65 番外編11 年末のガールズトーク③
という事で、どんなくだらない話をしていたのかを私とイデアさんで語るのだが……。
急に立ち上がったソフィアに腕を取られ引っ張られる。
「ちょっ! な、何?」
「もう言ってくれれば一から教えたのにぃ…。今から教えてあげるから帰りましょ?」
「いやいいから」
「でも興味があったんでしょ? 善は急げよ」
使い方間違ってない?
「今ここでクリスちゃんを連れて行かれると困るんだけど」
「だそうよ。ソフィア」
「………………………………わかったわよ……」
分かってもらえたようで何よりだ。でも暫くはソフィアには気をつけないといけないね。
「それはそうと、うちでゲーム作ってたんだって?」
「何でソフィアが知らないのよ?」
「ずっとスケキヨ君のラボに篭ってたからねぇ」
「じゃあ、しょうがないわね」
あ、簡単に納得しちゃうんですね。
「作業中にトカゲだかイモリみたいのが出てきてびっくりしちゃったこと以外は順調だったわ」
きっとあったかかったんだろうね。
十月になると急激に冷えるからね。暖を求めて入ってきちゃったんだろうね。
「えぇなんかやだぁ…」
「大丈夫よ。その一匹だけだったし、きっとムック君の髪の中に入ってるんじゃないかしら?」
「それはそれで嫌だけど、まぁそれならいいか…」
いいんだ。そんな簡単に納得できちゃうんだ……。
「ところで出来たの?」
「ある程度は出来たわよ。でも本体が無いから」
「パソコンじゃダメなの?」
「ソファとかベッドに寝転がってやりたくない?」
「あー分かる分かる、分かるわぁ」
ソフィアがうんうん頷きながら、賛同する。
しかし、内容を聞いた途端動きが止まる。
イデアさんってあんまり物事考えて話さないのかな?
「私が悪役令嬢なのはいいわ。でもね、私とクリスの絡みが無いのは許せないわ!」
バンッと机を叩き立ち上がるソフィア。
これは暫くかかりそうだなと、カフェラテのカップを口につけたら中身が無かった。どうしようかなと手持ち無沙汰な感じでカップを持ったまま窓の外を見たら、大きな真四角のバッグを肩に掛けた二人組と目が合ってしまった。
その二人組はそのまま店内へ入ると、取っ組み合いをしていたイデアさんとソフィアの反対側。私の横に自然な流れで座った。
「あっ! そこ私の場所……」
先ほどまで座っていた場所を奪われて、初めて冷静になれたようだ。
顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。もう少しソフィアは自重したほうがいいと思うの。
「ところでプロフィアさんとクオンさんはどうしてここに? というかその格好は…」
「んーこれ?」
クオンさんはだぼだぼのセーターに膝下までのブーツと、こんな寒い季節によく生足を出しているわね。正気の沙汰とは思えない。
「こればっかりは譲れないっしょ」
「まぁ本人がいいならいいけどさ」
クオンさんとは対照的なのはプロフィアさんだわ。白いセーターに茶系のロングスカート。
席に着くなり店員さんを呼んでそれぞれ飲み物とデザートを頼んでいるけど、どさくさに紛れてイデアさんもソフィアも追加で注文した。
私も飲み物だけを追加注文したんだけど、四人ともそれぞれ交換しながら食べている。なんか私だけ疎外感がある。
しかしそんな事より気になるのは二人が肩に掛けていた大きなバッグだ。
「ねぇそれ何?」
「あ、これ?」
そう言ってケーキを食べるのを止めて、バッグから取り出したのは同人誌だった。それも正統派なBL本だ。
「正直期待してなかったんだけど、ここにこんなに同志がいるなんて思わなかったっしょ」
取り出す本はどれもイケメンとイケメンがまぐわう本ばかり。この二人前世男だったよね。まぁ、趣味は人それぞれだけどさぁ。
「ねぇそんなのエリーの領ならいくらでも見放題なんじゃないの?」
ソフィアが鋭いツッコミを入れる。確かにそうだわ。
「ソフィア様、残念ながらあそこは魔窟です。理想郷とは対極にあるのです」
プロフィアさんが悲しそうな目で訥々と今まであった事を語った。
元々は仲間の一人、ギガさんの趣味をエリーが大層お気に召し、エンジェルシリカ領の騎士団全体に広めたそうだ。
最初は忌避反応を示す騎士たちが大勢いたのだが、何回も言われ続けるうちに感化され、筋肉こそ全てであると、鍛え始める人が続出したそうだ。そしたらみんなムッサイおっさんばかりになり、イケメンやら中世的な顔立ちの人ですら筋肉を求め汗臭い場所に変わっていったのだそうだ。
話す会話は、筋肉を増やす話か、トレーニングの方法を話すばかり。
気がつけば筋肉で剣を弾いたり粉砕したりするくらいの集団に変貌してしまったそうだ。
そして極め付けは、エリー教が今年の夏に爆誕し、男同士でまぐわうのが正しいと広まったそうだ。
女子的には色めき立つ出来事ではあるのだが、筋骨隆々の汗まみれのおっさん達が絡み合っているのはNGだったそうで、二人とも退職届を叩きつけて出てきたのだそうだ。
訓練中におっ始めることは流石にないが、物陰に行ってすぐ行為に及ぶのだそうだ。それも何人も。至る所からしている声が聞こえるそうだ。
地獄かな?
「というか、帝国に隣接しているところでそんな事になっているなんてヤバイのでは?」
「襲いに来た帝国兵は今まで返り討ちに遭ってたけど、今は全員生け捕りにして教え込んでいるそうです」
プロフィアさんが私の質問に答えると、シーンと静かになってしまった。
ギガさんの趣味が斜め上方向に発展してしまったんだろう。
兵士達のフロンティアが開拓されまくって、行くとこまで広げてしまったのね…。
どおりで二人ともずっとうちにいるなと思ったのよね。
クオンさんは帰らないし、プロフィアさんも夏の終わり頃に来てからずっといるし、二人ともうちのメイド服着てるしね。
お父様からもうちで雇う事になったよと言われたけど、具体的な理由は今初めて知ったわ。そりゃあ辞めたくもなるってもんよ。
というか、そんな環境でテレンス君は大丈夫なんだろうか? どうか気を確かに、強く生きて欲しい……。
私はエンジェルシリカ領だけは絶対に行かないようにしようと、心に決めたのだった。




