42 鍋
*
「はぁ〜っ…………あったまるぅ〜」
結局、どの鍋を食べるかディスカッションした結果、メリーの選んだちゃんこ鍋になった。末っ子が一番可愛いものね。みんなメリーちゃんのお願いは聞いちゃうのは仕方ないのよ。
それにいろんな具が入ってるから丁度いいわね。
そんなちゃんこ鍋を推薦したメリーが私の器にネギと春菊と椎茸を入れていく。
「メリー、ちゃんとお野菜も食べないとダメよ?」
「くぅ…」
お野菜が嫌なら水炊きとかでよかったじゃないのよ。
メリーの器に戻し、ちゃんと食べるまで見張るが、なかなか食べようとしない。
「そ………ソフィア姉様が食べさせてくれるなら食べるです…」
上目遣いでこっちを見る仕草にキュンときてしまった。
「もう仕方ないわね。ほら…あーん……」
「あーん………」
「「「あーん」」」
三馬鹿も一緒になって口を開いている。お玉ですくった豆腐をそれぞれ口に入れてやる。
「あっつ! あっごがががががああっ!」
「ほぉっ! おほぉうほぅほぉうほほほほっ!」
「! %&#¥♪♀〒♭♨!!!!」
三者三様に悶絶している。馬鹿め。
メリーちゃんにはちゃんとフーフーして食べさせる。
うっとりした表情の後に噛んだネギの食感か味が好みじゃないのかしかめっ面になる。大人になればおいしく食べられるわよ。きっと。
そんな様子を見ていた隣の従者組は粛々と食べていた。いや、お肉や鶏団子を誰が先に取るかで殺伐としていた。追加で頼んだらいいのに…。
そんな中で一人サヴァが朗らかに口を開いた。
「アンバーレイク家のみなさんもオパールレイン家みたいに和気藹々としていていいですねー。貴族ってもっと肩肘張って堅苦しいイメージでしたよー」
「うちがおかしいだけよ」
「……そ、そうだね」「……ですぞ」「(コクコク)」
三馬鹿も同意するように火傷した口を手で押さえながら頷く。
まぁ、貴族が揃いも揃って従者と一緒に鍋をつついてるなんてありえないものね。
「それよりも、使命とか言っていたけれど……」
「あぁ…はいはい。王妃様にクリス様を呼んでくるように言われたんですけどねー。この大雪じゃあ帰れないっすよね」
「え…なんでクリスを?」
「それは言えないっす…」
「こっちもクリスに用事があるのよ。連れてかれたら困るわよ」
どうせ王家の用事なんてロクなもんじゃないでしょ。こっちのが一大事なんだから。
まぁ、そんな一大事にゆっくりしているのはどうなのかと突っ込まれない限りはこっちが優位に進められるでしょ。
「そんなに困るんなら、こんなとこでゆっくりしていていいんすか?」
「うっ!」
「図星っすね。まぁ、この大雪じゃ暫く動けないっすから、ゆっくりするのもいいと思うっすよ。実際何にも出来ないっすからね」
「そうね。それまでは一時休戦としましょ」
「助かりますー」
食えない顔してるわね。あんなんでも王妃様付きは伊達じゃないわね。
「ソフィアは顔に出すぎるんだよ……ってあっつぅううっ!!!」
シド兄が失礼な事を言うので、お玉で汁をかけてあげた。どう? あったかくなったでしょう?
「「「「ひどい……」」」」
すっごく気まずくなったので、一人無心で鍋を食べる。みんな慌て出すけどもう遅い。野菜片しか残ってないわよ。
「むぅ…。もう残ってないですな…」
「そんなに言うなら食べれば良かったじゃない」
「では、後はうどんか雑炊ですかな……」
「あ、私うどんがいい」
鍋の後のシメはうどんか雑炊か。将又ラーメンかお餅か……。人類の永遠の命題よね。メリーちゃんはうどん派かぁ。ちゃんこのいろんな具材のお出汁が入ってるから雑炊も捨て難いのよね。
そんな時にメリーちゃんが一言爆弾を投下した。
「んー…でもこれだとお汁足りませんね。戻しましょうかソフィア姉様」
「「「「「「「「「えっ⁉️」」」」」」」」」
「え? 何? 私変なこと言った?」
器を持ったまま固まるメリーちゃん。
「なるほど…。かわい子ちゃんと一緒の時はそれぞれ楽しめるというワケですな。ほっほっほ……って、あれ?」
ムック兄に発言に全員が押し黙る。お店の人も、他のテーブル席の人も全員が。
「気持ち悪い…」
誰が言ったか、そんな声がどこからか聞こえた。
「ありがとうございます」
なんでそこで喜ぶのかしら?




