34 何もかも中途半端
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あれから数日。もうすっかり城内はピッカピカになっている。
王家のスペースより、仕事場の方が綺麗になっているなんてね。
ただ、これだけ綺麗だとあんまりやるところがないのよね。それに他のメイドさん達も技術や知識を活用して掃除しているから常に綺麗なんだもの。
そんな私はというと、身軽な事も相まって他の人が届かない高い所を担当している。
たまに何人かのメイドさんが上を見上げているけど、残念でした。見られてもいいように毛糸のパンツとか履いてるもの。恥ずかしくなんてないわ。
「おいクリス。なんて野暮なもの履いてるんだ」
堂々とそう言う事を言うのは流石に同性といえどもどうかと思いますがね、サガさん。
「じゃあ、替えの水持ってくるわね」
「よろしくー」
そう言って汚れた水と雑巾の入ったバケツを持って水場へ行く途中で声をかけられた。
「ちょーっといいかしら?」
「はい。なんでしょう」
返事をした瞬間に通路の横から、前回の上級メイドの方々がぞろぞろと出てきた。
そしてあっという間に囲まれた。
わーお。一体これから何が始まるんです? ワクワク。
期待に胸膨らませていると、持っていたバケツを蹴り飛ばした。
もう…危ないなぁ。
咄嗟にジャンプして躱したので、私の後ろにいた数人のメイドさん達にかかったらしい。
「うわっ!」「ちょっ!」「汚っ!」「何してくれてんのよっ」
水のかかった方のメイドさん達がかかってない方のメイドさん達に掴みかかる。
「ちょっと汚いでしょ」「やめてよ」「危なっ」
そのまま濡れた廊下に一斉に倒れてしまった。
あーあ。こんな寒い時期に水遊びするなんて、高貴な人の考える事は分からないわね。早く脱いでお風呂入らないと風邪引いちゃうわよ?
「ぐぬぬ……」
多分リーダー格なんだろうなという、縦ロールの人が悔しそうに呻いていた。
「あ…あの大丈夫ですか?」
一応声はかけておかないとね。
「何であなた避けるのよ!」
えぇ…そんな理不尽な。誰だって襲われたら回避行動しますよ?
「というかどうやって避けたんですのよ!」
「どうと言われましても…」
その瞬間、縦ロールさんに壁ドンされてしまった。そう。あの有名な壁ドンを。
初壁ドンがこんなシチュエーションだなんて、がっかりだわ。
「はぁ…」
「まぁ、失礼な。このわたくしの前でため息なんて」
後ろでニマニマしながら見ている上級メイドの人達。なんかがっかりだなぁ。もう少し琴線に触れる嫌味とかの雨嵐を期待していたのに、とんだ肩透かしだわ。
自爆するし、後ろでただ見ているだけなんて興ざめだわ。
挙句、縦ロールさんは暴力に訴えようと右手を大きく振りかぶっている。
このままぶたれてもいいんだけど、痛いのは嫌だし。かといってこの状況で避けたり防いだりするのも違う気がするのよね。
「ちょっと、あなた達何をやっているの」
あら。唐突に幕が下りてしまったわ。
声のする方を縦ロールさんと一緒に見ると、多分上級メイドさん達の責任者っぽい人が何人か険しい顔で立っていた。
「やっば……」「私知らないわよ」「あんたが言い出しっぺでしょ」「責任押し付けないでよ」「私はただ付いてきただけよ」
見苦しくも言い訳して、責任のなすり付けをしていた。なんだかなぁ…。
「あなた達。こんな事をしてただで済むと思ってないでしょうね」
「「「「「「ひっ!」」」」」
そうして全員が青い顔でどこかへと連れて行かれた。
すっごい消化不良だわ。もっとどろどろしたのを期待したのに…。
がっくりしていたら、目の前が暗くなったので視線を上にすると、さっきの責任者の人が申し訳なさそうに立っていた。
「ごめんなさい。私の管理不足です」
そう言って深々と頭を下げられた。
「あっ、あの…。私は特に被害ありませんので、頭を上げて下さい」
「……………」
きまずい。
「……本当にごめんなさい。あの子達にはきつく言っておくから」
「あっはい…」
この温度感で来られると、ちょっと気まずい。何か話題を変えるものは………。
「あの…もう大丈夫ですんで。ここ、濡れちゃったので、掃除しないとまずいですし……」
「いいえ。ここはあの子達にやらせるから」
「いや…、汚れた水なんで早くしないとシミになっちゃいますし、あの人達も濡れてますんで…」
「でも……」
この人の煮え切らない態度があの人達を冗長させたんじゃないかな?
「大丈夫です。お気になさらず」
もう半ば強引に押して帰ってもらった。何回もペコペコしながら戻っていった。
罪悪感を感じるのはいいんだけど、やりすぎだと思うの。最初の毅然とした態度は一体どこにいってしまったのかしら?
まぁいいか。そんな事よりもびしょびしょになった廊下を早く掃除しないとね。
予想以上にびちょびちょだわ。とりあえず余分な水分だけでも何とかしないととは思うんだけど、さっきから視線が気になって仕方がない。




