48 王妃教育?
料理長も終わった頃に戻ってきた。
「いやぁすまんすまん。長引いちゃってな。副料理長、大丈夫だったか?」
「お疲れ様です料理長。何とか無事に終わりましたよ。いやぁ、この時期市場にあんなに食材があるなんて思いませんでしたよ。前まではネギと白菜くらいしかありませんでしたからね」
こっちの世界でもそうなんだ。完全に鍋の材料よね。
一応、市場に行ったらいろんな食材があったのよ。流石に季節の野菜とかは無かったけどね。
「あぁ、あれな。汽車だっけ? あれで流通が良くなったからな」
「なるほどですね。流石は料理長。何でも知ってますね」
「いや、これに関してはウィリアムに教えてもらったんだよ」
「へぇ。そうなんですね」
それを聞いていたウィリアムがドヤ顔で私を見る。そもそもその食料を生産してるのはうちとかソフィアのところなんだけど。というのは黙っておくことにする。
鼻歌交じりでお皿を洗うウィリアムと私。
そんな時、聞いたことのある声が聞こえた。
「来ちゃった///」
「おっ……王妃様!」
「ど、どうしてここに?」
「うーん。今日も美味しかったからぁ…。どうしても作った人の顔が見たくって来ちゃった☆」
「あ…そうですか。まぁ、むさ苦しくて狭いところですが…」
「それはセブ爺とビスタが大きいからでしょ? 他の人は普通サイズじゃない」
「むぅ…」
どうやら王妃様が来たらしい。みんな手を止めてそっちの方に体を向けていた。
王妃様? 何か忘れているような。
「あら? あらあらあらあらあら。あららららら〜」
何かを見つけたのか、こっちにずかずかと近寄ってくる王妃様。
横にいたウィリアムを見る。
「いや…多分俺じゃねぇよ」
私とウィリアムの前に来た王妃様はニパーと満面の笑顔になると両手を胸の前でがっしり握りしめた。
「やっと会えたわねクリスちゃん。こんなところで何やってるの?」
「え? お…王妃教育?」
「え?」
「えっ?」
「………………………………………」
暫し無言のまま時が流れる。水道から水滴が落ちる音だけがする。
「……ごめん。え? どういう事?」
「いや、手紙をお父様から渡されたので、ここへ来たら、寮生活でメイドの仕事を案内されたので、厳しめの王妃教育なんだなと思って…」
「?????」
笑顔のまま首を傾げる王妃様。
「ち……ちなみにいつから?」
「一月以上前ですかね」
「……………………………」
王妃様の様子に、料理人のみんなも押し黙ったままだ。
ウィリアムは、一体何をやらかしたんだというような目で私を見る。別に何もしてないわよ。いや、いろいろ体験させてもらったんだけどさ。
「ま…まぁ何はともあれ会えて良かったわ…」
「つらかったわね」と言いながら抱きしめられたけど、別に忙しいだけで大変じゃなかったんだけどな。
しかし、そんな様子に、料理長や副料理長はもちろん。料理人のみなさんはぽかーんとしていて、手伝いに来たメイドさん一行はわなわなと震えていた。
ウィリアムが一人だけ面白そうに笑っている。
「申し訳ないんだけど、クリスちゃんをこっちで引き取ってもいいかしら?」
「…………」
「セブ爺?」
「あっ! あぁ…あっはい。どうぞ。……ちなみにその方は一体……」
どうして急によそよそしくなるのかしら?
「ふふ…。レオちゃんの婚約者よ」
「「「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」」」
皆一斉にどよめき出す。一人ウィリアムだけがつまらなそうな顔をしているのが気になったけど、王妃様に無理やり手を引かれ厨房を後にしたのだった。




