんなで馬鹿騒ぎしてねと王妃様が取り計らってくれたので」
「そっかそっか。じゃあ今日は朝までみんなで飲めるな」
本当なら王城の客室を用意してもらえるんだろうけど、どういうわけか全ての部屋が埋まっているとかなんとかで空いていないんだそう。
実際のところは別の理由なんだろうけど、折角こうしてみんなで楽しめるんなら、彼女達にも感謝よね。
私も思う存分お酒が飲めるし。まさにウィンウィンよね。
という事で、早速目の前のワインに手を伸ばそうとしたところで、瓶を取り上げられた。
「おいおいクリス。ダメだぞ」
サガさんに瓶を取り上げられてしまう。
「そうだな。クリスはまだ子供なんだから、こっちにしておけ」
そう言ってドンドンと目の前にオレンジやグレープ等のフルーツジュースの瓶が置かれていった。
「別にいいじゃないですか。今日くらい」
「ダメだぞ」「ダメだな」「ダメにゃ」「ダメです」「ダメに決まってるだろう」
周りから一斉にダメと言われてしまった。なんでだ。あそこにいるどう見ても子供な見た目の人も飲んでるんだからいいじゃないか!
そっちの方を見ていると、その視線に気づいたのか、軽く嘆息するサガさん。
「ふぅ…。インスピラとペルトか。あれ子供に見えるだろう? あれでも私より十歳も年上なんだぞ。まさに合法ロリとでも言うのかな。あの見た目だから、貴族とかからも求婚されるのに、性格が災いして未だに……」
「聞いてるわよサガ。ちょっと説教が必要ね。来なさい」
「そうよ。それに私の性格じゃなくて、あっちの性癖の問題よ」
逆らえないのか、素直に近づき何度もペコペコしながら謝るサガさん。あれは当分戻ってこれないだろう。
「ホント馬鹿よね。言わなきゃいいのに。ねぇ」
ねぇ。って、同意を求めないでくださいよ。
そんなウィラさんはもう出来上がっているのか、間違えて私のコップに入ったジュースを飲み干す。
「なんだぁこれぇ? ジュースじゃないか!」
あなたが置いたんですよ? もうお忘れですか?
「ほら、こっち飲めよ!」
「! いただきます!」
絶好の機会が巡ってきたわ。飲めと言われたら飲まないわけにはいかないわよねぇ。ふっふっふ。
「ダメに決まっているでしょう。全く…。飲むと記憶を失うんですからホントにどうしようもないですね」
メイド長がお酒がなみなみと注がれたコップを取り上げてしまった。
「あっ…」
結局、新しいコップにジュースを注がれ、未成年スペースへと追いやられた。
と言っても未成年なのは私とディンゴちゃんの二人だけなわけで…。
「不満そうね。何でそんなにお酒飲みたいのよ」
何でと言われても…。なんでかしらね? 好きだからとしか言えないわね。
軽く小首を傾げると、溜め息を吐かれた。
「はぁ…。全くもう…。こんなんだから平民と間違われるのよ?」
「いや、うちはみんなこうよ?」
「何? もう酔ってるの?」
そんなにおかしい事言ったつもりないんだけどなぁ…。
その後、酔っ払ったみんなが思い思いに思った事を言い合っていた。
「それにしてもクリスがねぇ…レオナルド殿下の婚約者だったなんて」「平民にしては整いすぎてるなと思ってたんだよ」「そうそう。お貴族様なら納得だね」「普通ならこんな事したらあたしらクビだよ」「いや、全員打ち首の可能性もあったにゃー」「クリスで良かったよ。あっはっは…」
みんな思い思いの感想を言うが、まぁ、普通の貴族ならそうかもね。上級メイドの人達を見たらその可能性もあるもんね。
まぁ、私は根が小市民だからそんな事しないんだけど。
そんな中一人だけ暗く落ち込んでいる人がいる。
「どうしたの? 元気ないね。ほら大好きな唐揚げあるよ」
「クリス……」
同じ部屋のディンゴちゃん、一月以上一緒にいたもんね。
「もうそんな落ち込まないでよ。私にいい考えがあるからさ」
「いい考え?」
「そうよ。明日王妃様にお願いしてみようと思ってね」
「そっか…。ねぇ、今日一緒に寝てもいい?」
「もう甘えん坊さんだなぁ。いいわよ」
そして、みんなが飲んで騒ぎまくっている中、少し早めに抜け出してディンゴちゃんと一緒に寝たのだった。




