47 どうやらまともな人はいないようです
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というわけで、応接室へ戻ったのだけど。
「お兄様もお姉様も、それ着たんですね…」
「当たり前でしょ? 女神の姉なんだから」
「お兄様も……」
「これすっごく好みだよ。色違いってあるの? とりあえず同じのを十着欲しいいんだけど……」
目をキラキラさせながら、興奮するお兄様。
「なんか私のより、女神感強くない? ねぇ、私にもそういう感じの作ってよ」
天界の方がそういう感じの衣装多いんじゃないですかね?
「むふー!」
ロベルタさんも、女教皇の衣装に身を包んでいるけれど、一体いつ誰が作ったんですかね?
ロベルタさんの前に行き、どうなっているのか気になって色々見てしまう。
「ふむふむ。へー、こうなってるのかぁ…。マントもスカートも引きずる感じだと豪奢な感じでいいですね。……うわぁ、ここの刺繍気合入りすぎでしょ。私も欲しいな……」
「クリス?」
「あっ、ごめんさない…。じろじろ見ちゃって」
「構わない。もっと見ても…いいよ…」
とまぁ、コスプレ会場の待合室みたいな感じになっているんだけど、その中で一人異彩を放っている者が一人いた。アーサーだ。
「あ、アーサー…なにやってるの?」
「土下座に決まっているだろう。あぁ、私のテオドールがこんなにもかわいいなんて……、直視したら死んでしまうかもしれない。とりあえず、気絶しないよう靴を舐めてもいいかな?」
「えぇ、それは困るよぉ…」
「アーサー…………」
テオドールたんは、おろおろと困っている様子が凄くかわいいのだが、アーサーのお父さんのオーガストさんが、絶句した表情をしていた。息子のアレな瞬間を目撃した親の表情だ。
「よし。これで形は整ったな。後は私が根回しをしておくから、施設なり信者なり、適当に作っておいてくれ。これで私の杞憂も一つ減るってもんだ。じゃあ、ジェームズ、後はよろしくな」
「あっ、はい…」
ソファから立ち上がり帰り支度を始める宰相。
「しかし、私の息子がこんなにかわいいなんてな。今日から一緒にお風呂に入って、一緒に寝ような」
「それは、いい…」
「なっ!」
そりゃあ、この年の子供が親と一緒にお風呂はいったり、寝たりしないでしょうよ。
まぁ、たまにお母様に強制的に連れられることはあるから、強く否定できないところではあるけれど。
今この場にお母様がいない事が唯一の救いだわ。
「なぁ、この衣装ってあとどれくらいあるんだ? あるなら全部言い値で買うぞ」
「パパ………」
多分普段の宰相とのギャップに驚いているんだろうな。結構引いてるもの。
あの後、普通の格好に着替えたテオドールたんが、宰相達と一緒に帰って行った。
まさか、本当に女神やる羽目になるとは思わなかったわ。
「ところで、自称女神様は帰らないんですか?」
「ひっどーい。まるで私が邪魔みたいじゃない」
まぁ、本当に邪魔なのはまだうちに泊まってるんですけどね。
下手に絡まれるのも嫌なので、いつもの普段着に着替えてお見送りをしたんだけれど。
「ちょっと、ロベルタ! その衣装は何?」
「教皇のコスプレ」
「えっ? えっ? なんでそんな格好を?」
「キャロル、アンには言ってないの?」
「面倒な事になりそうだから言ってないわ。まぁ、ボスから言われるでしょうから、時間の問題じゃない? 今言うか後でバレて根掘り葉掘り聞かれるかの違いよ」
「そっか………。これは街で買った」
「そんな嘘が通用するわけ……」
「え? ホントに? 凄いわね。こんなのまで売ってるんだ。でも、暑くないの?」
「信じちゃったよ…」
額を押さえて呻くキャロルさん。
「結構暑い。通気性悪いから、結構汗だくになる」
「まぁ、それは大変ね。じゃあ、さっき漁ってたら見つけたんだけど、これに着替えたら? 涼しそうよ?」
漁ったって、人の家で何やってんのこの人。
アンさんが持っていたのは、テオドールたんに着せようとした、予備の紐の服だ。
「………それは、アンが着るといい。きっと似合う…」
「え? そ、そうかしらぁ」
満更でもない顔でニヤついている。
確かに、私もテオドールもロベルタさんも背が低くて胸がぺたんこだ。
でもあれは、胸の大きい人が着るべきだと思うけど、サイズ的に厳しいんじゃないかな?
アンさんの身長や体型だと着ることすら難しいのではないだろうか?
この後、言われるがまま着たまではいいのだけど、案の定パッツパツすぎて、脱ぐに脱げない状況になったそうだ。
その脱げない衣装のまま、残りの生徒会メンバーも返ったので、やっと落ち着く事が出来るなと思っていたんだけど………。




