45 学園に行こう
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あれから線路全線の除雪が終わるのに二日ほどかかり、終わったと同時に王都へ向かった。
エーレクトロンの駅でお兄様達を捨ててきた筈なのに、ちゃっかりと着いてきていた。
「ほう…。ここが王都か…。なかなかだな」
「えぇえぇ。うちの領に比べれば小さいですがな」
「……でも素敵……」
「シド兄様にムック兄様はそういう事言うと後で痛い目に合うわよ?」
「大丈夫だ。ソフィアからの嫌がらせを考えれば大抵の事は耐えられる」
「そうですぞ。メリーはああいう人になってはいけませんぞ」
一体私の事を何だと思っているのかしら?
「それにしても、冬だというのに街中にお花がこんなにも溢れているんですね」
「ホントに素敵ね。うちの街なんて灰色一色だものね」
ステラとシフォンが感激したように言うが、うちの街は機能性を重視してるからあれでいいのよ。
しかし、二人が言うのも納得だわ。雪の白と色とりどりの花の対比が美しいわ。
うちの街でも実践すればいいんじゃないかしら?
グリとグラも、感激したように喜んでいる。
「ここで映画撮りたいわね」
「そうね。もう脚本が頭の中に出来てきてるわ」
しかし、三馬鹿にはあまり響かなかったのか、しらーっとしている。
「それで、学園ってどこにあるの?」
「ディアマンテ城の近くにありますね」
「ディアマンテ城ってのはどこにあるの?」
「学園に近くにあります…っていででででっ!」
なーに芸人みたいな返ししてんのよ。こっちはクリスに会えなくてイライラしてんのよ。クリス成分を補給しないといけないんだから余計な時間使わせないでよね。
その後、まずは小腹が空いたので軽く屋台で食べ歩きできるものを購入して、食べながら学園へと向かった。
「食べ物を購入するなんて、随分と余裕があるっすね」
「腹が減ったらなんとやらと言うでしょう?」
「戦争でもするんですか?」
「しないわよ」
十本目の串焼きを食べ終わる頃には、無事に学園の正門前まで着いた。
「はぇー。やっぱこの目で見ると違うわね。圧巻ね」
「懐かしいな」
そういえば、シド兄はここに通ってたんだっけ。
「で、どうやって中に入るの?」
「考えてなかったの?」
「うん。来たら自然と入れそうな気がしたから」
「ここは各地の令息令嬢は勿論、商家の子供や一般の優秀な子供も沢山いるっす。何より他国の貴族や王族もいたりするから、そんな簡単に入れるわけないっすよ。正直、王城よりセキュリティがしっかりしているくらいっすよ」
めんどくさいところね。そうだわ。
「シド兄はここの卒業生なんだから、入れるんじゃない?」
「なるほど。では、あそこの管理人に聞いてみよう」
そう言って門の横に併設された管理事務所みたいなところに行ったシド兄は一分位で戻ってきた。
「どうだったの?」
「お前誰? って言われた」
学園時代どんだけ影が薄かったのよ…。名簿とか調べてもらうとかあるでしょうに…。
「兄者……」
ムック兄とスケキヨ兄はそもそも入学拒否してるんだから、最初から戦力外よ。
「はぁ…。仕方ないっすね。今度は自分が行ってくるっすよ」
そう言って事務所に近づいた変態は、ものの二、三分で話がついたのか。大きく頭上で丸を描いていた。釈然としない。
私たちもサヴァの元へ歩いて行くと、何やら奥で慌ただしく人が動いていた。
「別に入る必要は無いっす。呼び出せばいいんすよ」
「そりゃそうよね」
事務所内で待つ事十分。
「あら、ソフィアおひさー」
「お久しぶりです。サマンサお姉様」
学園指定? の制服に身を包んだサマンサお姉様が入ってきた。
「あら、随分と珍しい人達もいるじゃない。どうしたの?」
上から下まで改めて見る。なんかゲームの時の衣装とちょっと違くない?
なんというか、ちょっと軍服ワンピース感がある。
不思議な事に、事務員さんや警備員さんみたいな人がみんな端っこで整列している。どうしたのかしら?
でもまぁ、今はそんな事に構ってる余裕は無いので、率直に質問する。
「クリスがどこ行ったか知りませんか?」
「そんな事を聞くって事は、うちにいないのね。……残念だけど私も知らないのよ」
「そうですか……」
「何、急用? こんなとこまで来なくても帰ってくるのを待ってればいいじゃないのよ」
「屋敷には殆ど人もいないし、クリスも一月くらい帰ってきてないそうですよ?」
それを聞いて、ガタッと立ち上がり青い顔をするサマンサお姉様。
「大丈夫ですか?」
「いや…何でもないの……(まさか……でも王妃付きのメイドもいるって事は可能性は薄いか……)ねぇ、あなたエテルナ王妃のお付きよね?」
「はいそうですよ」
「あなたがいるって事は、お城にもいないの?」
「いたら、こんなとこまで来ませんよ」
「あっそ」
眉間に皺を寄せ、腕組み唸りながら考え込むサマンサお姉様。
「……ちょっと私の方でも調べてみるわ…」
そう言って軽く手を上げて挨拶して出て行ってしまった。
その瞬間、室内の至る所やお兄様達から安堵のため息が聞こえた。
まぁ、気持ちは分かるわ。何というか軍部のお偉いさんと話している雰囲気だったわよね。
「ぶっちゃけ、サマンサ嬢に例の件をお願いすれば良かったのでは?」
「あ……」
そうよ。クリスよりサマンサお姉様の方が得意そうな案件なのよね。
でもなー…。あの時の事があるから、おいそれと頼む事なんて出来ないのよね。
「そういえば、呼んだのってサマンサお姉様だけ?」
「いや、ルイス様しか呼んでないですよ」
じゃあ、どうして来たのかしらね?




