29 お兄様のが一枚上手
店を出て、メイド達と共に壁蹴りをしながら屋根へ登る。
「今更ですけど、よく私たちと同じく登ってこれますよね」
「だって、上から行った方が早くて便利じゃない」
目的地まで一直線で行けるんだもの。使わない手は無いじゃない?
二つ、三つと屋根を越えて目的の倉庫の前へ降り立つ。
降り立つと、倉庫の前に沢山の人だかりがあった。
「お兄様、なんで先に居るんですの?」
「サマンサが先に勝手に突っ走っていっちゃうからじゃないか。僕達男子側はちゃんと調べていたからね。あの通路もこの倉庫も調べはついてるんだよ」
「くっ…。これだから文系は…」
「文系関係ないよ。もう少し落ち着いて、周りを頼っていかないと。君たちメイドもね」
返す言葉がないわ。確かに私たちはクリスの事で頭いっぱいになって他に気が回らなかったわ。反省すべき点でもあるのだけど、普段寡黙なお兄様に言われるとイラッとくるわね。
しかし、そんな事よりもきになる事がある。
「ねぇ、何で王子とクソガキがここにいるのよ」
「クソガキ言うな。ちゃんと心配してやってんだろ!」
「そうです。リアムはともかく、僕はクリスが心配で心配で、あの場で待っているなんて出来ないんです」
「レオ、お前ェ……」
危ないし、足手まといになるからあの場所から動かないようにしたのに。
キッとお兄様を睨む。
そんな私に対して、お兄様は軽く肩を竦める。
「考えても見てごらん。ギャン泣きしながらスカートの裾を握って離さない子供が二人いたらどうする? ボールみたいに丸々した憲兵隊がぜんっぜん役に立たなかったらどうする? 更に部下が『もういっその事連れてきましょう』って王子側に加担したらどうする?」
「私なら全部足蹴にするわよ。簡単じゃない」
「聞いた僕が馬鹿だったよ……」
なんでこんな残念な空気が漂ってるのよ。
「お、おい……。それよりも何で空から降ってきたんだよ……。一体お前ら何なんだよ……」
んー。私の嫌いなタイプの質問ね。正直どう答えたものかしら。時間も差し迫ってるこんな時に。
「そうね。街で子供達がいろいろ考えて遊ぶじゃない? その延長みたいなものよ。続けてたら自然と出来るようになるわ」
嘘つけって目で見てるわね。まぁ嘘なんだけど。でも王子様はそうじゃないみたいね。
「もし、僕も続けていたら、クリスをお姫様抱っこして空を駆け回れますか?」
「あー……。うん出来るわよ。きっと。ただクリスを連れて行くのは許可できないけどね」
さて、無駄話に花を咲かしている間に、皆んなそれぞれ持ち場についたみたいね。
きっとこの二人は、他にいた人が居なくなってる事にすら気づかないんでしょうけどね。
じゃあ、主役は張り切って正面からヒロインを救い出すとしましょうか。
倉庫の大きな扉の前に立って剣を構える。
スッと横に二人同じように立って構える。
「ねぇ、邪魔しないでもらっていいかしら? 私扉をぶち破るやつやってみたっかんだけど」
「サマンサ、ダメだよ。そんなかっこよさそうな事は男の僕がやらなきゃ」
「何言ってるんですかお兄様? そんなヒラヒラのドレスを着て、今更どの口で男なんていうんですの?」
「好きな格好に男も女もないだろう? それにクリ…」
「わー! わー! こっ、こういうのは使用人の役目ですっ! 主にやらせるものじゃないですっ!」
いきなりメアリーが耳を劈くほどの大声を出す。中にいる奴らに聞かれたらどうするの?
「ちょっとメアリー邪魔しないでよ」
(何あの二人の前でバラそうとしてるんですか!)
(あら、そうよ。秘匿情報だったわ。ダメじゃないお兄様)
(すまない。迂闊だった)
(じゃあどうするの?)
(もう三人でぶち抜けばいいんじゃないですか?)
小声でこそこそ言うのも面倒になってきたわ。
「はぁ…。わかったわ。ここは断腸の思いで三人で扉をぶち抜きましょう。仕方ないけど、ホント仕方なくだけど!」
ホントみんなわがままなんだから。ここはひとつお姉さんの私が一歩引かないといけないわね。……って、何よその目は何でそんなジト目で私を見るのかしら。失礼しちゃうわね。