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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第4章

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74 番外編14 レオナルドの夏②


           *      


 「やっと終わりましたね」

 やっぱり間に適度に休憩を挟んだ方が効率がいいのでしょうね。

 今までより格段に速いスピードで仕事が終わりました。

 窓の外を見ると、まだ太陽が昇ったままです。いつもならとっくに陽が落ちて暗くなっているというのに。


 しかし、この解放感はいいですね。

 ぐーっと、伸びをして椅子に沈み込むように体重を預けると、コンコンとノックの音がしたので、「どうぞ」と入室を促す。

 てっきりウィリアムかと思ったのですが、入ってきたのはお母様付きのメイドに新たに加わったメイド。確か、サヴァとか言いましたかね。短めのピンク色のショートカットの女性だ。どことなく猫っぽい顔つきをしている。


 「どうかしましたか?」

 「いえいえ、お疲れではないかなと思いまして…」

 「まぁ、疲れてはいますが、今日はリアムがお茶を用意してくれたので、十分に休憩を取れましたので、そんなには疲れてないですよ」

 「そうですか…。じゃあ、クリス様のお店の新作スイーツは要りませんね。ありがとうございます」

 「待ってください。それはいただきます。というか『ありがとうございます』って食べる気満々でしたよね?」

 「そうですよ」

 「新作スイーツを購入したということは、オパールレイン領へ行ったのですか?」

 「はい。昨日書かれた手紙を渡しに行きました」

 「以前の手紙はどうしたんですか?」

 「んー…、残念ながら届いてないっぽいっすね…」


 そんな話あるのだろうか? 一応王家からの手紙なんですが。

 「それで、今回の手紙はちゃんと渡してきたんですよね?」

 「モチのロンです」

 この言葉遣いはどうにかならないんですかね?

 「それでどうでしたか?」

 「イベント終了後のレイチェル様へちゃんとお渡ししました」

 「それなら確実ですね。ご苦労様です」

 「はい。その場で読んでいただきました」

 「そうですか。それは良かったです。それで、いつごろ来れそうだとか言ってましたか?」


 私がそう問うと、「あー」と言いながら頬を掻くサヴァ。どうやらあまりいい返事は貰えなかったのだろうか? しかし、王家からの手紙です。無視するわけにはいきませんから、どういう返事をいただいたのか大変気になります。

 返事次第では対応方法を変えないといけませんからね。


 「言っていいんですか?」

 「言わないと分かりませんので」

 「うー……。レイチェル様はその場で読んで『却下』とニコニコしながら破りました!」

 ズコッと、机に突っ伏しそうになるくらいの勢いで驚いてしまった。

 まさか、却下するとは思いませんし、破り捨てるなどあってはならないことです。

 この人の事です。話を盛っている可能性はあります。事実なんでしょうか?


 「ちなみにその破り捨てられた手紙はありますか?」

 「ありますよー。どうぞ」

 そう言って差し出された手紙の封筒には、王家の封蝋が付いていなかった。

 そして手紙の方を見てみると……。


 『これは王家からの命令っす。クリスっちを差し出さないと大変なコトになるっすよ? あとパンツください』


 「……………………あの……、これなんですか?」

 どう考えてもこんな内容を母上が書くワケが………、いや、ありえてしまう可能性があるので完全に否定出来ませんね。しかし、この丸っこい文字は母上の字ではありません。

 「これ、あなたが書いたのですか?」

 「おっ! 流石は王子様ですねー。バレちゃったら仕方ないです。そうです。私が書きました」

 この頭の悪い書き方と短さは手紙としては不合格だと思います。


 「ごめんなさいですー。本物の手紙は大事に大事に肌身離さず持ってたんですけどー、いつものヒーローショーで激しく動き回ってたので、びちょびちょになって滲んだり破れたりしちゃったので、代わりに私が書いておきましたっす」

 これを代筆と呼んでいいかは別として、行動全てに問題がありますね。


 「その事を母上には?」

 「ちゃんと報告しました。そしたら『仕方ないわねー。次は気をつけるのよ?』と怒られてしまいましたっす!」

 それは起こってるというより、呆れられたのでは?

 どうしてこの人が母上付きのメイドをしているのか不思議です。


 「ちなみにシグマさんには思いっきり怒られました」

 「そうですか……ちなみに次の手紙はいつ頃出す予定ですか?」

 そう聞いた途端、顔から大量の汗が噴き出して、視線を彷徨わせている。


 「あ、あのぉ、こんなこと言うのもなんですけど、新しく書いてもらえませんか?」

 なるほど。無くしてしまったんですね。

 「母上に言って、担当を変えてもらうようお願いしてきますね」

 椅子を立ち上がろうとすると、慌てて私の前へ来て無理やり椅子に押し付ける。


 「だっ…大丈夫です。今度こそちゃんと渡してきます」

 「本当ですね?」

 「任せてください」

 このドヤ顔イラつきますね。


 「でも、クリス様に登城してもらっても、あの部屋は見せらんないっすよねぇ…」

 ピタッと手紙を書くペンを止める。

 「見せたらマズイですか?」

 「そりゃあ…少なくとも幻滅はされるんじゃないですか?」

 手紙を書くのを完全にやめてしまいました。


 「おかしいですね。クリスへの愛が詰まった素晴らしい部屋だと思うのですが」

 「偏愛の間違いじゃないっすか?」

 「大体合ってますね。ただ、私のクリスに対する愛はそんなものではありませんよ」

 「寤寐思服(ごびしふく)にならないといいっすね?」

 「何か言いましたか?」

 「いっ…いいえ。何も」

 全く。私のクリスに対する愛はそんなものではないですよ。夢の中でも会えますからね。


 「しかし、あの部屋をクリスにお見せできないのは心苦しいですね」

 「もう一部屋用意しますか?」

 「そんな事して怒られませんかね?」

 「追加してもいいような事をすればいいんですよ」

 悪そうな顔してますね。とても様になってます。


 そんな時、慌ただしいノックの音がした。今度こそウィリアムだろうと思い、「どうぞ」と言うと、我が城の大臣や官僚がどっとなだれ込むように入ってきた。

 私の横にさも優秀なメイドですといった感じでサヴァが控える。


 「どうかしましたか?」

 その中の一人、頭の寂しい恰幅のいい大臣が声を上げた。

 「レオナルド殿下。なんて素晴らしいのです」

 「はい?」

 「あんなにあった案件をこんな短期間で処理してしまうなど…。それに、どれも完璧で素晴らしかったですぞ」

 「えぇえぇ、学習すべき内容も文句のつけようのないほど完璧に履修されていました。私感激ですっ!」

 その後銘々に賛辞を述べていくが、全員少し窶れている気がします。


 「本当に助かりました!」

 最後には嗚咽混じりに泣き出す人も出てくるくらい。一体どうしたというのでしょう。

 「あの…、お気持ちは分かりましたから…」

 こんな大勢の男の大人達に囲まれるのはちょっと気分がいいものではないですね。

 様子を伺っていると、『良い事を思いついた』と言った顔をする。嫌な予感がします。


 「いままでサボっていた分までやりましょう!」「いやいや、ワンランク上の学習もした方が良いでしょう」「いいえ、この夏の異常気象で地方は大打撃を受けています。ここは対応策を協議すべきでしょう」「いや、でしたら視察が宜しいかと…」「これはもう、レオナルド殿下に指示を仰いでもらうのが一番では?」「それはいい案だ」


 それぞれが勝手な事を言い出す始末。これは収集がつかないのではないだろうか?

 その予想は当たったようで、その後の予定を全て埋められてしまい、翌日から、朝から晩まで、北へ東へと、いろんな所へ連れ回された。

 結局クリスに会えるのは年末に届いた招待状の時まで待たなければならなかった。

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