22 前より悪化している気がする
* * *
一週間後―――――
「いろいろと聞きたい事があるんだけど」
「なんでしょうか、クリス様」
「どうしてシスターの格好をしているのかってことよ」
「だって、今日はアイデアル教の人たちが来るんですよね。であれば、敬虔な信者の格好をするのは当然では?」
「そうですよ。だから、今日は全員。孤児院の子供達もバカンスに来ているあの人達にも協力してもらってるんです」
エペティスさんとアマベルさんが、さも当然といった感じで答える。
「なるほどね。じゃあ、百歩譲ってこういう格好するのはいいとしましょう。私もコスプレとか好きだから、こういう格好するのは全然アリよ」
「では、何がお気に召さないのです?」
「何がって、どうしてこんなにバリエーションがあるのよ。生地とか形とか長さとか…」
それを聞いた二人が「あぁ…」と何だそんな事かと言わんばかりの返事をする。
「まぁ、そうですね。端的に言えば、我々の性癖がぶつかり合いまして、一週間では決着がつきそうになかったんですね。なので、とりあえず、全部の意見を取り入れて、いろんなパターンで全部作ってみました」
「なるほどね。で、どうして私はこの形になったのかしら」
「まぁ、そこはリアルに殴り合いで勝った人の意見を…」
マジか……。
何をそこまで、彼女達を惹きつけるんだろうね?
生地だって、サテンにエナメル。ラテックスにフェイクレザー。それに水着用のストレッチ素材もある。逆に普通の質素な生地なんて一つも見当たらないんだけど、フェチが過ぎない?
まぁ、生地はいいとして、それぞれのパーツも揉めたんだろうなぁ…。
袖だって。普通の長袖もあれば、姫袖や袖の先がカフスになっているものもあるし、アームカバーっぽくなってるものやパフスリーブとやりたい放題じゃない。
でも一番やりすぎなのは腰から下よね。
まず、ここは意見が一致したのね。全部スリットが入ってるもの。
ただ、その長さとか、前の部分が前垂れみたいなフロントスカートっぽいのや、オーバースカートになってるものとかいろいろだ。
ちなみに私のは、このくそ暑い時期に通気性の悪いサテン生地で、妙にレースとか装飾の付いた姫袖の短い前垂れのシスター服だった。
一体誰の意見が通った結果なんだろうね?
ただ一番気になるのは、腰の少し上の部分からスリットが入ってるから、横からパンツの一部が見えるのよね。
でも他の人とか履いて無いように見えるんだけど。
「ねぇ? 履いてる?」
「あ、パンツですか? 私は履いてないです。だって、スリットから見えるところが不恰好なんで。確認しますか?」
アマベルが前垂れを持ち上げようとするので、やんわりと止めた。
「そういうのいいから。大丈夫」
「遠慮しなくていいのに………」
「私はこういうのつけてます」
エペティスさんは、徐に股のあたりをゴソゴソした後に、なんか歪んだヘアバンドみたいのを取り出した。
「これCストリングって言うんですけど、ここだけ隠せんるんです」
そう言って、バッと前垂れを片手で持ち上げるエペティスさん。
「いい! いい! そういうのいいから。こんな真昼間の人の大勢いるところで何やってんのよ」
「いや、見てもらったほうが分かりやすいかなと思いまして」
何で私の周りにはこんなのしかいないのかしら。
って、近づけなくていいから。早く戻しなさいよ。
「クリス様にはTバックを仕方なく履いてもらってますが、どうですか? 溢れてませんか?」
「えぇ。凄く変な締め付けされて不快だわ。これなら履かないほうがマシね」
「では、どうぞ」
「どうぞ?」
「えぇ。だから、ここで脱いでください」
「………………………………」
「黙ってたら分かりませんよ。仕方ないですね。脱がせてあげますから、片足上げてもらっていいですか? ……って、いったぁ!」
あまりにも馬鹿な事を言うので、アマベルの頭を思いっきりグーで殴ってしまったわ。
「そりゃそうでしょ。すいませんクリス様。アマベルが馬鹿な事を言いました。実はもう一パターンありまして、下の方がレオタードみたいな感じに作ってありまして、そっちならきっちりとしているんですが、それだと、大きすぎるクリス様のものがくっきりと表れてしまうので、今回は見送りとさせていただきました」
「まぁそんなの着ていようものなら通報されてしまうものね」
「一応作ってはあるので、あとで私たちの前だけで来てもらってもいいですか?」
「まぁいいけどさ」
実際に気にはなってる。最近はなんでも嫌って言うより、ある程度受け入れた方が被害が少ないと学んだのよね。
「それで、やっぱり包まれてないと不安だと思いますので、代わりと言っては何ですが、こちらを…」
「…………い、いや、いらない。というか大きすぎるんだけど」
前言撤回。さすがにこんなのここでつけたらおかしいでしょ?
昨日お父様と話してた靴下みたいなのを手渡されたけど、流石にこんなに太くも長くもないわよ。
とりあえず、それでエペティスの顔を何回かはたいた。
「いたっ! ………あ、ありがとうございます! ……あっ! 何で止めるんですか!」
お礼を言われた瞬間にやめてしまった。
もう。今日はめんどうな人たちが来るのに朝からこんな疲れるような事させないでほしい。




