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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第1章

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21 結局何も決まらない/全部チクるメアリー


     *     *     *


 レイチェルとクリスの居なくなった応接室は一瞬静寂に包まれた。

 レイチェルの足音が聞こえなくなり、暫く経った頃。

 静寂を破ったのは、普段姦しいサマンサだった。

 「ねぇ、お父様。クリスには本当の事を言わなくていいのかしら?」

 普段とは考えられない口調と声音で話すサマンサ。

 「いや、言う機会がなかなか無くて…」

 「本当にお父様はそればっかりね」

 中間管理職と大物政治家のやりとりみたいになっている。

 「いや、言わなくてもこっちが求めている事を自発的にやっているからね。今は言う必要性が感じられない、が正しいかな…」

 「そうね。お陰で国内はおろか他国への足がかりになっているものね」

 「そうだな。それとは別に結構楽しんでいる様だが?」

 「そりゃそうよ。つまんない物売ってたってしょうがないでしょう?」

 「私には商才は無いからね。助かるよホント」

 「領地経営もでしょう?」

 「はは、は…。敵わないな…」

 「そんな事よりも一番驚いてるのはお兄様よ」

 「?」

 「いや、その格好よ。何もお兄様まで女装しなくてもいいのよ? 気でも触れたのかと思って。まぁ、可愛いからいいけど…」

 「いや、案外こういう格好が好きだったんだなと、最近思ってね。というか、気が触れてるのは君の方だろう?」

 「まぁ、失礼ね。あれは演技よ」

 片目を瞑りながら右手を折り曲げて胸の前に添える。

 「いや、素だろう。あれは」

 「素だと思ってたよ」

 二人してすかさず突っ込みを入れる。

 「今の私があるのは、この家の教育方針の賜物だと思うのですが?」

 「そういうことにしておこうか」

 話が長くなりそうだったので、諦める形で話を打ち切るジェームズ。

 「まったく、私を何だと思ってるのかしら?」

 不満だったのか、紅茶を一気に呷るサマンサ。

 「まぁ、実際はこうでもしていないと頭がおかしくなりそうだからね」

 さっきの続きとばかりに話し出すルイス。

 「お父様の仕事の事?」

 「そう」

 「確かにあれは子供にはきついわよね」

 腕を組み、目を瞑りうんうん唸るサマンサ。

 「平気で出来るサマンサのがおかしいんだよ」

 半眼でサマンサを見るルイス。

 「こればっかりは慣れてもらうしかないんだよねぇ…」

 頬を掻きながら、申し訳なさそうにするジェームズ。

 「まぁそのお陰かこういう趣味を見つけられた事は良かったよ」

 「現実逃避なんじゃなくて?」

 「まぁそうとも言うね。でもクリスも言ってたじゃないか。ライフスタイルだってね。どうだろうか?」

 そう言いながら謎のポーズを決めるルイス。

 「そ、そうなの…。前から不思議に思ってたんだけどそのポーズとか言葉使いって何なの?」

 若干顔を引きつらせながらサマンサが問う。

 「何って、君たちの店で売っている本に触発されてね。あれはいい…。すごくいいものだ…」

 恍惚の表情で目を閉じながら感傷に浸るルイス。

 「あれは、クリスとかうちのメイド達が書いたものよ? サインでも貰ったら?」

 「そうだったんだ。作者までは知らなかったよ。今度僕が主人公の作品でも創ってもらおうかな」

 「メイド達に書かせると、おせっせの本になるわよ?」

 「おせっせって何?」

 「知らないなら知らないままでいた方がいいわよ?」

 「ちょっと怖いんだけど。え、何?」

 この時、後ろに控えていたメアリーの目が妖しく光った事には誰も気づかなかったのだった。


 「それはそうとお父様? クリスの婚約の件は私たちにも言って欲しかったわ」

 「蒸し返すねぇ…。もうこの件で胃がキリキリするんだけど」

 笑顔が固まり、頬を引きつらせるジェームズ。

 「ちなみにサマンサではダメですかって聞いたら、速攻で拒否されたんだよ。はっはっは…」

 「お父様、その喧嘩、買うわ」

 笑顔で拳を胸元まで上げて立ち上がるサマンサ。

 「すまない。私が悪かったよ。だから、座ってくれないか? 武力じゃ私に勝ち目は無いからね」

 「あと、一秒遅かったらやってたわ」

 おほほほ、と言いながらポスンとソファーへ座るサマンサ。

 「でも、いい案出ないわね……」

 腕を組みしかめっ面で上を見上げるサマンサ。

 「でも、実際僕たちに出来る事って無いよね」

 「そうね。私が締め上げても逃げ出さなかったのは大したものよ」

 うんうん頷きながら、ふと思い出したのかメアリーへ疑問を投げかける。

 「そういえば、メアリーはクリスから相談されたのよね。何かいい案は無いのかしら?」

 「私たちとしては、対象に消えてもらおうとしか考えてないのですが…」

 危険な考えを口にするメアリーに対して、ジェームズが立ち上がり腕を振りながら否定する。

 「ダメ。ダメだよ。絶対ダメ。メアリーもサマンサもそういう武力に訴えた方法は絶対ダメだよ。あくまで穏便に、殿下から辞退してもらう様に仕向けるんだよ。分かりましたか?」

 「じゃあ、無理じゃん。うちの人間にそれが出来そうな人いないじゃん」

 口を窄めながら拗ねたあからさまな仕草をするサマンサ。

 「そ、そうなんだよなぁ……」

 がっくり項垂れるジェームズ。

 「でもさ、今までクリスがいろいろ巧くやってきたのを見ると、今回もなんとかできそうな気がするんだよね」

 クリスに謎の期待感を出すルイス。

 「あー、何かわかるかも。クリスがどうやって婚約破棄に持っていくか見てみたくなったわ」

 「じゃあここは、現状維持って事でいいかい? もう、パパにはどうにもできそうにないよ」

 「いいわけ無いんだけど、面白そうだからこのままにしましょうか?」

 「お母様が知ったらブチ切れますね」

 「この事は内緒だよ? メアリーもチクらないでね?」

 「……………はい」

 妙な間を持って返事をするメアリー。

 「そんな事より、あの泣き虫王子を襲った奴等って捕まりそう?」

 「出来れば憲兵隊で捕まえて欲しいけど、そうすれば私の仕事も減るんだけど、無理だろうねぇ」

 「うちのメイド達なら?」

 「明日中にはいい報告が出来ると思われます」

 メアリーが淡々と告げる。

 「マジかぁ……。暫く忙しくなりそうで、胃に穴が空きそうだよ……」

 弱音を吐き、両手で顔を隠し落胆するジェームズ。

 結局何も重要なことが決まらずに話し合いは終わった。


     *     *     *



 「―――――という事を奥様が退出された後に話されていました」

 「そうなのね。報告してくれてありがとうね、メアリー」

 さっきまでの事を全てレイチェルにぶちまけたメアリー。

 今も昔もレイチェルに従うのは、メアリーにとっては当たり前の事なのだ。

 例え、この屋敷の主人の意向に逆らう事になってもだ。

 しかし、メアリーはそんな事よりも、ずっと気になる事があり、話に集中できない様子だ。

 意を決してレイチェルへ尋ねる。

 「あの、奥様。一つ尋ねたい事があるのですが?」

 「何かしら?」

 ベッドの上で上体だけを起こした状態のレイチェルが小首を傾げる。

 半乾きの髪の毛がそれに合わせて落ちる。

 非常に艶かしく色気がある。

 だが、メアリーの関心はそこでは無い。

 「どうして、クリス様が奥様のベッドで横になってるのでしょうか?」

 「どうしてって、今日クリスが街でレオナルド殿下を守った時に汚れたでしょう。だからこうして、綺麗にしてあげたんじゃないの。おかしいところなんて無いわよ?」

 「ではどうして、顔を真っ赤にされて、吐息も荒く汗ばんでいるのでしょうか?しかもよく見ると、鼻血まで出されて……」

 「あら、お風呂に長いこと浸かっていたからのぼせちゃったのね。ふふふ…」

 「嘘ですよね? お風呂に入っただけでそんなになる訳ないじゃないですか」

 「あら、信じてくれないの? 悲しいわ」

 「そもそも、退出してから三十分くらいしか経ってませんよ。そんな時間で着替えまで済ませるとなると、長風呂は無理ですよね」

 「そうね、私がメアリーより魅力的だっただけのことよ」

 「……………」

  暫し沈黙が流れる。

 先に沈黙を破ったのはメアリーだった。

 「はぁ……。もう本当に、奥様はそういうの好きですね。変態です。感心します」

 「もう褒めてもクリスは弄らせないわよ」

 「褒めてないですし、クリス様は弄らせてくださいお願いします」

 「貴女も大概おかしい事言ってるわよ?」

 「奥様含め、奥様の部下達はみんな性癖歪んでますよ? 私もですが!」

 力強く宣言するメアリー。

 「まぁ、だから王城から追い出された訳なんだけどねぇ…」

 遠い目をしながら過去を思い出すレイチェル。

 逆上せて眠ってるクリスの頭を撫でながらメアリーに問う。

 「今更なんだけど、メアリーはクリスに変な事してないでしょうね?」

 「んんっ! わ、わた、私がクリス様にへ、変な事するわけないじゃないですか!」

 「その反応で、やってるって言ってる様なものよ。全く……。ほどほどにしなさいね?」

 「え? いいんですか?」

 「あとで、私にも見せてちょうだいね」

 「えぇ…。流石にそれはちょっと引きます…」

 「何を想像したのか知らないけど、護身術とか暗殺術よね?」

 「そ、そそそそうですよ! そうに決まってるじゃ無いですか。あはははは…」

 「な訳無いじゃない。どうせいやらしい事してるんでしょう?」

 「………」

 「今日は、メアリーが普段クリスにやってる事を私がします!」

 「親子でそれはまずいんじゃないですか?」

 「添い寝に決まってるでしょう? 頭ん中どピンクね。溜まってるのかしら? 発散できるように稽古付けてあげるわ。最近やってないから鈍ってるでしょう?」

 ニッコリと笑顔になるレイチェル。

 メアリーはお遊びが過ぎたなと激しく後悔した。


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