40 救出作戦開始
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お兄様達と馬車の行った方へ屋根伝いに向かうと、一、二分も経たずに馬車を発見できたのだが、どういう事か分からないが、大勢の街の人達が二台の馬車を囲んでいた。
先に到着していたであろう生徒会のメンバーやうちのメイドさん達が何かしたのだろうか?
何せ全員祈りのポーズを取っていたからだ。
御者の人はただ困ったような顔をしておろおろするだけだった。何かを言ってもこれだけの人数の前では掻き消されて聞こえないのだろう。
「丁度いいわね。とりあえずあの御者を捕まえて縛っちゃいましょ」
言うが早いか、メイドさんがそれぞれ軽く馬車まで飛び、あっという間に縛り上げ、肩に担いで戻ってきた。
別のメイドさん達は繋がれた馬の紐を外し、こちらへと馬を連れてきた。
馬が移動する間は、みんな道を開けてくれていた。なんか怖い。
「じゃあ、私たちは宰相の乗る方。クリスはアーサーの乗る方をお願いね」
「んふ。クリスきゅんは私と一緒ね」
「クライブは弟と一緒じゃなくていいの?」
「少しでも離れていたいんだ…」
そうして、ルイス・サマンサ・エリーとクリス他生徒会の四人のグループに分かれた。
「ねぇ、ちょっと偏りすぎてない?」
「戦力で等分にすればこんなもんだろ? こっちは非力な女子が四人もいるしな」
私女子枠なんだ。まぁちょっと嬉しいかな。
でも、クライブさんはともかく、アンさんだけは向こうにして欲しかったなぁ。
そんな感じで上を見上げると、いつもの変態の顔ではなく、キリッとした表情になっていた。
やっぱり、仕事とプライベートは分ける人なんだな。ただ極端なだけで。
これが終わったら速攻で離れれば害は無いわよね?
そして、お兄様達は前の馬車へ向かったので、私たちは後ろの馬車へと向かった。
しかし、馬車に向かう時に街の人達が祈りのポーズのまま、サッと道を開けてくれるんだけど手慣れてない?
「ちょっと今から救出作業が始まりますんでー、少ーし離れてて貰えますかー」
こくんと祈りのポーズのまま後ろへ下がる街の人達。もうこれ何かドッキリの仕掛けじゃないの?
そして、馬車の扉側にキャロルさんとアンさん。
その反対側には私とクライブさんとロベルタさん。
「じゃあいいか? 開けたら前のやつを倒すんだ。気絶させるだけでいい」
「はい」
「もし、失敗してもあと三人いる。だれかフォローするだろう」
ロベルタさんを見ると、にっこりと笑い返してくれた。まぁ、目元は隠れててよくわからないけど、いつも以上に口角が上がっていたから、多分笑ってるんだろう。
「じゃあいくぞ」
クライブさんが馬車に近づき下の辺りを触る。そして―――――
「おらぁあああああああっ!」
ベリベリベリ―――――
クライブさんが、馬車の側面を無理矢理引き剥がすように壊していく。
同時に向こう側の馬車でも屋根をエリーが剥がしていた。
パワー系の兄弟なんだな。
一瞬あまりの力技に驚いていると、ロベルタさんが声を発する。
「…クリス……」
「…あ、すいません」
「…ん」
栗の皮むきのように、綺麗に剥がされた側面から神官の男の顎を狙って拳を出す。
同時に扉側から入ってきたキャロルさんとアンさんがえげつないくらいの威力で神官二人を伸していた。
ロベルタさんは鮮やかに気絶させていた。
馬車の中央にそれぞれ座らされていたアーサーとテオドールが、何が起きたのか分からずに辺りを見回している。
そして、仕事モードが終わったのか、アンさんがテオドールをぎゅうっと抱きしめ、馬車から下ろした。
一人残されたアーサーに手を差し出し声を掛ける。
「大丈夫ですか? どこか痛いとことか無いですか?」
「あっ…あぁ……め、女神様ーーー!!!!」
緊張の糸が切れたのか、途端に涙を流し抱きつくアーサー。
「だから女神じゃないって…」
「もういいじゃん女神で。可愛いんだしさー。未来の義妹が女神とか最高じゃん?」
義妹? キャロルさん何言ってるんですかね? もしかしてこの人も妄想激しい系の人なのかな。
こんな時に冗談に付き合っている余裕は無いので、無視してアーサーを抱き起こし、馬車から降ろす。
降りると、テオドールが嫌がってるのか、アンさんの顔を両手で押しのけているが、力が弱いのかどんどんと押し返されていく。もう少しでキスというところで、キャロルさんに叩かれる。
「…っなにすんのよっ!」
「あんたも誰彼構わず手をつけようとするのやめなさいよ…。こんな聴衆の中で…」
「……そ、そうね。ちょっとはしゃぎすぎたわね」
ちょっと? ちょっとの意味を辞書で調べた方がいいですよ。
アンさんが落ち着いたと同時に逃げるようにアーサーの後ろに隠れるテオドール。
何あのかわいい生き物は。アンさんじゃないけど、私もちょっと構いたくなるかわいさだわ。
………おっと、いけないわね。同じ穴のムジナになってしまうところだったわ。気をつけないとね。
そんなもう一匹のムジナであるお姉様はというと、もう一台の馬車の扉の前でげんなりしている。
馬車の扉のところにいたお兄様もお姉様と顔を見合わせて深いため息を吐いていた。
いったい何があったんだろうか。
ぴょんと飛んでお姉様の横にお兄様が移ると、中から酷く落胆した神官が三人と宰相と教皇がエリーに支えられながら降りてきた。




