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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第4章

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70 番外編12 プリンの恨み〜名探偵サマンサと助手メアリーの犯人探し〜 ④


 翌日、汽車に乗ってアンバーレイク領にある屋敷へ向かう。

 なんか前来た時より発展している気がする。

 馬のいない馬車に乗りアンバーレイク公爵家へ向かう。いったいどうやって動いているんだろう? それにしても揺れないし快適だ。

 駅からあっという間に着いてしまった。前はもっと時間がかかっていた気がするのよね。

 無駄に大きい庭の通路を通り、扉を叩く。

 中から執事のおじいさんが出てきた。

 「これはこれはサマンサ様。本日はどういったご用件で?」

 「ここにクリスいるでしょ? ちょっと繋いで欲しいんだけど」



 アンバーレイク家のメイドに案内され、会議室のような部屋の前まで来た。

 前はもう少し地味なメイド服だったと思うんだけど、クリス好みのふわふわした感じのメイド服になっている。

 「クリス様はこちらにおられますが、今はちょっと…」

 「すぐ済むから大丈夫よ」

 「あっ…」

 そのまま扉を開けて中に入ると、どうやら会議中だったようだ。

 大きな机の上には所狭しと書類やら、本などの資料が乗っていた。

 アンバーレイク家の変態三兄弟にソフィアに、小さい女の子もいる。それに公爵夫妻と、他にも大人が十人程いる。そんな中にクリスが混ざっていた。


 「お、お姉様!」

 「さ、サマンサ様!」「どうしてここに……」

 クリスが驚きに満ちた顔をしている。

 サプライズが成功した時ってこういう気持ちになるのかしらね。まぁ、今回はサプライズじゃないんだけど。

 そんな事より気になるのはうちのメイドもいる事だ。


 「ヒナナにマーブル。あなた達クリスの専属じゃないのにどうしているのかしら?」

 「いや、その…(逃げ出したなんて言えない)」

 「えっとですね……(クリス様といた方が幸せなんて言えない)」

 「あぁお姉様、この二人は昨日、急遽ここに来る事になったんですけど、突然のお出かけにも関わらず、嫌な顔せずに付いてきてくれたんですよ? しかも長期の滞在になるというのに…」

 「本当かしら?」

 そもそもクリスがどこかへ行くと言ったらメイドの殆ど……、いや全員喜んで付いていくでしょうに。私だってそうするわ。

 「えぇ、もちろんです」

 「空いているのは私達二人しかいませんでしたからね」

 まったく…。丁度運良く付いてきたわけね。でも私に見つかったのが運の尽きよ。


 「そんな事よりお姉様はどうしてこちらに?」

 「クリス、あなた私のプリン食べたでしょ!」

 「え…、ぷ、プリン?」

 「そうよ。私とメアリーの名前の書いたプリンがあったでしょ!」

 「そ、そんな事でここまで……」

 「私が食べたい時に無かったのよ! それがどれほどの罪か…」

 あら? どうしてみんなそんな生暖かい目で見るのかしら? しかも、会議の最中でしょうにみんな一斉に静かにならなくてもいいのよ?


 「ね、ねぇクリス…あの時食べたのって……」

 ソフィアがクリスの袖を引っ張りながら尋ねる。

 「そう…だね。まさかこんな事になるなんて思わなかったよ…」

 「な、なんかごめんね……」

 バツが悪そうに下を向くソフィア。

 「いや、お姉様がおかしいだけだから気にしなくていいよ……」

 そう言って顔を両手で覆い天井を仰ぐクリス。

 おかしいわね? どうしてこんな空気になるのかしら?

 振り返るとメアリーもそっぽを向いて頬をぽりぽりしている。

 ヒナナとマーブルを見ると、あぁやっぱりみたいな顔をしている。なんで?

 他にもいたうちの使用人達も私と目を合わしたくないのか、バッと音がなりそうな勢いで横を向く。

 ………………あれ、これ私がおかしいのかしら? そんな事ないわよね?


 「……コホンッ……。えーっと……、クリス次やったら罰ゲームだからね」

 「……はい。肝に銘じておきます」

 こんな真顔のクリス初めて見たかもしれない。

 「じゃあベルさんに代わりに作ってもらうよう連絡しますんで…」

 憮然とした顔でポケットから携帯電話を取り出した。

 「もう作ってもらってるからいいわよ」

 「えぇ…………」

 何よその顔は。


 「というか何でクリスがここにいるのよ」

 お父様にここにいるとしか言われなかったから、何でいるのか気になっていたのよね。

 「いや、お父様に教会の建設を丸投げされたんで、アンバーレイク公爵家の皆さんとうちの技術者達と建設に向けた意見交換を…」

 「そんな昨日の今日でやる必要あるの?」

 「善は急げといいますか…思い立ったが吉日といいますか……、早め早めにやっておいた方がいいじゃないですか」

 うーん。こういった事はクリスの方が得意だからね。

 建物の外観とか内装とか考えるの面倒なのよね。ただ建ってれば別によくない?

 まぁ私が下手な事言って困らせるわけにもいかないから、この辺でお暇させていただきましょうか。というか、私が居ていい空気じゃないわ。


 「じゃ、じゃあ私は帰るわね」

 「あっはい……」

 「何してるの? 帰るわよ」

 「「えっ!」」

 えっ! じゃないわよ。

 普通にクリスの横に立っていたヒナナとマーブルに一緒に帰るように言っただけなのに、どうしてこんな驚かれないといけないのだろうか。


 「私来月から学園なのよ」

 「はい知ってます…」

 「だから、私の事よく知ってるあなた達に付いてきてもらおうと思って」

 「今回は遠慮しておきます(知っているからこそ逃げたんですけどね)」

 「辞退したいです(魔王からは逃げられないって誰か言ってましたね)」

 「まぁまぁ…。ここは私が残りますのでお二人はどうぞサマンサ様の元へ」

 「メアリー…あんた…」

 「すっごく嬉しそうね……」

 そういえばメアリーはやたら大きなスーツケースを持ってきていたのよね。


 「別にメアリーも帰っていいけど」

 「何てこと言うんですかクリス様! 私がどれだけクリス様の事を思っていると…」

 「だってメアリー、メイドの仕事できないじゃん」

 「それはそれ、これはこれです。もう荷物も持ってきているんですから」

 「分かったわよ。邪魔しないんならいいわよ」

 クリスはそういう甘いところがダメなのよ。もっと厳しくしないと。


 「私たちも荷物持ってきているんですが」

 「あら丁度よかったじゃない。そのまま王都へ行けるわね」

 「鬼かこいつ」

 「いいえ、悪魔かもしれないわ」

 何言ってるのかしらね。女神の姉が鬼や悪魔なワケないでしょ?

 「じゃあクリスにソフィア頑張ってね」

 「「あっ…はい…」」



 帰りの汽車の中でヒナナとマーブルがかれこれ一時間ほど放心状態だ。

 そんなにクリスと離れたのが悲しいのかしら? 私といられるんだからもっと喜びなさいよね?

 「しょうがないわね。戻ったら私のプリンあげるから」

 「いやいいです」

 「プリンごときで………」

 「何が不満なのよ…」

 「そりゃあ、ねぇ……」

 「これから三年間牢獄のような生活が待っているかと思うと…」

 ヒナナはともかくマーブルは一切隠そうとしないわね。

 「別に王都でだっていくらでも遊べるでしょうに」

 「ここ以上に楽しい場所なんてありませんよ?」

 「そうです。楽園から地上に追放された天使みたいなものです」

 自分の事天使だとか…。笑っちゃうわね。


 「そもそもルイス様の時と同じようにお付きのメイドはトーナメントで決めるんじゃなかったんですか?」

 そもそもそれがおかしいのよね。

 お兄様の時は庭にクレーターが出来るほどだったと聞くし、私の場合はきっと屋敷が吹っ飛ぶくらいかしらね?

 まぁそんな事にならないよう配慮して、普段から私のお世話をしているメイドを選んだんじゃない。

 あそこにいたのはたまたまよ。拒否しても無理やり帰還させなかっただけ感謝してほしいわ。

 あと一人必要なのよね。誰にしようかしら。



 屋敷に戻り、そのままの格好で調理場へ向かっている最中、偶然フィジーと出会った。

 「あら、サマンサ様今お戻りですか?」

 「えぇ、犯人が分かったからね」

 「そうですか。その犯人の方はどなたか存じませんが、お悔やみ申し上げます」

 「殺してないわよ」

 「えぇっ! 自分の食べ物を食べられた腹いせにボッコボコにしたんじゃないんですか?」

 「まぁ普通はそう思うわよね」

 「相手がクリス様だったので。違う方なら今頃この世にいません」

 「「だよねぇ」」

 私の事を何だと思っているのかしら? 別にそこまで心狭くないんだけど。


 「まぁ疑って悪かったわね。フィジー、あなたにも私のプリンあげるから食べましょ?」

 「最後の晩餐ですか?」

 「そうしたいならいいけど」

 「じょ、冗談ですよー……………あ、あはは………はぁ……」

 「メアリーが勝手にあっちにいついちゃったから、メアリーの分のプリンが残ってるのよ」

 「「「あぁ、なるほど、そういうことですね」」」

 あなた達、よく一言一句違わずに一緒に言ったわね。


 調理場に入ると、運よくベルシックがいたので、なにかお茶を淹れてもらう事にした。

 「サマンサ様、犯人分かったんですか?」

 テキパキと準備をしながら聞いてきたのでクリスが犯人だった事を説明した。

 「クリス様が無事でよかったです」

 「えぇ本当に」

 マーブルはもう少し口に出すのを我慢した方がいいと思うわ。


 「はいどうぞ。サマンサ様の大好きな砂糖たっぷりのミルクティーですよ」

 分かってるじゃないの。やっぱ疲れた時は甘いものが最高よね。

 ということで、メアリーが置いていったプリンをそれぞれテーブルの上に置いていく。

 勿論私も全部食べるつもりなので、全部置いてどれを食べようか、プリンとにらめっこしながら考えていると、ひょいと一つ私の目の前からプリンが上に浮いた。

 そのまま目で追っていくと、フィジーが私のイチゴプリンの蓋を開けて食べた。


 「あぁ…おいしー…」

 「「…………………」」

 ヒナナとマーブルは私とフィジーを交互に見やる。

 私は席を立ちフィジーの肩にポンと手を置いた。

 「三人目はあなたにするわ」

 「え? えっ? えっ? なんですか? どういうことですか?」

 状況を理解しているであろう、ヒナナとマーブルそれぞれ説明した。


 「つまりね学園入学時のお付きに選ばれたのよ」

 「な、なんでですか?」

 「そのプリンに貼ってあった付箋見た?」

 「あっ……、あ、違うんですこれは」

 「食べてしまったものは仕方ないわ。来月からよろしくね?」

 「そ、そんなこれは罠だったんですか?」

 「いや、たまたまよ。ベルシックとどっちにするか考えてたし」

 その様子を呆れた目で見ていたベルシックが、突然驚き両手で胸を押さえた。

 「あっぶな……」

 ちょっと、どういうことかしらね?


 「私達も地獄行きだから、仲間が増えるのは嬉しいわ」

 「三年間のムショ暮らし頑張りましょ…」

 「やり残したことがいっぱいあったんだけどなぁ」

 「大変だと思うけど、お勤め頑張ってね」

 こいつらは私の事なんだと思っているのかしらね。


 その後は労いの意味も込めてプリンをそれぞれあげたんだけど、どうしてかしら? なんで涙を流しながら食べているのかしら? そんなにその期間限定美味しかったの? 私もそれ食べておけばよかったとちょっと後悔した。 


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