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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第1章
24/433

24 レイチェルVS将軍/サマンサVSメアリー


 打ち合いの範囲が広がると予想されたため、全員がかなりの距離ととって観戦することにした。

 「お姉様…。そのパラソルやら椅子やらドリンクは一体どこから持ってきたんです?」

 「これから面白いものが見れそうなんだから、ゆっくりくつろげるようにするのはごく自然なことだと思うのだけど?」

 何人かのメイドさんが、それぞれ椅子やらテーブルやら用意している。

 まぁ、ただ突っ立って見ていてもいい気がするのよね。



 物凄く大きい大剣を右肩に担いでるパジェロ将軍と、スマートに長剣を構えるお母様。

 てっきり、レイピアみたいな細剣だと思ったら普通に長めの長剣なんですね。かっこいい。対してパジェロ将軍の大剣はでかくて重そう。絶対切れ味より重さで潰し切りするタイプでしょ、あれ。

 先に動いたのは将軍の方。勢いつけて剣を振り下ろす。ショタは父親のスタイルを真似てるんだね。

 我が家の芝生に一陣の亀裂が走る。弁償してくれんのかな?

 勿論、お母様は横へさっと避ける。すかさずそこへ打ち付けるために大剣を振り上げる。が、もうそこにはお母様は居なかった。

 「どこを見ている?」

 首だけを動かし声のする方、剣の上へ視線を向ける将軍。

 振りかぶった大剣の上に悠然と立つお母様。

 「ぐぅっ――――!」

 力任せに勢いをつけて大剣を横へ薙ぐ将軍。

 タンっと後ろへ軽く回転して着地し、スッと軽く剣を将軍の首元で寸止めする。

 すげぇ。まだ三分くらいしか経ってないよ?

 「お前、前より強くなってないか?」

 「当たり前でしょう? 子供ができたら母は強くなるものよ。あなたは逆に弱くなったわね」

 話もそこそこに、まんざらでもない表情でこっちへ歩いてくるお母様。

 威風堂々と歩くその様は、強者の余裕が溢れ出ている。

 そこに飛び出し九十度でお辞儀をするショタ。

 「め、めっちゃかっこ良かったっす。感動しました。お、俺を弟子にしてください!」

 ガーンと擬音が付きそうなほどに、口を大きく開けて驚愕する将軍。

 「ふむ…。まずは、言葉遣いと礼儀作法。目上の人に対するリスペクト。そして何より女性に対する接し方をマスターしてからね。あなたは剣を学ぶ以前に学ぶことが多すぎますね。話はそれからですわ」

 「そ、そんな……」

 まぁねぇ。顔以外赤点レベルだからなぁ。やっぱり口の悪さにおこだったんだね。

 来て早々、その家の女子を剣で叩きのめしたいみたいな発言していたらねぇ…。

 「正直どこまで強くなりたいのかも分からないのよね」

 頬に手を当てるお母様。たまに魔王様モード忘れるときがあるね。

 「我が家の基本を見てもらった方が早いわね。サマンサ、メアリー。今日は好きなだけやっていいわ」

 「えぇ!めんどくさい!何で私がやらなきゃいけないのよ。そこまで動く気なかったんだけど」

 まさか自分に振られると思わなかったのか、ここぞとばかりに不満を漏らすお姉様。

 「ふふ。これだからサマンサ様はダメですね。想像力が足りませんね」

 「はぁ? なんですって!」

 「いいですか? クリス様も見てるんですよ? こんな機会なかなかありませんからね。私がどれだけ強くてかっこいいかを見せて惚れさせて、私にメロメロにしてみせますわ。まぁ、相手は別にサマンサ様じゃなくていいんですよ。サマンサ様程度の強さなら、同僚のメイド達と同じですからね」

 「ほ、ほぉ~…。言うねぇ…。いいわ受けて立とうじゃないの。 精々死なないよう気をつけなさいよね」

 ピクピクと青筋を立てながら、努めて笑顔でそう言ってのけるお姉様。

 お母様が強いんだろうなとは薄々思っていたけど、あそこまで圧倒的に強いとは思わなかった。

 そんなお母様直々に指名されたのだから、それなりには強いんだろうな。


 二人とも間合いを開けて武器を持って構えている。

 短剣二本を前に構えるメアリーと、右片手で長剣を前に出して構えるお姉様。

 先に仕掛けたのはメアリーだった。バシュッと地を這うように前へ短剣を構えながら勢いよく突っ込んだ。

 お姉様は長剣で軽く競り合い、横一閃に軽く薙いだ。

 後ろへ一回、二回と回転しながら後ずさり、その場で垂直に高く飛んでお姉様目掛けて大量のクナイの雨を降らせた。

 その場に長剣をぶっ刺し、くないの雨に低い姿勢で突っ込むお姉様。

 突き刺さったクナイを、軽やかに掴みメアリー目掛けて投げ返す。

 相対するメアリーも空中でクナイを掴み、投げ返している。

 うーん。今目の前で行われているのは果たして人間同士の戦いなんだろうか。

 あんなに高く飛べるし、ずっと空中で舞ってるし、何より二人ともあの大量のクナイをキャッチボールでもするかのように投げ合ってる。剣で戦うんじゃないの?

 何より、あの重力に逆らってるスカートは何なの? 形状に変化が無いんだけど。

 そう思っていたら、メアリーがどこから出したのかシンプルな銀色のメイスをお姉様目掛けて振り下ろしてきた。

 お姉様もバックステップで後ろへ戻り、突き刺した長剣を頭上に上げて、柄と刃先を手で支えてメアリーからの一撃に耐える。

 その後お姉様とメアリーで、女子同士とは思えない鈍く重い音を響かせながら打ち合っている。

 それはまるで、戦場で互いのボスキャラがチートみたいな戦いをしているようで。

 もうね。頭おかしいんじゃないかな。人間辞めてないとあんな動きできないよ?

 まぁ見ごたえはあって、非常に興奮するし楽しいので私としてはこれ以上の娯楽はないんじゃないかなと思う。


 その後も、どちらも一歩も譲らずの戦いが続いており、将軍とショタとレオナルドはぽかーんと口を開けて眺めている。

 でも、うちのメイドさん達は、

 「最近平和だったからね」

 「ちょっと鈍ったんじゃない?」

 「やっば。私も腕落ちてるかもしれないわ…」

 等と、ちょっと頭のネジのずれた発言をしている。

 しかし、なんということでしょう。あんなに綺麗に張り詰めていた芝生は、見るも無残に捲れ、縦横無尽に剣戟の後が痛々しく残ってる。

 泥だらけで戦っているので、ドレスもメイド服も汚れている。なのに、全然勢いが衰えない。ここまで行くと、もう恐怖だよね。

 いつまで続くんだろうと思っていたら、お母様がパンパンと手を叩きながら「はいはい、そこまでよ」と、止めに入った。

 ただ、二人とも相当ボルテージが上がっているのか、止めようともしない。

 「おらぁ、死ねや!」

 「くたばれ! アバズレェ!」

 ものすっごい汚い言葉で罵りながら、両者振りかぶった。あれが入ったら痛いで済まないんだろうなぁ。

 「終わりって言ったでしょう?」

 お母様が二人の間に入って武器をぴったりと止めている。

 頭が???で埋め尽くされる。

 え? 一体いつの間にあそこまで移動したの? しかも武器を軽々と止めてるし、何より上側で持つように止めるなんて……。

 軽々と掴んでるけど、ピクリとも動かない。

 もうお母様が魔王様でいいんじゃないかな? 一番その単語がしっくりくるよ。

 「好きにやって良いって言ったけど、ヤリすぎよ? 誰がここを開墾するまでやれって言ったのよ。見なさいな庭師のロックとラック兄弟の三人が顔を手で覆って泣いてるじゃない」

 たまたま近くで庭の手入れをしていた屈強な筋肉ダルマみたいな大男三人が、庭の惨状を見てさめざめと泣いている。かわいそう…。

 「で、でもお母様、こいつに勝てばクリスとハッピーエンドになる予定だったのよ?」

 「そうです。ここで勘違い女を完膚なきまでに叩きのめせれば、クリス様と結婚エンドに行けたかもしれないんですよ?」

 そんな未来はない。

 「はっはっは…。そんな未来はないわよ? あっても私を倒さないと許可しません」

 だそうですよレオナルド殿下? 頑張ってくださいね。

 「因みにあと一年以内にここまで出来るようになってもらうからね、クリス?」

 え? 今なんて?

 「え? そんな人間離れしたこと出来ませんよ? 大体お兄様だって出来ませんよね?」

 ここはお兄様にも振って、逃げてしまおう。

 「何言ってるの? ルイスは出来るわよ?」

 「あのくらいは基礎中の基礎だよ? クリス?」

 そう言って空中でジャンプしながら竜巻でも起こすかのように、横に回転しながら剣を回している。

 嘘でしょう? 初耳なんですけど。ちょっと眩暈が……。

 私以上にがっくり項垂れているのは将軍親子。

 大の男が少女のようなか細い声で「知らない、知らない。儂こんなの知らない」と、うわ言のようにつぶやいている。

 「ま、まぁ今日はこんなにボロボロでもう訓練なんて出来ませんので、皆さんでカードゲームでもしませんかー? なーんて。あはははは……」

 呆然としている二人をフォローしないといけないからね。将軍はお母様がなんとかするでしょう?


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