13 副団長はクレーマーの素質があるわ
とりあえず、考えるより前に体が動いていた。
そのまま一番高いところからそのまま飛び降り、バカどもの前に降り立つ。
「えっ!」「い、今どこから…」「上から落ちてきた…のか?」「この高さを……えっ…えっ…」「お、お前責任取れよ」「やだよ。押し付けんな」「お、俺しらねぇぞ」
「あなた達、騎士でしょう? 善悪の区別もつかないのかしら?」
「あ? んなもん知るかよ。つーかお前どこから…」「あの高さから落ちて平然としてるなんて…」「なんでピンピンしてるんだ…」
このくらいの高さでそんなに驚かれても困るんだけど。
「上からよ。それよりあなた。足場に当てたわね。当たって崩れたらあなただって巻き込まれて危ないのよ。そんな事も分からないの?」
「ぐっぐぐ…」
みんな押し黙っちゃった。一応ダメな事って認識はあるのね。
だけれど、それがわからないのが一人。副団長が近づいてきた。
「おい! うちの団員に何か文句あんのか?」
「あるわよ。こんなところで剣の打ち合いなんかしてたら危ないでしょう!」
「ふん。ここは我々の場所だ。どこで訓練しようが勝手だろう? まぁ…それで被害がでたら、勿論お前らに責任を取ってもらうが、な」
「どうして?」
「こんな事しても崩れないように組むのが当然だ。我々とお前ら。この城にとってどっちが必要とされているか分かるだろう? 替えの利くものが偉そうにするなっ!」
こいつは一体何を言っているんだろうか。言ってる事めちゃくちゃよ?
そんな副団長が来たからなのか、さっきまで気まずそうにしていた奴らは、ニタニタと笑みを浮かべている。
もう既に勝った気分でいるらしい。自分たちでは何も解決できないのにね。
「あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」
「分かった上で言っているのだ。我々のが偉い。それだけだ」
やばい。マジでぶっ飛ばしたくなってきた。言葉が通じないんだもん。
我慢強いこのクリスさん(自称)をこんなに苛立たせるなんて、この人ある意味天才なのでは?
でも、流石に私が手を出す訳にはいかないわよね。
ここで手を出したらこいつらと同じ。でも、このまま受け入れる訳にもいかないし。
あぁもう! 一回向こうから手を出してくれれば楽なんだけどなぁ。
男なら言葉じゃなくて態度で示してほしいわ!
「おい、どうした? 分かったんなら謝罪してもらおうか」
ここは大人な私が折れるべきだろうか。でもこんな奴に頭を下げるのも嫌だなぁ。
後ろでは腰巾着達が『謝れ! 謝れ!』の大合唱だ。
全く手を出してこないので、仕方なく。ホント仕方なく頭を下げようと、某ドラマ並みにギギギと音が鳴りそうなくらいゆっくりと頭を下げかけたその瞬間、後ろから声が聞こえてきた。
「おやおや、久しぶりに来てみれば、随分とまぁ、見下げ果てたもんだねぇ」
「あぁ? 誰だお前」
振り返ると真っ赤なドレスを着たの白髪の高齢の女性が立っていた。
「おんや、あんたあたしを知らないのかい? 歳は取るもんじゃないねぇ」
口角を上げ、ツカツカと衰えない足腰で歩いてくる。
後ろに『凛』と墨で書いた文字が見えるようだわ。
近づくにつれ、離れているところにいる騎士は、ざわめき出す。
私の横に立つと、ポンと頭に手を乗っけた。
「あんた。こんな奴らに頭下げる必要なんて無いさね」
「一体どこの貴族の方ですかな? 見た事がありませんが、ここは老人の来る場所では無いですよ?」
まぁドレス着てるものね。男だと分からないか。
パッと見だけど、かなりいい生地を使っている。
それに、コルセットが必要無い位引き締まった体つきをしている。痩せてるんじゃなくて相当鍛えているわ。
というか、本当にこの副団長は社交というものを知らないんだろうか? 貴族相手にそんな事言ったらただじゃ済まないと思うんだけど。それとも実家が余程上位の貴族なんだろうか?
ドレスのお婆さんを見上げると、ニカッと笑って、頭をポンポンと叩いた。




