44 到着したのはいいんだけど…
まぁ、何はともあれ、無事に着いてよかったわ。
でもなんだろう。人の居る気配がしない。
門から見える通路や庭には大量の雪がそのままになっていた。
「もしかして、みんなでどこかに旅行に行ってるのかしら?」
「そ、それだと困るなー………」
私も困る。みんなでうーんと悩んでいると、どこからかガリガリといったような音が聞こえてきた。
「もしかして雪かきの音?」
「そうかもしれないね」
「雪がひどくてずっと籠ってたって事?」
「とりあえず音のする方に行ってみよう」
門から右手奥の方から聞こえる。確かあの辺は使用人の寮とか孤児院があったはず。
行こうと思ったんだけど、雪が深くてそこまで行けないわ。
「暫く待つ?」
「道具も無いですからな」
暫くここで待とうかという時に、子供達の笑い声がたくさん聞こえてきた。
「もしかして遊んでる?」
「そう……かも」
「よっし。変態さん。声のする方まで跳んで確認してきて」
「えぇっ! さっきの今でですか?」
「そうよ。用事あるんでしょ?」
「……分かりましたよ。でも、こっちが優先でいいですよね?」
「ダメだけど」
どうして自分の用事を先に出来るって思ったのかしら?
「やっぱりソフィアは鬼だな」「いいや悪魔ですな」「……見事な悪役令嬢……」
「分かりましたよ…もう……」
そう言ってパンツを被って、見事なジャンプで跳んで行った。
最初からそうすればよかったのに。でも跳んだ時に丸見えなのよね。
暫くして、子供達の悲鳴のような好奇心に満ちたようないろんな声が聞こえてきた。何をやっているのかしら?
更に待つ事三十分。ガリガリザクザクとした音が近づいてきたので、もしかしたら雪かきをしているのかな?
門の隙間から雪がボコッと飛び出すのが見えた。二、三回雪が飛び出してきたのを確認して、近づくと私の顔面に思いっきり雪玉がぶつかった。
「あははははっ。よくやったっす。上出来っす」
その後もいくつもの雪玉が私にぶつかる。
「…………………………おい、変態………」
「なんすか………って、ひぃっ…」
ひぃっ…って失礼しちゃうわね。まぁ、失礼なのは子供達に雪玉をぶつけるよう指示した変態なんだけどね。
「すいません。魔がさしました……」
そう言ってきていたコートを脱いで土下座する変態。変態的にはご褒美なんだから、謝ってる事にならないでしょうに。
子供達と一緒に変態の首から下を雪に埋めてから、子供達と一緒にいたメイドさん達に話を聞く。
「申し訳ないんですけど、子供達の面倒を見る私たち数名以外はみんな仕事でどこか行っちゃいましたね」
「え…クリスも?」
「はい。確か大体一ヶ月前くらいですかね」
「どこ行ったか知らない?」
「実は私達も知らないんです。他の使用人含めいろんなところに駆り出されているので…」
「そんな……」
「でもおかしいんですよね」
メイドさんの一人が訝しむ。
「どういう事?」
「えっと…、本来クリス様がどこかに行く予定って無かったんですよ」
「そういえば、そうね…。あの日は他にメアリーとビシューとロココが遠方に出張になった筈。三人が出て行った後に伯爵様と奥様が同じ理由で出かけて、その後にクリス様が出かけられた感じですね……」
「誰も一緒に着いていかなかったの?」
いくらクリスが一人で何でも出来るからといって、伯爵令嬢を一人で護衛もお付きも無しに行かせたというの?
「伯爵様が誰も付けずに行かせたという事は何か理由があるのかも…」
クリスの家ってよく分からないのよね。使用人はみんな武闘派だし、何か暗躍してる感じあるし…。
暗躍で思い出した。サマンサお姉様なら何か知ってるかも。
「そういえば、サマンサお姉様は?」
「ルイス様と一緒に学園に行ってますよ」
「じゃあ王都に戻るついでに自分が聞いてくるっすよ」
いつの間にか雪の中から這い出てきた変態が提案する。ちゃっかり着替えまで済ましているわ。
「じゃあ私も行くわ」
「ソフィアが行くなら私達も…」
「お兄様達は戻って、アレに異常がないか見ていてくださいな」
「ソフィアばっかりずるいですぞ」
「そもそもあんなもの作らなければよかった話ですよね?」
「うっ……」
「一体何を作ってるんです?」
「うーん……企業秘密?」
変態とメイドさん達が興味津々にしているが、あれを表沙汰にするわけにはいかないのよ。
一週間も遊んでた間にどうなっているか確認するのも怖いわ。




