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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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15 噂って広まるの早いよね


 「親方は若いのに肝が据わっているというか、鈍感というか…」

 半眼で呆れるように何かを呟いていた。

 「え? なんです?」

 「いんや。何でもない。そういえば、入ってそんなに経ってないんだっけ?」

 「そうですね。今日で十一日目くらいですかね」

 「そうか。じゃあ折角だし、外だけになるけど、城内案内しようか?」

 「いいんですか?」

 「あぁ。今日はもう何もできないしな。それに、こんな常態で仕事をするかも無い」

 あんな事があったら、気持ちを切り替えるのって必要だものね。


 そういえば、入ってすぐにランドリーメイドの仕事をやったので、中の方はある程度知ってるけど、外の方は殆ど知らないのよね。

 今後必要になるかもしれないから助かるわ。


 そうして、午後は城門の周りや、監視塔に倉庫などの場所を教えてもらった。

 めちゃくちゃ広いわね。知らないと迷子になりそう。

 でも、こうして案内してもらっていると、海外旅行のツアーにでも参加した気分になるわね。洋風のお城だし。違うところを挙げるとすると、実際に使われてるって事くらいかしら?


 まぁ本来なら、初日に教わるもんなんだろうけどね。いろいろバタバタしてたししょうがないね。

 そんな感じでツアーの最後に案内された中庭なんだけど…。


 「なんか殺風景ですね」

 「もっと大きな中庭は奥にあるんだが、ここは小さめのパーティやお茶会なんかに使われる場所なんだが…、確かにそうだな」

 外と中を繋ぐ間みたいな小さな庭園なんだろう。今は改装中なのか地肌が見えている。というか土しかない。


 二人で眺めていると、奥の方から若い男の人が一人道具を抱えて出てきた。

 「あれ、サミットさん、何か用ですか?」

 「いや、うちの若いのに城内を案内してたんだよ」

 「そうですか。あ、僕はタロンって言います。庭師やってます」

 タロンと名乗る青年はイケメンだった。

 何で庭師なんてやっているんだろう。執事とか似合いそうなんだけどね。結構女性から人気あるんじゃないかな?


 「あ、そういえば聞きましたよ。なんでも騎士団とバチバチやりあってるって」

 「もう噂になってんのか。やだねー。ここの使用人どもの噂の広まる速さは異常だよ。で、どんな尾ひれついてんの?」

 「まだ、そこまでは聞いてないですよ」

 「そうか。別にそんな大した事じゃない。いつもの事だよ」

 サミットさんは笑いもせず淡々と告げ、タロンさんは苦笑いしていた。

 あんなのが日常だとしたら、胃が痛くなるだけですまなそうね。現に団長の頭は、この中庭みたいになってるし………って、そこまでじゃないか。


 「そんな事より、こここんなんでいいのか?」

 「それなんですよね。ちょっと人出が足りなくて…。あ、今要請はしてるんですよ」

 「まぁ、どこも人出不足だしな。うちもみんな風邪ひいて寝込んじまってな」

 「うちもなんですよー」

 チラとサミットさんがこっちを見た気がした。

 そんな感じで二人が話し終わるのを待って、その日は解散となった。



 その日の夕方、食堂―――――

 「クリスよくやったわね」

 「何をです?」

 「第二騎士団のあのクソバカ副団長の事よ」

 「本当に噂が広まるのが早いんですね」


 寮に戻ってすぐ、他のメイドさん達に担がれ、食堂へ運ばれた。比喩ではなく、二人がかりで運ばれた。作業着汚れるんだけど、そんなのお構いなしだ。

 「あんた、もっと食べた方がいいわよ?」

 運ばれながらそんな事言われてもどうしようもない。


 そして今か今かと待ちわびている好奇心旺盛なメイドさん達の間に放り込まれる。

 これも比喩ではなく、ホントにぶん投げられた。何? どこかの球団が優勝でもしたのかしら?

 そして、胴上げみたいな感じでキャッチされ、そのまま丁寧に椅子に下された。

 ここだけ丁寧にするくらいなら、最初から丁寧に扱ってもよかったのでは?


 ニッコニコ笑顔の大勢のメイドさん達に囲まれ逃げられそうにない。逃げようと思えば逃げられるが、流石に飛んで壁伝いに逃げるわけにもいかない。何というか、はしたないじゃない?


 私が椅子に座るや否や皆前のめりになり、聞く体勢になる。あっこれ、どこまで逃げても逃げられないやつだわ。


 「聞いたわよぉ。あのクソ副団長失脚したんだって?」

 「そうなんですか?」

 「あれ、聞いてないの?」

 「はい」

 どうやら、メイドさん達の方が情報収集能力が高いらしい。たった数時間であの副団長がどうなったのか教えてくれた。


 どうやら今までの悪事も全部バレたらしい。実力ではなくコネとヨイショだけで上がった人らしく、実力は下の下らしい。口だけは達者で上の者に取り入るのが上手なんだそうだ。ただ、自分の出世に繋がらなそうな人には見下したり横柄な態度をとるので、使用人全員からは嫌われているとの事。

 ただ出世欲だけの人ならまだしも、副団長の地位を利用してあれこれ不正を働いていたらしく、今回の騒動と相まって失脚したそうだ。


 最後まで「濡れ衣だ。私は嵌められた。無実だ」とか騒いでいたらしい。

 そんな副団長の今までやらかした証拠の山が部屋に入りきらなかったんだそうだ。どんだけやらかしているのよ。何で今まで野放しにしていたのかしら? 不思議ね。


 そして、他にも関わっている人がいるとの事で、それの調査と余罪も含め精査しているとの事。騎士団だけでなく王宮全体に衝撃が走ったらしい。なぜ、今まで気づかなかったのかと…。こういう所は中世よね…。


 そんな副団長は処分待ちとの事で、処分の内容が出るまで謹慎となったそうだ。

 それで、各使用人達が『失脚記念』と称して祝賀会を開いているのだそう。

 一体どれだけの人を敵に回したらそうなるのかしらね。

 食堂に運ばれた時点で、結構な人数のメイドさんが出来上がっていたのはそういう事だったんだと理解した。


 メイド服のままお祭り騒ぎしているけど、汚したりして仕事に影響が出ないのだろうか? 私は作業着だから別にいいけど、結構汚れているので、先にお風呂に入りたいんですが。

 「で、クリスはどうなの?」

 私に聞かれても、失脚云々の話は知らないのよ。


 それから数時間後。食堂でメイドさん達が寝落ちしたのを確認して脱出する。

 飲みたいお酒も我慢して……というか、飲ませてもらえず、ずっとジュースでチビチビやっていた。よく我慢できたわね。自分を褒めたい気分よ。


 でもこれでやっとお風呂に入れるわ。そう思っていたんだけど、どうやら今日は入れ忘れていたらしい。あの騒ぎだものね。仕方ないかな?

 流石にこの寒い時期に水シャワー浴びるわけにもいかないし、タライにお湯を入れるのもなんか違う気がする。あれであったまれる訳ないし。


 そんな時、外で大きな音が聞こえた。

 そういえば、他の使用人達もお祭り騒ぎだと聞いた。こんな時間まではしゃいで怒られないのだろうか?

 汚れたまま寝たくないなぁ。こういう時、街に銭湯があればいいのに。でも、こんな時間に城門も開いてるワケないか。

 この日は、諦めて眠りについたのだった。


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