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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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33 期待外れ


 何をやりすぎたかと言うと、毎日のように造られる雪像を朝一で壊していった事だろう。仕事中に遠くから、絶叫とも猿叫とも分からない声が聞こえて、最近の風物詩になっていたりする。


 「違うわよ。まぁそれもそうなんだけど…」

 どうやら違うらしい。何も言っていないのにディンゴちゃんから厳しいツッコミが入る。


 じゃあ何をやりすぎたのかというと、私達下級メイドがやる範囲の場所全てがキラキラ輝く位綺麗になってしまった事だ。いや、綺麗になるのはいいのよ? ただ新築時よりも綺麗な感じになるのはどうなんだろうね。正直私も驚いてるわ。

 ただそれ以上に驚いているのがこれだ。


 「これからクリス先生と呼ばせていただいても?」

 そう。私の掃除のやり方が凄いと広まったらしく、掃除担当の下級メイドさん全員が私にやり方を教えて欲しいと集まってきたのだ。

 こう言っちゃなんだけど、プライドとかないんですか? 若造にあれこれ抜かれて何とも思わないんですか?


 「そんなもん。仕事をこなす上で不要よ」

 「よりよい仕事を覚えられるんなら、そんなものその辺の狼にでも食べさせるわ」

 そ、そうなんだ。向上心があっていいですね。

 正直、唐揚げ作った時より詰め寄られている。

 そんな時、聞きなれない女性の声が聞こえた。


 「うっわ。マジだ。マジで綺麗になってる」「私達の所より綺麗だなんて許せないわ」「私達が何か言われたらたまったもんじゃないわ」「責任者! 責任者出てきなさい」


 何だ? やたら姦しい集団が来たな。

 その集団はやたら上質な生地のメイド服に身を包んだ女性達だった。

 あぁ…。これが上級メイドの方々ですか…。どおりで…。

 やたらと貴族らしい髪型をしているし、爪とか掃除するのに似つかわしい状態じゃない。

 これがみんなが口々に愚痴ってた、口だけの人達か。納得。


 そんな中で囲まれている私が目をつけられた。

 「お前が責任者か?」

 「いや…」

 「そうだぞ。クリス先生は凄いんだ」「そうにゃ。私より早くて丁寧で完璧にゃ」「時期メイド長と言われているお方だぞ」「メイド力でこの方の右に出るものはいない」

 等、どれも初耳な事を言われる。この人達も面白おかしく言ってるだけでしょ?

 そんなんだから私が目をつけられるのは当然な訳で…。


 「ふーん。このちんちくりんがねぇ…」「見た目だけじゃない」「どうせアレでしょ? どっかの貴族と娼婦の間に出来た子供でしょ」「で、捨てられた訳だ。かわいそ〜」「ウケる。どうりで貧相な体な訳だわ」「どうせ男を取っ替えひっかえしてんでしょ?」「いや逆に貢がされてんじゃない? じゃなきゃ下級にいないでしょ?」「だよねー」「下級同士傷舐め合ってるんでしょ」


 「くっ…」

 上級メイドの方々がいろんな嫌味を言うけど、みんな歯を食いしばって悔しそうにしている。まぁ、身分の差とかいろいろあるんだろうね。

 で、その渦中の私はというと……。


 「ちょ…なんでそんな嬉しそうな顔してんのよ」「この状況で笑顔って…頭おかしいんじゃない?」「娼婦の子だし、意味通じてないんじゃない?」「あぁ…なるほど。状況も理解できないバカなのね」「下級にはお似合いだわ」

 散々な言われようだ。


 「もういいわ。こんなの祭り上げてるようじゃダメね」「そうね話通じないもの。行きましょ」「あとで上のやつとか呼びつけましょ」「無駄足だったわね。帰ってネイルしないと…」

 結局何だったのかという位、嵐のように去っていった。


 「す…すまねぇクリス。守ってやれなくって………って、何でそんな嬉しそうなんだ?」

 「え? だって本物ですよ。本物の嫌味。いやぁ…初めてだったんでワクワクしちゃいました。でも思ったほどのレベルじゃないですね………って、あれ?」

 「クリス。あんたは大したヤツだよ。ホント…」

 ポンポンと頭を撫でられる。


 えぇ…。だって、転生してから、あんなに教科書通りの嫌味を言ってくる人いなかったからワクワクしちゃったのよ。でもちょーっと嫌味のレベルが低いのがネックだけれど、いかにもな人達なんだもの。これを期待せずにどうしろっていうのよ?


 あぁ…。また来てくれないかな…。次はもっと面白い事言ってくれればいいのに。

 「クリスはたまに素なのか態とやっているのかわからない時があるわね」

 「……?」

 「分からないならいいわよ」

 はぁ…?

 ま、いいや。じゃあ邪魔な人達も帰ったので、いろいろと教えていきましょうか。


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