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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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31 メイドと言ったら掃除でしょ


     *     *     *


 「クリス先生、そこは何を使ったらいいんですか?」

 「こ…ここは重曹を…」

 「クリス先生、ここはどうしたらいいですか?」

 「あっ…そこは薄めたお酢を…」

 「クリス先生、こういう場合はどうしたら…」

 「そこは濡らした新聞紙を…」

 一体どうしてこうなった。どうして私が王城のメイドさん達全員に掃除のコツを教えているのかしら?

 遡る事数日前―――――



 ゴミの片付けをした翌日。

 あまりの寒さで、目を覚ます。

 ディンゴちゃんも寒かったのか、いつの間にやら私の布団の中に潜り込んで、私を抱き枕代わりにしていたようだ。この感覚も懐かしいな。

 もう暫くこのまどろみの中でうとうとしていよう。


 昨晩降った大雪で辺り一面が真っ白だ。お城の白さと相まって、 とても幻想的だわ。

 強いて言えば、境界線がどこにあるのか分からないくらいね。

 二度寝のぼーっとした頭で食堂へ行くと、みんなげんなりした表情をしていた。

 「おはようございます。元気ないですね。どうかしました?」

 「あぁ、おはようクリス。いや…さ、この雪だよ? 雪かきとか超めんどくさくない?」


 確かにめんどくさいわね。前世じゃそこまでじゃないけど、こっちに来てからやたらやらされるのよね。普通使用人がやると思うじゃない? 全員でくじ引きしてどこを、やるか決めるのよね。

 それで何故か毎回屋根の担当が当たるから仕方なくやってるけどさ。おかしいとは思うけど、うちは他と違うなぁ位にしか思ってないのもあって今では雪かきもそこまで苦じゃない。で、どこをやればいいんです?


 そうして、朝早くから城門から王城までの広場と、私達の寮の前と雪かきをした。

 余りの量に、頑張って積めば城壁まで届きそうな量だ。こんだけあったら、何か作らないかしら?

 まぁ今の私にそんな時間はないので早速みんなで仕事に向かう。


 向かう道中、ディンゴちゃんが私の耳にヒソヒソと囁く様に尋ねる。

 「ねぇクリス。サガ先輩に何やったの?」

 「え、何で?」

 「クリスの後ろでずっとご機嫌伺うような姿勢でついてきてるから」

 振り返ると、バッと目をそらされる。

 「……………」

 「ほら。昨日ゴミの片付けよね。何やったらこうなるのよ…」

 「記憶にございません…」

 「そんな悪徳貴族みたいな言い訳して……まぁいいけどさ」

 実際に記憶ないからなぁ。あまりにも汚かったのと、綺麗に片付いた事。そしてその近くでサガさんが棒立ちしていたのしか覚えていない。あぁ、あと説教したわ。


 折角綺麗に片したのに、この大雪で台無しね。ちゃんと業者の人達が回収してくれればいいのだけれど…。

 そして今日からの掃除場所として案内されたのが城内のどこかの廊下だ。無駄に長く横幅も広いし、天井も高い。無数にある窓の掃除を考えたらげんなりしそうだ。

 この寒さで窓は全部結露で濡れている。窓枠とかもちゃんと掃除しないと黒ずみが残ってしまうわね。


 チラッと見ると、端っこに汚れがたまっている。すっごく気になる。

 汚れに気を取られていたら、責任者のサガさんから声がかかった。

 「はいはーい。今日からクリスがうちらの班に入りましたー。あと、ディンゴも戻ってきたので、みんな仲良くやってなー」

 「「「「「はーい」」」」」

 なんか緩いなぁ。王城のメイドさんってこんな感じなのかな?


 「それと今日はプトラ主任が来てます」

 「どーもにゃー。サガの教え方じゃよく分からないと思うので、あたいが教えるにゃ。よーく見ててにゃー」

 にゃーという語尾に違わず、猫みたいに上へ下へ。右に左にと縦横無尽に動き回っている。

 プトラさんが持った雑巾掛けした所は、確かに綺麗にはなっているが、あの動きだ。非常に無駄が多く、拭き逃しが散見される。

 ある程度やった後、両腕を斜め四十五度にポーズを取ってドヤ顔していた。

 それを見たみんなが拍手していた。

 なるほど。確かに素早く広範囲を処理している…が、雑だと思った。流石に口にはしないけどね。


 「はい。今のが見本にゃ」

 「まぁ、今のは主任にしか出来ないから、みんな普通にやってくれればいいぞー」

 「なっ! それじゃ、あたいのやったのはまるっきり無駄じゃにゃいか」

 「まぁ気にすんな。新人への余興みたいなもんだし」

 「酷いにゃー………あ!」

 ポカポカとサガさんを叩くプトラさん。そこで何か思いついたのか、ニマニマとした表情で私を見る。すごーく嫌な予感がする。


 「な…なんですか?」

 「うーん。これはあたいの勘なんだけどにゃ…」

 「勿体ぶってないで早く言えよ」

 サガさんはもう少し敬語を覚えた方がいいと思います。

 「唐揚げ姫なら出来そうな気がするにゃん」

 その言葉に一斉に私に注目が集まる。

 いや…まぁ…出来ますよ? 出来ますけど…やっていいのかな?

 「確かにな。昨日のクリスを見ていたら出来そうな気もしなくもない」

 いやいや。否定してくださいよ。

 他のメイドさんからの視線が痛い。

 「もう…。普通の人はそんな事出来ませんよ」

 「そうだよな。いやぁわりぃわりぃ。じゃ、仕事すっか」

 「にゃー。自分の目に狂いはないはずなんだにゃー」


 それから暫くやった辺りで声をかけられた。

 「なぁクリス」

 「はい。なんですかサガさん」

 「出来てるじゃねぇか」

 「えぇ?」

 作業する手を止めて辺りを見回す。

 「やっぱりにゃん。言った通りにゃん」

 プトラさんも近づいて絶賛する。

 そんな言われてもいつもやっている通りにしかやってないですけど…。

 でも明らかに光って見えるくらい綺麗になってるわね。見違えたわね。

 しかももうやるところほとんど残ってない。あとは天井くらいか…。


 「いったい今まで私達がやっていた事って…」

 「にゃー。これじゃあたいがバカみたいじゃん。ただ速いだけにゃー」

 「いんや主任。まだ天井が残ってる。跳べる主任ならまだ…」

 「そっか。そうかにゃ」

 一体何と戦っているんだろうか?

 「ほら、クリス。天井が残ってるぞ」

 「……はいはい。分かりましたよ。やればいいんでしょ? まったくもう。跳んだら寒いのに……」

 ……うっわ。結構ホコリとか蜘蛛の巣とか見えない位置にあるわね。これは掃除のしがいがあるわ。

 言われるがまま天井とその下辺りを掃除し降り立つ。

 とりあえず、今いる廊下の上半分は全部やったんだけど、これでいいのかしら?

 あんぐりと口を開けたまま立ち尽くすメイドさん達。そんなに口を開けていたらホコリとかが口に入ってしまいますよ?


 「ちょー! ちょっとクリス。なんで主任と同じ事が出来るんだよ」

 「それにあたいよりずっと長くいられたにゃん」

 「あれか? あれなのか? もしかしてクリスは暗殺者なのかい?」

 「そんな訳ないでしょ」

 「だよなー。そうだよなー。でもなーあんな跳べるなんてなー」

 「いや、うちではみんなあんな感じですよ?」

 「えぇ⁉️ どんな家だよ」

 「そもそも暗殺者がこんな目立つ事ほいほいする訳ないのにゃ」

 「あー………そりゃそっか…あはははは……そうだよな。そんな奴いたらただの間抜けだよな」

 「そうですよ。まったく人を暗殺者扱いするなんて」

 「わりぃわりぃ。あはははは……………」

 「「「「「………………………」」」」」

 もう。突拍子もない事言うから、みんな黙っちゃたじゃないの。


 「ほ、ほらほらみんな。仕事するにゃー。まだまだやる事は残ってるにゃよー」

 「「「「「はーい」」」」」

 プトラさんが号令を出す事によって空気を変える。

 「な、なぁクリス…」

 「何ですかサガさん」

 「私にも跳び方とか教えてくんない?」

 「………………ハシゴとか使わないんですか?」

 「それじゃあ、ロマンがない」

 この人は仕事に何を求めているんだろうか?


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