16 後先考えられないらしい
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翌日。
食堂で朝を迎えたメイドさん達は二日酔いと風邪のひき始めのダブルパンチでかなりしんどそうだ。
いくら暖かい部屋だと言っても、そのまま寝落ちしたら体調が悪くなるに決まってるわ。
最初は声かけて起こしていたんだけど、払いのけるようにそのまま鼾をかいて寝てしまったので、諦めて部屋を出たのだ。
ディンゴちゃんも鼻水を垂らして辛そうだ。
もしかしたら、今日は王城の業務が滞ってしまうんじゃないだろうか?
まぁ、ペーペーの私がそこまで気負うのも違う気がしたので、ゾンビの巣窟と化した食堂からさっさと脱出するように出勤したのだった。
今日は足場の解体よね。そう思って東側の広場に来たのだが、とんでもない事になっていた。
解体するはずの足場は崩れ、再利用できないほど、折れ曲ったり、ひしゃげたり、千切れたりしていた。
そして、修復したはずの壁の一部に当たったのか、その場所が少し傷ついていた。まぁそこまで大した傷ではないのだが、折角直したのに残念だ。
「お、親方おはよう………」
「サミットさん、おはようございます。なんですかこれ…」
「分からない。ただこれをやったであろう犯人は分かってる…」
サミットさんがちらっと見やる。
崩れた足場の前で人をバカにしたようにニヤニヤと笑って立っていたのは、昨日足場の前でふざけていた連中だった。
「おやおや、これはどういう事ですかな?」「困るなぁ。俺たちの訓練場をこんなにされちゃあ」「一歩間違ってたら怪我じゃ済まねえよなぁ?」
「くっ……」
俯き、歯をくいしばるサミットさん。
「あなた達がやったんでしょう、これ」
「おいおい困るなぁ。勝手に犯人にされちゃあ」「だよなぁ。ちゃんと留めてなかったのか?」「あーあー、壁にまで傷がついてらぁ。こりゃやり直しだな」「ついでにうちの訓練場も修繕してくれよ」
絶対こいつらがやったはずなのに、反論出来ない。やったという証拠が無いから。
奥歯を噛み締め睨みつけていたのだが、今度は後ろからも声がした。
「まぁ、一つ手がないわけじゃねえんだよ」
振り返ると、最初に因縁をつけてきた奴らがいた。
「今日は寒いなぁ。こういう日は身体動かしてあったまらねえとな」「特に腰のあたりを温めてぇな」「この時期人肌恋しいからな。慰めてくれよ」「一緒にあったかくなろうぜ」
ニタニタと気持ち悪い表情で見下ろす団員達。
「つーかさぁ、うちの副団長、謹慎だとよ」「あぁ…。俺らが何やっても揉み消してくれたのにこれからどうしたいいんだ?」「バカお前……」
なるほど。そういう事ね。副団長共々救えない奴らね。本当なら一気に叩きのめしてやりたいところだけど、こんな大人数に囲まれて、サミットさんを守りながらなんて難しいわね。
何かきっかけがあればいいんだけど…。
ジリジリと詰め寄られる。
………上手くいくか分からないけど、こいつら連まないと何もできないのよね。それにあんまり頭も良くなさそう。引っ掛けたら勝手に自白してくれないかしら?
一縷の望みにかけてぶつけてみる。
「ねぇ、その足場どうやって崩したの?」
「あぁ? んなもん決まってんだろ? 剣でロープをぶった切って蹴飛ばしたんだよ」「あぁ後は蹴りまくってたらグラグラしたからよぉ」「昨日乗ってる時これやればよかったな」「意外と簡単に言ったよな」「夜だから誰にも見られてねぇしな」
「ばっ…バカかお前ら! 何で釣られてペラペラしゃべってんだ!」
私に厭らしい視線を向けていた男が、足場を崩した連中に怒鳴りつける。
そして、自分が何を口走ってしまったのか、今更になって気付いたらしい。
「お、お前ら何て事を……」
サミットさんが怒りで震えている。
「あ? おっさん。あんたが怒ったところで何か出来んのか? 出来ねえよなぁ!」
騎士の一人がサミットさんの胸ぐらを掴み、下卑た笑みでサミットさんをぶん殴って突き飛ばした。




