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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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32 雪像


           *      


 朝、寮を出る度にどんどんと形が整っていく雪の塊。こっちの世界でもそういう文化があるのだろうか?

 そう思っていたんだけど、暫くして形がハッキリと分かるようになると、これが女性の形をしている事に気づいた。あとは顔を残すのみだが、どう見ても既視感がある。嫌な予想が当たらなければいいんだけど、どう見てもドレスを着た女性像なのに胸が真っ平なのよね。


 「あら。随分とはっきり分かってきたわね」

 「ねぇ、ああいう風に雪で何か作る文化ってあるの?」 

 「さぁ? うちの村では無かったわよ」

 「そっかぁ」

 まぁこの国も広いしね。しかし一体誰が作っているんだろうか?

 そんな事を雪像を見上げながら考えていたら、ディンゴちゃんがじーっと私の頭からつま先までを黙って見ていた。


 「な…何? 何かついてるかしら?」

 「いや…あの雪像に何となく既視感があったから…つい」

 「わ、私知らないわよ?」

 「どうかしらね。だって高いところまで跳べるじゃん」

 「跳べたって作れるとは限らな………信じてないわね」

 「まぁクリスがそう言うんならそうなんでしょ」

 「それ信じてない人が言う台詞よ、まったく…。こんな所で油売ってないで仕事いきましょ」

 「……本当に関わってないのかなぁ…」

 ディンゴちゃんが何か最後にボソッと呟いたけど、聞き取る事ができなかった。


 翌る日の朝。念の為早く寮を出ると、例の雪像は私の顔をしていた。

 やっぱり…。嫌な予感が的中してしまった。

 私は無言で雪玉を作り、雪像の顔目掛けて雪玉をぶつけていく。

 どこかのテロ集団みたいな事してるけど、あんなの作られたら、何を言われるか分かったもんじゃない。

 見事に当たった雪像は、繋ぎの弱い所にも衝撃があったのか崩れ落ちて、古代ギリシャの彫像みたいになってしまった。

 まぁ、あれならバレる事もないでしょ。作者には悪いけど諦めてね。


 よく見ると、雪像の前に何かひざまづいた跡があった。

 こんな事をする人に心当たりはあるんだけど、心当たりが多すぎて絞りきれないや。

 「あっ! 雪像が壊れてる」「お! ホントだ」「昨日までは綺麗に建ってたのにな」

 寮から仕事場に向かうメイドさん達が、壊れた雪像を見てがっかりしていた。

 「ほ…ほら、陽の光に当たって溶けて崩れたんじゃないですか?」

 「何言ってんだクリス。雪の降った翌日以外ずっと曇りだったじゃないか」

 そうでした。降るか降らないか微妙な空模様でしたね。


 「残念だなぁ」「誰が作ったかは知らないけど見事なもんだった」「ねー。クリスそっくりだったわね」「確かにクリスそっくりだったな。胸とか」


 「え? みなさんそこまで見ていたんですか?」


 「そりゃあ、なぁ」「うん」「昨日のお昼には完成していたし」

 夕暮れで暗くなっていたから気づかなかったわ。というか、私がモデルってバレてるじゃないの。

 「まぁ、こんだけ雪があるんだから、また元に戻るだろ」

 楽観的に考えてるけど、何としてでも阻止しないといけないわね。


           *      


 掃除の担当になってから一週間程経った頃。

 「うーん。やりすぎたかな」

 「そう思うわ」

 ディンゴちゃんからの素早いツッコミが入るのもここ最近では当たり前のようになっている。

 

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