38 新しいお手伝い
翌日。調理課の朝も早い。
王族の朝食を作る為、朝の六時には整列していたが、五人しかいない。
「あぁ、クリスは何も言われずに呼ばれたんだね」
女性の料理人の人が丁寧に教えてくれた。
なんでも。王族とはいえ、朝早くからそんなにいろんな種類の料理は食べないので、朝食は分担制なんだとか。
パンを焼く人、スープを作る人、メインの料理を作る人、副菜を作る人。そして、監督する人と五人だ。
ゲストがいる時はもう少し多いのだそう。
そして、何回もあくびをしている料理長の朝礼が終わると、各自それぞれの担当に取り掛かった。
「じゃあ、クリスは最初だからな。副菜を頼むわ」
「分かりました」
副菜って事はサラダとか和え物よね。目の前に置かれた材料で、サラダに使えそうなのはレタスにトレビスに水菜とカブかな。
朝からそんなに重いのはキツそうだものね。
ということで、すぐに出来てしまったわ。一応見栄え良く飾ってみたんだけど、どうかしら?
「料理長出来ました」
「おう。早いな……って、なんだこれ」
「えっ! 盛り付けダメでしたか」
「いや、俺より全然綺麗に盛り付けてあるから、びっくりした。なるほどな。こういう盛り付け方もあるのか…。ところで、この白いのなんだ?」
「これですか? これはカブのドレッシングですね」
「ほう…。じゃ出す前に味見を……。甘い中にもほんのり苦味と辛みがあっていいな。後で作り方教えてくれや」
「はい。それはいいんですけど、全部食べちゃいましたね」
「わりぃ…、もう一回作ってくれ」
「あっはい……」
毒味で一口食べるのは分かるんだけど、全部綺麗に平らげるのはどうかと思うのよね。
そんな感じで、滞りなく調理は終わり昼食の準備へと移っていく。
九時を過ぎる頃にはみんな集まり、この広い厨房が人で溢れかえる。
「おはようクリス。初日から朝当番か。大変だな」
「そうでもないわよ。いつも早起きだし、作るものも凝ってないし」
「そう言えるのは慣れてるからだよなぁ。俺もそういう事言ってみてーぜ」
「まぁ、確かに慣れよね」
「俺なんて、朝親父とばーちゃんと一緒に稽古してからここに来るけど、なかなか慣れねーぜ」
そういえばいつの間にかうちに朝練来なくなってたのよね。
私に勝つんだなんて言ってたけど、今でも頑張ってるのね。
朝早くから剣の訓練して、料理の修業もして大変ねぇ。
「おし。じゃあ今日はクリスとウィリアムの担当は…」
料理長が担当をそれぞれ決めていく時、入り口の方から大きな音がした。
みんな一斉に振り返ると、三人重なって倒れていた。
「何やっているんです?」
「お…あぁクリスか。どうだ、大変じゃないか?」
そんな事を言うのは、一番下敷きになっているサガさん。
「別に大丈夫ですけど、こんなとこでなにやっているんです?」
「いやー、人手が足りてないと思って、手伝いに来たんだにゃ」
「プトラさん、掃除の責任者ですよね。勝手に抜けていいんですか?」
「猫の手も借りたいと思ってるんじゃないかと思って、他の人に任せてきたにゃ」
「はぁ…。そうですか。それで、ディンゴはどうしてここに?」
「いや、やる事なくて…」
「そうなのにゃ。綺麗すぎて、ちょっとやるだけで終わってしまうのにゃん」
「そうなんですか?」
三人とも倒れたままブンブン首を振っている。
そんな三人の前に料理長が不機嫌な顔でやって来た。
「何言ってんだお前等。どうせ味見したくて来たんだろ?」
「なっ…ななな何を言っているのかなー? 人手が足りないって嘆いてたのはセブ爺だろ? 皿洗いでもなんでもやるからさ」
「そうにゃ。片付けとか全然手が足りてないって聞いたにゃ。手伝うにゃー」
「プトラ、お前はよく皿割ってたよな」
「そ、そんな昔の事いつまで引っ張るにゃ」
「三ヶ月位前の話だぞ?」
「うぐっ…」
「いいんじゃないですか料理長。実際人が足りてないのは事実ですし」
「副料理長が言うならいいけどよぉ。こいつら大丈夫か?」
「まぁ、皿洗いとか皮むきならいいんじゃないですか?」
「じゃーいっか。おっし。お前等、ビスタ副料理長が責任持つそうだから、後の事は副料理長に聞いてくれや」
「えっ!」
副料理長が鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっていた。助け舟を出したつもりが、一緒に沈んだ形なのかな。
サガさんとプトラさんはともかく、ディンゴちゃんは巻き添え食っちゃった感じかな?
でも実際ディンゴちゃんは、そここそ料理出来るからいいけど、この二人はどうなんだろう?
「(やったな。これでクリスの料理つまみ食いできるな)」
「(ふっふっふ。こんな美味しい仕事はないのにゃ)」
「お前等聞こえてるぞ。ちゃんと仕事すれば食べさせるけど、邪魔ばっかりしてたらすぐに追い出すからな」
「「はいっ! 肝に銘じます!」」
「どうだかな」
「私来るとこ間違えたかも…」
ディンゴちゃんも付き合う人考えたほうがいいわよ。




