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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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47 あからさますぎない?


     *     *     *


 今日も厨房での仕事なんだけど、趣味と実益が一緒なのはいいね。忙しいけれど凄く充実している。

 今日のシフトはお昼の準備からなので、結構時間に余裕があるので、いろいろ考えてしまう。

 独立してお店やるのもいいかもしれないわね。


 そんな事を考えながら厨房へ向かう廊下の途中で、以前料理長に追い出された男の人達の一人が立っていた。

 「君、少しいいだろうか?」

 「はい。なんでしょうか?」

 「……ふむ。見た目はよし……。言葉遣いも問題ない……」

 何でいきなり値踏みされてるんだろう?

 「(使うのはもったいない気もするが背に腹はかえられないか……)」

 何かボソボソ言っているが聞き取れない。


 「あぁ、なんでもない。ところで、君は平民だろう? こんなところで一生を終えたくないだろう? どうだろうか。私の頼みごとを引き受けてくれれば、それなりの暮らしを保証しよう」

 「はぁ…」

 「実はね、私はメインパイライト侯爵家分家のイーストパイライト男爵家のものなんだがね」

 もったいぶった言い方で男はジャケットの内側から小瓶を取り出した。

 「なーに。簡単なことだよ。この料理がより美味しくなる白い粉を料理に混ぜて欲しいんだ」

 「どうしてそんな事を?」

 「王家の方々には大変お世話になっていてね。是非とも美味しい料理を召し上がっていただきたくてね」

 「そんな物無くても、十分美味しいものを作れておりますので不要です」

 「まぁまぁそんな事言わずに、頼むよ。それとも男爵である私の言う事が聞けないのか?」

 「はい。聞けません」

 「くっ……。そ、そうだ。何も無報酬でやってもらおうって訳じゃないよ。ちゃんとお金もあげるし、何だったらうちの養女にしてもいい。悪い話じゃないだろう?」

 「お帰りください」

 「ちっ…。あのクソジジイと一緒かよ。このクソガキ。見た目がいいからって自惚れんなよ。クソが」

 男は私が了承の意を示さないと、途端に急変し、悪態をついて去っていった。


 「随分とまぁ、レベルの低い……」

 私がそんなんで簡単に靡くわけないでしょうに。しかし、もう少し頭を使うか粘るかしたらいいのに。簡単にボロを出して上手くいくわけないじゃない。

 あの男に構っていたから、変に時間を食ってしまったわね。

 「おはようございまーすって、ディンゴその顔どうしたの?」

 ディンゴちゃんは寒いのか、しかめっ面で変顔をしていた。今日そんなに寒かったかな?

 「あー…気にしないで。顔がこわばってるだけだから」

 「そ…そう……」

 そんな写楽みたいにしゃくらなくても……。

 そうそう。さっきの男が他の人を使うかもしれないので、一応注意喚起しておきましょうか。

 「あの料理長ご相談が…」

 「ああん?」


 「おはようございます。こちら頼まれていたものになります」

 「おう。ご苦労さん。ところで見ない顔だが…」

 「あぁ…、昨日入った新人です。いやぁ、入ってすぐに配達なんてびっくりですよ。ははは」

 いつもの仕入れ業者の人と一緒に若い男の人が食材の入った箱を持ってきた。

 「なんだポニー、随分とスパルタなんだな」

 「は…はは。そ、そうなんですよ。やっぱり最初から厳しくしないと、舐められちゃいますからね」

 「そうか…。俺も随分と舐められたもんだな。悲しいよ」

 「へ? ど、どういう事で?」

 そう言って料理長は、箱に入っていた小さな小瓶を取り出した。

 「ポニー、お前んのところとの契約もこれまでだな」


 一気に青い顔になるおじさん。そして、まずいと思ったのか、脇目も振らずに逃げ出そうとした若い男。しかし、残念。ここは王城の厨房。一番結束の強い所。簡単に逃げられる訳がない。

 「あっ…」

 「奴さんどこへいこうというのかね?」

 「あっちに」

 「あっちってどこだよ。勝手に行っちゃダメだよ」

 「……………」

 「ほら、ここ座る」

 両肩をがっしり掴まれている。動こうと思っても料理長の力には抗えないのか、すぐに押さえ込まれる。


 「しかしポニー…、俺ぁ残念だよ」

 「ち、違うんだ。これは頼まれただけなんだ。俺は何も知らないんだ」

 「お前の所との取引もこれまでだな」

 「待ってくれ! そ、そいつが勝手やった事なんだ。だから取引は…」

 私が予め言わなかったらこうはならなかったでしょうね。

 その時、入口からまた誰かが入ってきた。


 「ちょっといいか? ここで毒物を仕入れているとタレコミがあったんだが」

 三人の侍従のような人が入ってきた。そのうち一人は見覚えがあるわね。

 「あぁ、丁度良かった。こいつを見てくれ」

 若い男を押さえ込んでいて手の離せない料理長は、目線だけで木箱を見るよう指示した。

 侍従の中の一人が、木箱の中の調味料の中から、小瓶を取り出し確認する。

 「なっ…これは!」

 「俺等がそれを分からない筈ないのにな」

 「ち…違うんだ」

 料理長が嘆息すると、業者のおじさんは狼狽えだした。もう、その行動で自白しているようなものよ。


 「という事で、後はそこの二人に聞いてくれ。あぁ、今日仕入れたものは、他にも仕込まれてそうだし、使えないから全部持っていっていいぞ」

 確かに。目立つ小瓶に注目させて、食材に仕込む可能性もあるわよね。流石料理長。

 「うっ…」

 若い男が呻き、諦めたのかガックリと項垂れる。

 しかし、諦めが悪い人が一人、地面に正座で座り込み嘆願する。

 「頼むっ! 俺は本当に頼まれただけなんだ。こいつを一緒に連れて行けと言われただけなんだ。本当だ。信じてくれ」

 「まぁ、詳しい話はあっちで聞くから…」

 「頼むよぉっ!」

 土下座して動こうとしないおじさんを侍従の人が二人がかりで引き剥がして連れて行った。

 かわいそうだけど、仕方ないよね。そこで洗いざらい真実を語ればワンチャンあるかもしれないけど。


 「じゃあ、俺もこいつを連れて行くから。あとは副料理長頼んだぞ」

 「あっ…はい」

 料理長が若い男を両腕で抱えながら出て行った。ぬいぐるみでも抱くかのように連れて行ったわね。

 その後、急ぎ街まで行って食材を買い込んで、何とか昼食には間に合わせたのだった。


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