01 プロローグ
「例のやつどうなってる?」
「ムホホホホ…。今の所は順調ですぞ兄者」
アンバーレイク家の長男シドと次男ムックは円柱型の培養槽を眺める。
いかにもな怪しげで暗い研究施設で例のサンプルから採取した細胞を元に培養をしている。ある目的の為に……。
「いやぁ…大変でしたぞ。何せサンプルが少なくて、ここまで培養するのに時間がかかりましたが、ここまでくればもう安心ですぞ」
「そうかそれは良かった。順調そうだな……。ん?」
「どうかしましたか?」
シドは培養槽に2つの塊がある事に気が付き、それを指摘した。
「なぁ、生物学は詳しくないんだが、培養槽に二つの塊があるんだが?」
「そんな事は起こりえないはずですが…」
ムックはバッと培養槽に近づき、掛けていた眼鏡を上げたり下げたりしている。
そんな年ではないのだが、前世の癖というものは抜けないようだ。
「たっ…確かに。いや、でもそんなはずは……」
培養槽の中には何かしらの生物の形を模したものと、長細い尻尾の切れ端のような、あるいはイカゲソのようなものが一緒に漂っていた。
「でも現に二つあるぞ。大丈夫なのか?」
「こ……コンタミネーションの可能性が…。こ、これはマズイですぞ…」
片手で口を押さえ呻くシドの足元を何かの生き物が通り過ぎていった。
「今のは……」
そしてその生き物はムックの足元も通ったようで、驚き飛び退いた。
ガチャッ……。
その瞬間どこかのボタンを押してしまったらしい。
培養槽は怪しげな光を放ち始める。
「お、おいどうするんだこれ?」
「し、知りませんぞ……。と、とりあえず止めて排出をしないと……」
そう言って機械を操作するムック。
「兄者、要求を受け付けませんぞ!」
「とりあえず電源を落としてみては?」
「そうするとデータが全部消えますぞ」
「今はデータより、この状況だろう…」
「それはそうなのですが……」
そんな風に言い争っているうちに、培養槽の光は収束していった。
「ほっ……よかったですぞー……」
「いや、全然よくないよ。これ絶対異常が起きているだろう?」
「と、とにかく調査はしますぞ。勿論です。でも、私一人じゃ怖いんで、一緒にいてくれませんか?」
「スケキヨも呼ぼう。こういうの詳しそうだし…」
「私より詳しいワケないと思うのですが……」
そんな時、研究室内の電気が全て消えた。
「なっ! て、停電?」
「おい抱きつくなよ」
「わ、私だって好きで抱きついてるワケではないですぞ」
『離れろ』『怖い』と言い争っているうちに電源が復旧したのか、明かりがついた。
「「あぁ〜良かった〜」」
「何してんの?」
呆れた顔のソフィアと無言でじっと見つめるスケキヨが研究室の入り口で立っていた。
「緊急時における兄弟の愛の確かめ方を…」
「嘘つけ。私にそんな趣味は無い。いいから離れろ」
まだ抱き合ったままの二人がいがみ合う。
「しかし、丁度良かったですな」
「何がよ」
「呼ぶ手間が省けたって事ですぞ」
その言葉にソフィアとスケキヨが『ここに来た事が間違いだった』と思い、嫌そうな顔をした。




