55 後日談 ウエディングドレスは誰だって憧れるもの③
「しかし、それにしてもこんな寒い中、よくこんなに集まってくれたわね」
「そりゃあそうですよ。クリス様がまた何か新しい事業を始めるって聞いたら気になりますし」「えぇえぇ。しかもクリス様がいっぱいいろんな服を着ると言ったら来ない訳いかないじゃないですか」「クリス様が久しぶりに着せ替え人形になると聞いて」「わっふるわっふる」「私達的にはご褒美です」
「何言ってんの? あなた達にも着てもらうに決まってるじゃない」
うちのメイドのほぼ全員が参加しているという異常事態。あなた達仕事しなくていいのかしら?
「知ってますよ。でもクリス様もいっぱい着替えるんですよね?」
「まぁ、そうね」
「つまり、どれが一番似合うかを決める訳ですね?」
「違うわよ」
まったく。私の話を聞いていたのかしら?
今日は、ブライダル事業の展開として、ドレスや料理などのパンフレットを作るため、そのモデルとして呼んだのよ。
まぁ、男の使用人さん達が皆仕事で来れないのは予想外だったけど、もしかしてあなた達押し付けてきてはいないでしょうね?
「ところで、ソフィアお願いしていたもの持ってきてくれた?」
「モチのロンよ。というか、いつでも持ち歩いてるもの」
そう言って肩にかけていたバッグから取り出したのはミラーレス一眼カメラ。
もうね。いろいろ段階を吹っ飛ばしてる気がするけど、便利だからこの際、わざわざツッコミを入れるような野暮な事はしない。
「ねぇ…それってさぁ、前世だと三十万くらいする位のやつじゃない?」
「どうなんだろ。多分その位するのかな? でもクリスを撮るのに安いやつなんて使えないわ」
詳しくないから分からないけど、バッグに入ってるレンズも入れたらもっと高そう。
「そういえば、いつもいるステラさんとシフォンさんはいないんだね」
「あぁ、あの二人は風邪ひいて寝てるわ」
「え、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私の作った薬飲んで寝てるもの。明日には治るでしょ」
「そうなんだ。お大事に」
「まぁ、今日が楽しみすぎてはしゃぎすぎて熱出しただけだから」
「えぇ……」
それは大丈夫なんだろうか? というか、熱出すほど何をはしゃいでいたんだろうか。
「と、いうことで、今日はよりカメラを巧く扱えるグリとグラを連れてきたわ」
「お久しぶりです。今日はスプラッターものの撮影ですか?」
「夏の肝試し以来ですね。今日はゾンビものと聞いたのですが…」
「久しぶりね。どっちも違うわ。今日は、パンフレットのモデルの撮影をお願いしたいのよ」
「そうですか…。真冬に純白を鮮血で染め上げるものが見れると聞いたのですが…」
「私は、冬にゾンビものなんて斬新だなって思って楽しみにしてたんですが…」
二人は、長いレンズのついたカメラを持ったまま項垂れる。
この二人と趣味は今後一切分かり合える気はしないわね。
「ねぇちょっとソフィア。ちゃんと話したの?」
「したわよ。私だってびっくりしてるくらいだもの」
「もしかしてメリーちゃんが?」
一緒についてきたであろうメリーちゃんが、ぎくっといった顔で視線をずらす。
「メリー?」
「違うのです。メリーは悪くないのです。グリとグラが曲解しただけなのです」
「メリー、何を言ったか教えて。この二人じゃ話にならないから」
「いや、そこまで酷くは…」「言われた事を言っただけなのに…」
なんか弁明してるようですが、尻すぼみになって後半は全然聞き取れない。
「武闘派な麗しのソフィア姉様が悪逆非道な悪漢から花嫁をお救いする話を撮ると聞いたのです」
どうしてそれがあんな話になるんだろうか? もしかして武闘派の部分だけにインスピレーションを受けたのかな?
「まぁそうなの? まぁあながち間違いじゃないわね。今回は大目に見てあげるから、次からはちゃんと話を聞いておくのよ? そうしないとトラブルが起こって大変だからね」
「はーい!」
「じゃあ、折角だし、一緒にそれの撮影しましょうか」
「しないよ。しないしない。というか、何をどうやったらそんな話になるの?」
まったく。ソフィアの家の人達もなかなかに頭がおかしい。
とりあえず、今回の趣旨を説明したんだけど、若干二名が不安だ。
「血糊は使わないんですか?」
「料理に使うネズミの死骸はどこにあるんですか?」
不安しかないから、うちのメイドさんを何人かつけて監視させよう。
折角のイベントをぶち壊されたらたまったもんじゃない。




