51 所詮他人事よね
部屋に入った時にいるのは気づいていたんだけど、それよりも早く問い詰めたかったい気持ちが早ってしまったのよね。
私の鬼気迫る迫力にちょっと怯えていたお父様が、こほんと軽く咳払いして話を引き継ぐ。
「そうですよ。私のかわいい娘を王家になど嫁がせられませんよ。一生私と暮らしていくんですから」
「きっしょ」
「お父様、今はそういう冗談はいいですから」
ジロッと睨むと、頬に朱を注いで視線をずらすお父様。
あら、ちょっと怒らせてしまったかしら?
「うちの家の仕事の都合上クリスを王家に嫁がせる事は出来ないんですよ。護衛騎士ならともかく王妃となると制限が出来てしまいますし、何よりバレたら私もコレですよ」
手のひらを首の横からスッと動かし、打ち首を表現する。
「親子揃って小心者ねぇ」
食べ終わったアイスの棒をくるくると回しながら、他人事のように話す駄女神。
「バレなきゃいいんじゃない?」
「まぁそうなんだけどね…」
「今から先の事考えてくよくよしたって仕方ないでしょ? 今のうちだけなんだから、女の子楽しんだらいいじゃないのよ」
まぁそうね。そうよね。
折角望んだ事なんだから、楽しまないと損よね。
幸いレオナルドも夏の間来なかったし、秋もきっと忙しくて来ないかもしれないしね。
「そうね。折角だし楽しませてもらうわ」
「そうよぉ。折角だからいろいろ楽しんだらいいと思うの。半年しかないんだし、涼しくなってきたからいっぱいできるでしょ?」
そう言って、輪っかを示した指と人差し指で何か表現している。
本当にこの人女神なんだろうか? 邪神の間違いじゃないかな?
「ねぇ半年ってどういう事?」
声のする方に振り返ると、ソフィアとマーガレットがいた。
ドアが開けっぱなしだったみたいだ。
もしかして話を聞かれていたんだろうか? まぁ、大体は知ってる話だし、聞かれてもまずい事はないのだけれど……。
「あら、ソフィアちゃんにマーガレットちゃん。盗み聞きは良くないわよ」
「ドアが開いてたから聞こえただけよ。それよりも半年でクリスが男の娘に戻るって事でいいの?」
「そうよ。そんなところで立ってないで、中入って聞けばいいのに」
「そ、そうね。そうさせてもらうわ」
意外とあっさりと入室を促されて、珍しく恐縮してるソフィアと、普通に恐縮してるマーガレット。
「で、どうなの?」
「どうもなにも、そのままの意味よ。大体半年で元に戻るわよ、良かったわねソフィアちゃん」
「う……うん……」
どうしてソフィアに良いのか分からないけど、まぁ心配したって事でいいのかな?
「と、ところで…聞こえてきたんだけど、あなたって本当に女神様なの?」
「あら、ちゃんと様付けで呼んでもらえるなんて嬉しいわ。そうよぉ」
「じゃ、じゃあ私の願いもっ!」
「ごめんねぇ…。地上にいると、力が制限されちゃうから何度も使えないのよ。だから、お願い事はまた今度ね?」
「ぁう………」
すんごいしょんぼりしている。一体何をお願いしようとしたんだろうか。
そして、マーガレットもがっくりしている。一緒にお願いしようとしたんだろうね。
まぁ、半年後には戻ってしまうらしいけど、やる事は変わらないのよね。
むしろ無くなった事によって動きやすくなったくらいかな。




