49 もう少しうまくやりなさいよ
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うちでも見た事の無いような高そうな部屋に通された。
私はというと、安っぽいメイド服のままだ。すごい場違い。
王妃様にどうぞどうぞと勧められるがままソファに座ると、横にくっつくように王妃様が座った。
「あの…一応、汚れてると思うので…」
「そんなの気にしなくていいのよ」
前世から小心者のクリスさんは気にしてしまうんですよ。
しかし、そんなの全く気にした様子のない王妃様は、何とも表現しづらい表情で私の頭や首筋の臭いを嗅いでいく。そんなに汗かいてないと思うんだけど臭かったかしら? そしたら申し訳ないわ。
「なんか、以前のような私好みの匂いが薄くなってる気がする」
えぇ…。この人もそんな事言うの?
「通りでお城にいても探知出来なかった訳だわ」
何で、そんな怖い事言うのだろう。
「まったくどうしてこうなったのかしらね?」
「さぁ…どうしてですかねぇ……」
「ちょっと確認したい事が…」
そう言って手を伸ばす王妃様。
その時、コンコンとノックの音が聞こえ、王妃様が「ちっ…どうぞ…」と言うと、数名の上級メイドがティートローリーにお茶やお菓子を乗せて入ってきた。
舌打ちしたけど、何しようとしたんですか?
入ってくるなり、見覚えのある上級メイド達はギョッとした顔になる。
流石に王妃様の手前、文句を言ったり、睨みつけたりはしないけれど、怨嗟の感覚だけは伝わって来る。
お茶を淹れ終わると、そのまま部屋の中で待機しようとした上級メイド達に、王妃様が退室を促した。
部屋を出る時、めちゃくちゃ睨んできた。そして、口パクで『何であんたがここにいるのよ』『何で王妃様の横にいるのよ。忌々しいわね』『王妃様がいなかったらボコボコにしてやるわ』『くたばれ』等と、かなり過激な事を言っている。おぉ怖い怖い。
王妃様がお茶を一口飲んでいるので、私も飲もうと思ったら、私のだけやたらとお茶の量が少ないんだけど。あからさますぎない?
上級メイド達が出て行ってすぐ後に、再びノックの音がした。
「んもう。今度は何よ…。はいはい。開いてますよ!」
「し…失礼します」
そう言って入ってきたのは頭の薄い侍従の人だ。さっきも会ったし、ここに来た時にあそこの寮へ通してくれた人だったわね。
「マックス…。何か用かしら?」
「はい」
あぁそうだわ。マックスって名前だったわ。
そんなマックスさんは私を見て、少しドキッとしたようだ。
「こちらを…。宛名が無いため、先にこちらで確認いたしました。内容が内容ですので、ご確認を…」
持ってきた手紙の中身を手渡す。少し手が震えている。
手渡された手紙を確認する王妃様。
「あらあらまあまあ…」
そう言っておかしそうに笑う王妃様。
「笑っちゃうわ。これ出したのあの子達でしょう?」
「恐らくは…」
いったい何が書かれていたんだろうと、ちょっと気になる。
その意図を汲んでくれたのか、王妃様が私を見ておかしそうに笑う。
「ふふ……。読んでみる? くっだらないわよぉ」
差し出された手紙には、『厨房で水色の髪の少女が毒を料理に混ぜ込んでいる』といった内容が記されていた。
あぁ…なるほど。料理に毒を混ぜて出せれば万々歳。上手くいかなくても、この手紙を読ませて私を貶めようとしたのね。讒訴なんてつまらない事ばっかりして…。
やっている事がちぐはぐなのは、それぞれの目的が違うからなのね。蛙の子は蛙なのね。
「従者を選べないのって残念よね」
どこか遠くを見つめながら呟く王妃様。
「しかし、どうやったらこんなすれ違いが起きたのかしらね? 不思議だわ」
肩身の狭そうなマックスさん。今すぐにでもこの部屋を出て行きたそうだ。
「でもまぁお陰で、いろんな問題が解決できるから今回は大目に見ましょうかね」
憑き物が取れたような顔をする王妃様。
「そうだわ。クリスちゃんの住むところを決めないといけないわね」
住む? 滞在の間違いではないですかね?
「レオちゃんには、準備が整ってからの方がいいわよね?」
ただ苦笑いするしかできなかった。




