05 一人でお出かけよ
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部屋へ戻ると、そこには誰もいなかった。
せめてコタツの上のみかんの皮とか、丸めたティッシュとかは、捨てていって欲しい。
あと、自室と勘違いしているメアリーの脱ぎ散らかした衣類とかが散乱しているし、本も読みっぱなしだし、床に乱雑に積みっぱなしなんだけど、流石にそこまではやってあげないわよ。
毎回私が片付けているんだけど、これじゃどっちがメイドか分からないわね。
このままの状態で行くのも気がひけるので、片付けられるところはやっていこう。
みかんの皮の下敷きになっていて気がつかなかったけど、これティッシュじゃないわね。
その紙を取り確認すると、裏側に何か書いてある。
『ちょっと遠方に行かないといけなくなったので、片付けお願いします。あ、お土産は期待していてくださいね。メアリー』
なんともフランクな文面だなと思う。
手に持って分かったけど、ほのかにみかんの香りがする。
とりあえずクローゼットの上に置いてあった大きいスーツケースを取り、衣類に下着と詰め込んでいく。
一応お父様から渡されたペラペラの封筒とメアリーの手紙も持って行く。
「まぁ、こんだけあれば足りるでしょ」
いつもと違って静寂に包まれた家を一人で出る。無論見送りはいない。
「駅までどうやって行こう…」
なんとか駅まで辿り着いたんだけど、めちゃくちゃ大変だった。
馬車は捕まらないし、所々雪かきしてあるけど、凍ってたりしてて歩きにくい。
滑って転ばない様、仕方ないから雪かきしてないところを歩いてきたんだけど、倍の時間がかかったわ。ブーツ履いてきて正解だったわ。
やっとのことで、街中に入るや否や街の人たちに声を掛けられたんだけど…。
「あれ、女神様家出っすか?」「女神様、こんな時期に旅行ですか?」「女神様一人でお出かけできるんですか?」「女神様もついに愛想尽かしたのか」「女神様、誰かと逃避行ですか?」
等と、やたらと女神様呼びされる。本当に止めて欲しい。絶対揶揄って言っているでしょ。
駅で切符を買って構内へ入るが、汽車が到着するまでまだ少し時間がある。
構内にある売店で何か食べ物と飲み物を買いましょうかね。
前世で新幹線内で焼売弁当や豚まんを食べると迷惑がられたけど、この世界ならまだオッケーよね?
と言っても、寒いからなのか、もう午後を回ったからなのか、温かい食べ物はほとんど残っていなかった。辛うじてあるのはおにぎりと、温かい飲み物だけだ。
他の商品は追加補充される気配もないし、今から温めても汽車が到着する方が早いだろう。
「おにぎりとお茶でいいわね。そっちのが旅っぽいし」
そういう訳で、おにぎりを三個購入した。明太子&マヨと塩サバとベーコンおかかの三種類だ。微妙に揃ってるのか揃ってないのか分からないわね。
そういえば前世で駅にあったコンビニはおにぎりの種類凄く多かったわね。
他にも結構あるわね。『ご褒美アップルパイ』ですって? うわぁめっちゃ気になる。でも、おにぎり三個買っちゃったし、一個が大きいからそこまで食べられるかしら?
でも残り一個か。買っちゃう?
そう思った矢先、横から来たおばさんがすっと手を伸ばして、最後の一個を躊躇いもなく持っていってしまった。
「…………」
まぁ、迷ったら買った方が良かったわね。次からはそうするわ。
でも、おかしいわね。うちでいっつもやられてて、学習してるはずなのにね。
暫くアップルパイがあった場所を眺めていた。
待つ事十分ちょい。モクモクと煙を吐きながら汽車が駅構内に入ってきた。
こうして改めて見ると圧巻よね。
ちなみにソフィアの趣味らしいけど、他の兄弟たちは電車の方を推したらしい。電気を安定供給できないからとの事で諦めさせられたらしいけど、ディーゼル車なら可能だったんじゃないかな?
まぁ、これはこれでカッコイイし、時代にも合ってるからいいかな。
二等客車ブロック席の窓側の席に座る。
どうせ私一人旅なんだから、無駄にお金かける必要もないしね。絡まれても撃退出来るし。
それにしても、季節のせいか時間のせいかは分からないが乗客はまばらだ。
よくアンバーレイク領までは乗っているが、そこから先は初めてだ。
エーレクトロン駅までは大体一時間くらいだが、王都までは合わせて三時間くらいあれば着くだろうか。そうなると王城へ着くのは夕方近くになるかもしれない。
まぁ焦っても仕方ないのでゆっくりするとしましょうか。
お腹が空いていた事もあり、ペロリとおにぎりを食べきってしまった。
意外と入るものね。そして、まだ少し余裕がある。こんな事なら、デザートとしてアップルパイを買っておくべきだったわ。というか、他にも有ったでしょうに、頭の中がアップルパイの事しかなかったから、そこまで考えが至らなかったわ。
食べ物の事ばっかり言ってるとお姉様やメアリーにソフィアを思い出す。
今何をやっているんだろうね?
遅めのお昼ご飯を食べたら、もうやる事がない。
こんな事なら何か本でも持ってくれば良かったわ。こんな時に携帯ゲーム機があれば退屈しなかっただろうけど無い物ねだりしても仕方ないので、呆っと窓の外を眺める。
一面銀世界で、代わり映えのない真っ白な平原がずっと続くだけだ。
そのまま眺めているとウトウトと眠くなってくる。




