06 久しぶりの王都
ガクンという停車時の衝撃で目を覚ます。結構寝た気がするけど、エーレクトロン駅に着いただけか。まだまだ時間がかかりそうだ。
しかし、相変わらず人が少ないね。乗り込む人も降りる人も少ない。
その後、アンバーレイク領からシェルホワイト領へと進むと丘陵地帯に入ったからか、カーブの線形が多くなる。それと同時に絶景が目に入る。
「うっわ、凄く綺麗……」
もう私の頭の中では世界◯車窓からのBGMとナレーションがリフレインする。
山や丘の変わった形を見ているだけで、結構楽しい。
しかし、こんなに間を縫うように走るのは、ソフィアのレオナルドへの嫌がらせかな? まぁ、トンネルを通すと時間が掛かるし、何より地下水を枯らさないようにする為なんだろうね。それにしてもカーブ多くない? 秋田新幹線並みの線形してるよ。
五~六くらいの諸領を過ぎて、やっと王都に入った。後半の方が時間がかかっているんだけど、景色を眺めていたら時間が過ぎるのが早く感じたわ。
そうして汽車はゆっくりと速度を落とし、王都の駅へ入る。王都の城壁の南側に位置するこの駅は大きな屋根で覆われているので、雨や雪に降られる心配もない。
他にも路線を建設中の為、ディアマンテ~オパルス間でしか運用してないけど、他が開通したらもっと賑わうでしょうね。
一番線のホームに止まった汽車から降りたけど、一番遠くのホームまで結構な距離がある。何番線まであるんだろうね? 今日はゆっくり眺める時間もないので、改札口へ向かう。
ただ難点があるとすれば、駅から出たら、一度検問所を通らないといけない事だろう。すぐ近くにあるけれどめんどくさい。今以上に混雑しそう…。
駅を出る頃には、空は少し暗くなっていた。
検問所へ行くと、私に気づいた衛兵さんがぎょっとした顔になり、いきなり敬礼をする。それを見た横にいたもう一人も私に気づき敬礼したまま固まってしまった。
「あの…通ってもいいんですか?」
「はっ! 女王様ならいつでもフリーパスです!」
「はっ! 女王様、どうぞご自由にお通り下さい!」
何でここでも変な呼び名が定着しているのかしら? 私そんなに酷い事してないわよ?
「ねぇ、誰かと勘違いしてない?」
「いいえ! クリス様は我々騎士団の女王様でありますっ!」
「そうです。あの悪鬼羅刹とは比べようもありませんっ!」
あとでお姉様とエリーにこの事伝えておいてあげよう。
まぁ、すんなり通れるならそれに越した事はないわね。
城壁横の馬車乗り場に行き、王城方面行きを探す。
「これね。えっと、発車時間は………まだ間に合うわね…」
「こ、これでいいだべさかー…?」
物凄い訛ってる子がいるね。そっちの方を見ると、喋り方は兎も角、結構可愛い女の子がいた。この子も王城の方に用事があるのかな?
「あなたもこの馬車に乗るの?」
「は…はいだ。あ、はいですだ…」
「まぁ落ち着いて。私もここに用があるから一緒に行きましょ」
「た、助かるだぁ」
「いいのよ。困った時はお互い様でしょ。私はクリスよ。短い間だけどよろしくね?」
「あ、あだず、ディンゴ。ツーズ村のぉディンゴって言うだぁ」
訛りの癖が強すぎる。何かいろいろ混ざってる気もするけど…、一体どこから来たのだろう?
「とーかいは凄いんだぁ、こんなめんこい子さおるなんてぇ、あらぁ、びっくりだぁ…」
訛りというか方言というか、今時こんなしゃべり方する子いるのね。そこにびっくりしている。私もなんて返していいのか分からないもの。
それはともかく、改めて見ると犬みたいなコロコロした子犬みたいな感じの美少女だ。なんというか、主人公の幼なじみヒロインみたいな顔つきをしている。
「そ、そげな見られてっとぉ、はーずかしぃだぁ…」
「あら、ごめんなさい。ついかわいかったから」
「まーたまだぁ、揶揄ってぇ。おら、そんなでもねーだよ?」
「いや、そんな事ないわよ。ここでもかなり上位に食い込むほどの顔つきしてるわよ。磨けば一気にトップに躍り出るくらい」
「おら、だんずはにぃがてだぁ……」
躍り出るってそういう事じゃないんだけど…。この子王都でやっていけるのかしら?
そんな風にディンゴちゃんを見ていると、停車場の方に馬車が到着したらしい。
「王城行き、今日はこれが最終便になりまーす。お乗りの方はこちらまでどうぞー」
「あら、あれを逃したら歩いて行かないといけないわね」
「ほんだら大変だべ。いぐべいぐべー」
「そうね。あ、おじちゃーん乗りまーす」
そうして大人数が乗れる幌馬車の乗り込む。後から何人か乗り込み、御者のおじちゃんが、もう誰も来ないのを確認してから出発した。
幌馬車故、後ろが空いてるから風が入ってきて寒いが、みんな分かっているのか、結構着込んでいる。私も結構着込んできたんだけど、ディンゴちゃんは、そこまで着てこなかったらしい。そのせいか震えているので、一枚脱いで渡す。
「え、ええんだか?」
「いいのよ。だって寒いんでしょう? 私は着込みすぎて暑いくらいだから」
「そ、そんじゃおごどばに甘ぇて……おぉ、あっだげぇだぁ」
対面に座る奥様達が微笑ましく眺めていた。
ちょっと恥ずかしいわね。




