14 この変わり身の速さが出世の秘訣かしら?
「私かい? そうさねぇ…。あんたの上司の母親だよ」
一瞬何を言われたのか解らなかったらしい。ポカーンと間抜けな顔をした後、噴出すように笑い出した。
「あっはっはっはっは…。一体何を言い出すかと思えば…………はっ………」
そして、思い至ったのか、一気に青ざめた。
第二騎士団長の母親って事は、この人はウィリアムのお祖母様って事になるのか。
「す……スーパーグレート将軍様ですか………」
「あたしゃ、その呼ばれ方大っ嫌いなんだよ。勝手に人の名前にいろいろオプションつけまくってまぁ…。あたしゃただのグレートだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「そ、総帥閣下………」
「もう引退しただろうから知らないのも当然かね。今はうちの旦那がやっているはずさ。もう辞めたいと泣きごとを言っていたがねぇ」
快活に笑いながら話すグレートさん。
第一、第二、第五と少なくとも三人子供がいて、それでも尚一番上まで行った凄い人なのか。そんな人に喧嘩売っちゃってどうするんだろうか。
「あんたの事は息子からよーく聞いとるよ。今からある会議に呼ばれてねぇ。よろしく伝えといてやるよ」
そこからの副団長の変わり身は早かった。
グレートさんが歩き出す前に、一瞬で土下座した。額を地面に擦り付けている。
「せ、先代総帥閣下とは露知らずとんだご無礼を……」
「気にすることないさね。人によって態度を変える。あんたは普段からそうなんだろう? どれだけ取り繕っても変わる事はないさ。一緒にお城で働く人間相手にとる行動じゃないよ。あんた国民相手にもそんな態度なんだろう?」
「め、めめめめっ滅相も、ご、ごごございません!」
「あんたの教え方も大したもんだねぇ。こんなんで国を、民を守れるのかい?」
「お、おおおお前達も頭を下げないかっ!」
「何でこんなオバさんに…」「副団長ってかっこ悪いな」「でも、こんだけ土下座してるって事は、やべぇ人なんじゃね?」「でも、もう死にかけだろ?」
「⁉️」
後ろで駄弁る団員達の物言いにさっと顔を上げて、真っ白な顔で驚愕していた。
「ははっ。必要無いさね。ババア相手に元気なのは買うがね」
「お、おおおお待ちください。ご、誤解なんです。は、はは話を聞いて下さい」
そうして、威風堂々に城の方へ歩いていくグレートさんと副団長。残された団員達はポカーンとしていた。
事の重大さを理解しているであろう離れた場所にいる団長派と、未だに理解できず何が起こったのか理解出来ていない副団長派の面々。
教える側がダメだと、教わる側もダメになるという素晴らしい見本だと思うわ。同情はしないけど。
その後、やってきた団長派の面々にほぼ強制的に連れて行かれる副団長派。
未だに不満そうな顔をしている。本当にエリートなんだろうか?
今頃になって降りてきたサミットさんが恐る恐るといった程で話しかけてきた。
「ちょ、大丈夫か?」
「えぇまぁ」
「ホントやめてよ。危ないよぉ…。イチャモンつけられたら俺らなんてあっという間にクビだよぉ?」
急に弱々しい話し方をする。いつもみたいな男臭い喋り方は鳴りを潜めている。
「まぁ長く生きてると、ああいった頭のおかしい人からのクレームとかしょっちゅうありますからね。まぁ慣れてますんで大丈夫です」
「えぇ…。親方、どう見たって俺の三分の一も生きてないでしょう」
そんな子供に親方呼びはどうなんですかね。
前世でいろんなお客さん相手にしてきたからね。大抵のクレームなら大丈夫。あのくらいは良くあるし。まぁ、今の方が血気盛んなんでちょーっとクレーム処理に失敗しちゃいましたかね。もう少しいろいろ言われてたら手を出してたかもしれない。
まぁ、前世でそれをやったらクビだし、下手したら警察沙汰だけど、今世ならなんとかなりそう。
「そんなことより。お昼食べそこねちゃいましたね」
「そんなことって……」
あんなやりとりをしていたらお昼を回ってしまった。まぁあの団員達も同じように食べそこねたようだからいいかな。
でも、仕事も今日はやる事なくなっちゃったのよね。
「あとは、乾くのを待つだけですもんね」
「え? あ、あぁ。そうだ…な。乾いたら足場を片して終わりだな」
「やる事無くなっちゃいましたね」
何か一気に疲れたので、ぐーっと両手を上に上げ、伸びをしたのだった。




