08 メイドの朝は早い
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メイドの朝は早い。
朝五時に起床。いつも朝はこの位の時間から剣の修行や格闘技の訓練をしているから別に苦ではないんだけど。
王都の一月の朝五時は寒いね。起きるのがこんなに辛いなんて。吸い込んだ空気が冷たくて噎せてしまうくらいだ。
新品のメイド服に袖を通す。うーん…。結構地味目かな? いや、うちのメイド服がコスプレ感あるから、普通のメイド服が地味に見えるのよ。でもそれにしたって地味ねぇ。なんというか、固い感じがする。
しかし、背中とか二の腕が冷たい。スカートの裾を持ち上げ触ってみる。そこまで厚くはないが薄くもない微妙な生地のメイド服だ。
まぁ、仕事して汚れたらジャブジャブ洗うんだからこんなもんなのかな? でもうちのメイド服の方が生地の質がいい気がするのよ。まぁ、貸与品だから仕方ないか。愚痴っても暖かくなるわけじゃないしね。
一応寒さ対策で毛糸のパンツと、通気性の悪いドロワーズを持ってきたので、お腹周りはあったかい。暫くはこれで頑張るしかないわね。
身支度を整え、外を見ようと近づくと、窓は結露が溜まっている。軽く手で拭い外を見るとまだ暗い。
「ディンゴちゃん、朝だよ?」
「んー……、あと五分……」
「いや、今日から仕事よ?」
そう言った途端、パッと目を覚まし飛び起きる。
「あぁっ! すまねえだ」
「早く着替えないと……、着られる?」
「だ、大丈夫だず」
ディンゴちゃんの着替えが終わるのを待って、食堂に行く。
「あ~……。あったまるぅ…」
シンプルなスープでも熱々だからありがたい。やっぱ王家の仕事は違うわね。これで冷たいスープ出されたら家に帰ってるところよ。
パンもそこそこ美味しい。固くてボソボソしてスープに浸さないと食べられないようなものじゃなくて良かった。しかし私の舌が肥えているからなのか、やっぱり物足りない。
「おはようクリス。そんな量で足りるのか?」
先輩メイドのサガさんが横に座り聞いてきた。ひどい寝癖だが直さなくていいのだろうか?
「おはようございます。…そうですね。まぁ元々そんなに食べないのでこれで十分ですよ」
「そんなんだから大きくならないんだぞ? 私の分けてやろうか?」
朝からアホみたいな量のスープとパン。それと山盛りのリンゴだ。見ているだけでお腹いっぱいだわ。
「お気持ちだけで大丈夫です。食べ過ぎると動けなくなるんで」
「そうかい? 全く見た目といい喋り方といい、どこかのお嬢様みたいなヤツだねぇ」
パンを豪快に引きちぎりながらモシャモシャ食べるサガさん。こんな見た目なのに正解ですよ。見た目通り野生の感なのだろうか。
さて、メイドの仕事をする訳だけど、ディンゴちゃんとは別々になった。
ディンゴちゃんに関しては、まず仕事の前に標準語を覚えてもらいたいとの事。
何せ、昨晩の歓迎会では私以外のみんなが通じてなかったからね。どうやら同郷の人はいなかったらしい。そんなに田舎なんだろうか?
途中から私が通訳するとかいうおかしな事になっていたけど、そんなに分からなくもないと思うんだけどね。
そんな私は、早速割り振りをされたんだけど、まさかまさかのランドリーメイドだった。こんな寒いのに冷たい水を使う仕事とは…。王妃教育とはこんなにも過酷なんだなと改めて思ったわ。
でもまぁ仕事だし仕方ないよね。そう自分に言い聞かせる。
うちでは洗濯機に乾燥機と前世並みに便利な機械を使っていたから楽だったけど、王城ではどうなんだろうか? 未だに手洗いだったらかなりの重労働よね。これは気合を入れてやらないといけないわね。
「あなたが新しく入った人ね」
「はい。クリスと申します。よろしくお願いします」
「はい。よろしくね。私はサトリア。洗濯の担当よ」
という事で、私の担当になったサトリアさん。なんて逞しい人なんだろう。こんなに筋肉が付くくらい大変なんだな。
「洗濯と言っても大変なのは昔の話。今はありがたい事に洗濯機があるから、回収してきた衣類やシーツを運んで、洗って、干して、アイロンがけして、畳んで戻すのが大まかな仕事ね……ってどうしたの?」
「いえ、なんでもないです……」
意外な事実にずっこける。
まさか洗濯機があるなんて聞いてないわよ。
まぁ、王都まではちゃんと電気が通っているんだっけ?
大量に洗うからか、コインランドリーもにあるような大きなドラム式洗濯機だ。乾燥も出来るやつよね。よく見ると、AmberLake製と書いてある。ソフィアのところの営業は凄いわね。とても優秀だわ。
……思ったんだけど、衣類をここまで運ぶのが重労働なのでは?
他のメイドさんを見ると、みんな逞しい。肝っ玉母ちゃんみたいな人がいっぱいだ……。
もしかしてこれを頑張ったら少しは筋肉つくかしら? 全然つかないのよね……。
期待していいのよね?




