56 後日談 ウエディングドレスは誰だって憧れるもの④
「そういえばあーしさんはずっと帰らずにいたけど怒られないの?」
「だから、その呼び方するなし。……まぁ、いろいろあって少し距離を置きたいなって思ったんよ」
さっきのエリー教の話か、それともクライブさんと何かあったのだろうか。
でも、夏に来てからずっといるんだよね。
しかも、炊事・洗濯・裁縫と花嫁修行かなってくらい頑張っている。
「まぁ、私もクオンの考えには賛同するところがありまして」
プロフィアさんも秋の半ばくらいに大きなスーツケースを持って来て、現在居候中だ。
そして、今日は結婚式のパンフレット用にウエディングドレスを着てもらうモデルを募集中って話をどこから聞きつけてきたのか、話の出た数時間後にはうちのメイドさん達より早くやりたいと申し出てきたくらいだ。
今もそわそわどきどきしていてかわいい。
そして見慣れない女性が一人、元気そうな男の子を連れている。
「あー、クリスっちは初めてだよね。うちの同期のギガ」
「よろしくねー」
「あ、はい。初めまして」
ギガと呼ばれた女性は豊満という言葉そのものみたいな感じだ。長い髪の毛を大きめのシュシュで軽く縛って左側から前に出している。
そして、うちのミルキーさんよりも大きい胸! 肩こらないんだろうか?
……こうして見ると、三人とも髪の毛の縛っている位置がそれぞれ違うのね。
右側にサイドポニーのクオンさん。後ろにポニーテールのプロフィアさん。左側に軽く縛って垂らしてるギガさん。
「二人ともいつものスーツ着ていないのね。私もそういう格好で来ればよかったわぁ」
ギガさんはいつもの二人が着ている執事服だけど、胸が大きすぎるのかジャケットがケープみたいな感じになってる。そこまでして着る必要もないのではないだろうか。
そんなことより気になるのはこの男の子だ。
「初めまして! 僕テレンスっていいますです!」
「ご丁寧にどうも。私はクリスって言うのよー」
とても元気な男の子だ。まだ言葉遣いがたどたどしいけど、ハキハキと話す。
そんなテレンス君をギガさんが後ろから抱えている。残念ながら背が低いからか、頭の上に胸が乗ることはないよいうだ。
「えっと、今日はこの子を私がプロデュースすればいいんですか?」
「は? んなわけねーだろ」
おっと一気に不機嫌になってしまった。
「あ、ごめんなさい…」
「んーん。いいのよぉ。私の説明が足りなかったわねぇ」
「ギガ、僕ドレス着てみたい!」
あら!
「テレンス様ぁ、ダメですよぉ。テレンス様はずっと、ずっとず〜っとそのままでいいのです。いつも言ってますよね。オネショタは素晴らしい。はい」
「おねしょたはすばらしい!」
「そうです。よくできました。クリス様もご一緒に」
「オネショタは素晴らしい……」
「グッド。ということですのでぇ、テレンス様に女装は不要ですのよ」
「はい…。肝に銘じます…」
目が笑ってない。というか、あれって洗脳だよね?
ちょいちょいとクオンさんとプロフィアさんを連れ出し、疑問を一つぶつける。
「ねぇ、エリーがああなったのってあの人が原因でしょ?」
「よくわかってんじゃん」
「お恥ずかしながら…」
あーね。どうりで既視感があるわけだよ。
あの人の影響力強すぎない? どうかテレンス君にはその影響を受けずに健やかに育ってほしいわ。
「ねぇ、気になったんだけど、あの人の前世の仕事ってもしかして…」
「あーヤクザよヤクザ」
「確か、やり手のインテリヤクザで、名のある元ヤクザの人と戦って、何かに絶望して飛び降りたとか聞いてますね。詳しく覚えてなくてすいません…」
なんか似たような話を聞いたことがあるけど、まぁ違うでしょうね。中身が違いすぎるもの。
「じゃあ、二人もそうなの?」
「違うし。あーしは前世で公安だったっしょ」
これがぁ? なんでこんなギャルに…
「信じてないっしょ。まぁ、しゃーないか」
「クオンのは趣味ですからね」
「そういうこと」
趣味…ねぇ……。
「じゃあプロフィアさんは?」
「絶対に当たらないっしょ」
えー、なんだろう。ヤクザに公安ってきたら、そういう職業系の人かな?
自衛官、弁護士、警察官……。もしかしたら関係なくて花屋さんとかかな?
「私は議員秘書やってました」
「そんなの当たらないよっ!」
まぁ、前世で何の仕事してたのかあんまり関係ないけど、ちょっと気になるよね。
でも、プロフィアさんは言われれば納得だわ。
いつも物腰柔らかいし、無理難題吹っかける暴虐無人のジコチュウな人の手綱を握ってるもの。
誰の事とは言わないけどさ…。
でも、気付いたら責任全部押し付けられてたりしるんじゃないかな?
ちょっと前まで、やつれてた気もするし…。
え、私? ただのサラリーマンだったよ。ごめんねー変わった仕事してなくて!
しかし、ギガさん程じゃないにしても、二人とも大きいよね。
イデアさんに頼んだって言ってたけど、絶対に自分の好みよね。
ふと、後ろから強い圧を感じて振り返ると、ロベルタさんが涙を流し、唇を噛みして悔しそうな顔をしていた。血が溢れているけど、そんなになるなら見なければいいのに…。
「あ、クリス様ー、準備できましたよー」
うちのメイドさんが準備が出来たと呼びに来てくれたので、その言葉と同時にみんなホールの方へ移動し始めたんだけど、未だその場を動こうとしないロベルタさん。
「あ、あの…」
「悔しい…。そして憎い……。胸の大きな女が憎い……」
「イデアさんは?」
「いなかった……」
あー…多分寒いと出不精になるから、家にいるのかな。今日一日こんな感じになるのかな。
「あとで、イデアさんに私からもお願いに行きますから、機嫌なおしてください」
「ん…」
こくんと一回頷く。
「あと、今日撮った写真なら加工も出来ますから…」
「大きくできる?」
「出来ますよ。その後で真実にしちゃえばいいんです。見返してあげましょう」
「わかった。私が大人気なかった。行こうクリス」
どうやら機嫌を直してくれたようだ。
まぁ、写真の加工は出来るけど、あの女神のことだ。中途半端に叶える可能性もあることは黙っておこう。




