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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第4章

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62 後日談 ウエディングドレスは誰だって憧れるもの⑩


           *      


 無事に式は終わり、後はアフターセレモニーを残すだけだ。

 ということで、先にみんなは外へ出て新郎新婦を待っている状態だ。

 私も階段の横で控えている。


 「じゃあお父様、お母様をお姫様抱っこして、階段を下りてください」

 「えっ?」

 「えっ? じゃないですよ。ここはお父様の男気を見せて下さいよ」

 「あら、私お姫様抱っこってちょっと憧れてたのよね」

 「いやぁ…無理じゃないかな? ほら、そのレイチェル重いし」

 「は?」

 「…ごほんごほん…違う。レイチェルの着ているドレスは重いから、私には無理だよ」

 「そんなに重くないわよ?」


 重いですよ。お母様の趣味で選んだウエディングドレスは、この寒い時期に肩出し背中出しのドレスだけど、スカート部分は、ボリュームたっぷりのパニエを幾層にも重ねている。お母様のはチュール生地をハードとソフトの両方をふんだんに使っているし、その他の生地も部位によって使い分けているので結構な布の量で重いと思う。

 そんなお母様のウエディングドレスは、動くたびに聞こえる衣擦れの音が心地よい。

 まぁ、お母様の体幹を持ってすれば羽衣を纏ってるくらいの軽さかもしれないけどね。


 「えぇ…お父様、お母様が好きじゃないの?」

 「お母様かわいそう……」

 「うぐっ………わ、分かったよ。そんな目で見ないでくれないか。た…ただのジョークだよ。ジョーク。ははは。女性の一人二人抱えられないで何が男だ。なぁ?」

 「わー。さっすがお父様!」

 「見直したわお父様」

 「それでこそお父様だね」

 「ふふ。じゃあ、あなたよろしくね?」

 退路を断たれたお父様は、笑顔を張り付かせたまま、お母様を抱えようと、一旦立ち膝になる。

 お母様も頬を朱に染めお父様の太ももに座る。

 後は、膝裏と腰の辺りを抱えて立ち上がるだけだ。


 「うっ………………………」

 立ち膝の体勢のまま固まるお父様。

 「「「お父様?」」」

 「あなた?」

 白い顔で脂汗を額から滝のように流すお父様。

 「……すまない……」

 お母様に触れている手がプルプルと震えている。もしかして…。

 「腰をやってしまったようだ…」

 「「お父様………」」

 お兄様とお姉様がシラーっとした目でお父様をみつめる。

 「しょうがないわね。ほら、あなた動かなければ痛くない?」

 「まぁ、安静にしていれば……」

 言い終わる前にお母様はお父様の背後に回り、ブーケをポンとお父様の胸元に置くと、さっと抱える。まさかの逆お姫様抱っこだ。


 お父様はお母様の背中に手を回している。

 そのまま、教会の外へ通じる扉へと颯爽と歩みを進めたのだった。

 「やだ…かっこいい……」

 「ホントにね」

 「僕もお姫様抱っこしてもらえるだろうか…」

 お兄様はそういう相手がいるんですか?


 そのままお父様をお姫様抱っこして現れたお母様に、一同は一瞬驚いたが、一部の人を除いていつも通りだななと思い直し、祝福の意を込めてフラワーシャワーを投げた。

 最初はライスシャワーにしようと思ったんだけど、食べ物だし、掃除面倒だし、花びらの方が綺麗かなと思ったのよね。

 それに舞う花びらって結構映えると思うのよ。


 「「「「「「「「わー、おめでとうございまーす…………………………え……あれ?」」」」」」」」

 教会の扉から出てきたお姫様抱っこされたお父様と、抱えるお母様を見て、一同「なんか違くね?」と、一瞬固まってしまうが、いつも通りだなと思いなおし、再び祝福の声を掛けた。


 「おめでとうございます!」「やっぱレイチェル様が抱えましたか」「これはこれでいいですね」「ジェームズ、君はやっぱり面白いね」「新郎が抱えられて出てくるなんてここくらいのものではないかね?」「しかし幸せそうだ」「そうですね」「羨ましい…」

 階段を下り、祝福の中笑顔で応えるお母様。

 お父様は腰が痛いのか、恥ずかしいのか顔を埋めている。


 その後、近くの椅子にお父様を下ろしたお母様。

 「あなた大丈夫?」

 「あ、あぁ。少し休めば大丈夫だよ」

 「そう?」

 なんだかんだ仲いいのよね。抱えていたブーケをお母様に手渡した。


 「じゃあお母様、最後のイベントが待ってますよ」

 「最後? まだ何かあるの?」

 「はい。そのブーケです」

 「これをどうするの?」

 「掛け声を掛けるんで、後ろに向かって投げてください」

 「そんなんでいいの?」

 「はい」

 ということで、未婚のゲストには是非とも参加していただきたい。


 「はーい。じゃあ、未婚の方はこちらへどうぞー。男の方も参加していいですよー」

 「あら、何が始まるのかしら?」「未婚って言われると恥ずかしいわね」「参加者の殆どが独身じゃん」「あら、ブーケトスね」「ブーケトス?」

 何人か知っている人がいるなと思ったら、前世組じゃん。

 でも一応説明は必要よね。


 「今から新婦さんが、後ろに向かってブーケを投げますんで、上手くキャッチできた方は、次に結婚出来ると言われてまーす」

 「「「「「「「「「なんですって」」」」」」」」

 一気に女性陣の目つきが変わった。獲物を狙う獰猛な肉食獣のようだ。まぁ、一部男性も混じってますが…。


 「絶対に獲るわ!」「いいえ、私よ」「この位置なら…」「婚期を逃した私に譲りなさいよ!」「ババアはすっこんでな」「お前終わったら表でろ」「クリスと結婚…」「なるほど」「つまりこれを取れればクリス様と結婚出来ると」「なら、話は早いわね」「私はソフィアお姉様と……」「リアムきゅん、いやレオたんもいいわねぇ……」「クリスクリスクリス………」「殺してでも奪い取る…」


 こえーよ。そこまで本気にしないで欲しいんだけど。

 というか、これを取れたからといって、私と結婚出来るわけないでしょ? 結婚する権利を得られると勘違いしてるのかしらね?


 「えっと、お兄様は参加しなくてもいいんですか?」

 隣でニコニコ見ていたお兄様に一応聞いて見る。

 「あ、僕はもう婚約者がいるからね。態々参加して、下手に獲ってヘイトをかいたくない」

 賢明な判断だと思います………………………。待って、え? 婚約者? 聞いてないんだけど、お兄様の相手って誰なんだろう?

 考えようと思ったんだけど、参加者の方から「早くしろ」とヤジが飛んできたので、慌ててブーケトスを開始する。


 「じゃ、じゃあお願いします…」

 「いくわよー!」

 殺伐とした雰囲気の中、朗らかに笑うお母様が、後ろに向かって思いっきりぶん投げる。

 流石お母様。よくあんなに高く投げましたね。

 空高く飛んだブーケは、暫く空を舞った後、勢いを失って欲望の沼に落下していった。


 「私私私ぃっ!」「いいえ私よっ!」「おら、どけ! お前!」「なんであんな遠くに…」

 醜態を隠そうともせずにブーケを取ろうとするが、中々掴めないのか参加者の手を掠ってはポンポンと跳ねている。


 「くそっ…あっちに行っちゃったわ」「後もう少しだったのに……」「最後に奪えばいいんじゃ…」「それルール違反だし…」「じゃあここで掴めないとダメってこと?」「なんてこった」「何この難易度」

 そんな感じで白熱した時間も終わるときはあっけなく、ストンと参加者の一人の手の中に落ちた。


 「えぇ! 僕?」

 ブーケを見事獲得したのはテオドールたんだった。

 あら、じゃあ次回の結婚式はテオドールたんなのね。相手は誰かしら?

 流石にテオドールたんが獲得したことによって、他の参加者の方々は奪い取ろうって行動は止めたらしい。

 まばらな拍手が大きな拍手に変わると、事態を理解したのか真っ赤な顔になって恥ずかしがってしまう。本当にかわいいなぁ…。


 「そうか…。うちの息子が花嫁に……」

 テオドールたんのお父さんが、目頭を押さえ上を向いていた。まだ結婚が決まったわけでもないのに気が早いわね。

 そんなテオドールたんの横にスッとアーサーが何気なく立った。

 そわそわしているけど、テオドールたんはアーサーに気づいていないようだ。


 まぁ、普通はこんなにわちゃわちゃしてないんだけど、いい雰囲気になって良かったわ。

 カメラマン役のグリさんとグラさんに視線を向けると、サムズアップで返してくれた。どうやら結構いい写真が撮れたようだ。これはいい宣伝になるわね。

 今後の運営に思い馳せていると、ソフィアがツンツンと袖を引っ張ってきた。


 「なーに?」

 「なんかさぁ、この前、ウエディングドレス試着したじゃん?」

 「そうだね」

 「この前休んだステラとシフォン含めうちのメイド達も着てみたいって言うんだけどどうしたらいい?」

 「うちのお兄様やお姉様も着たい着たい言うから、明日明後日やったらいいんじゃない?」

 「ホント? 悪いわね」

 「いいのよ」

 別に私が行くなんて一言も言ってないしね。

 レンタル衣装着て写真撮るサービスも結構儲かるかもしれないと、頭の中でそろばんを弾く。


 その後は披露宴会場に移動し、食事会を行い本日の挙式は無事に終わったのだった。

 ただ、ブーケを獲れなかった一部の女性陣が酒に酔って暴れた以外は。


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