21 この人たちに任せて大丈夫なんだろうか
そう思った瞬間に部屋の三箇所から人が飛び出してきた。
「大丈夫です。そうならないよう私たちがフォローします」
そう言ったのは、床下から現れたエペティスさん。
「話は聞きました。その日までに衣装を作っておきます」
そう言ったのは、天井から降り立ったアマベルさん。衣装とは…?
「私に任せておけばすべてうまくいきますよ」
本棚の下の扉から現れたのはロザリー。ロザリーに任せてうまくいった事あったかしら?
一体いつから聞いていたのだろうか。
私の横に三人並ぶと、エペティスさんが一歩前に出る。
「我々オパールレイン家メイド隊服飾担当が、当日までにその場に相応しい衣装を作ってきます。どうかここは我々にお任せいただけませんでしょうか」
メイド隊とは一体…。初耳だわ。
「うーん…まぁ、そうだね。お願いしちゃってもいいかな?」
「「お任せください」」
「大船に乗った気でいてくださいよ」
泥舟にならなきゃいいけどね。
というか、ロザリーは衣装担当なのか。そんな下半身丸出しみたいな格好してるのに? 変な事にならないといいんだけどなぁ。
「信じてませんね」
「ロザリーがいなければ信じたわ」
「私の普段の格好を見て尚、信じられませんか…」
「その普段を見てるから信用できないわ」
アマベルさんがロザリーの肩をポンポンと叩く。
エペティスさんが、机の上の薄い本やらフィギュアを見て頷く。
「これは私達が撒いた種かもしれません。ここはちゃんと発芽させないといけませんね」
いやいや、刈れよ。刈り取れよ。
きっとその欲望の結果が招いたワケでしょ?
なーに澄ました顔で解決してみせますだよ。全然信じられないんだけど。
「まぁまぁクリス。今はうまくやり過ごす事が先決だから、ここは任せてみてはどうかな?」
「はぁ…。どうやるのか知らないけど、うまくいきそう?」
「えぇ。うまくいきますよ。それにクリス様も気にいると思いますよ」
すごい自信だわ。多分とか恐らくとか使わないあたり、何か秘策があるのね。
「じゃあお願いするわ」
「えぇ。任せてください」
「あぁ、これは大忙しになるわね。他の担当にも手伝ってもらわないといけないわね」
「ふむ。では、今日はカレーはお預けですね」
三人はニコニコしながら、ぶつぶつ言いながら扉からちゃんと出て行った。
しかし、この家に隠し通路みたいのがあるなんて知らなかった。
これはあとで調査する必要があるわね。非常に気になるし、是非とも使ってみたい。
しかし、今までの会話を全部聞いていたんだろうか。
もしかして私の部屋にもいたりするのかな? ちょっと寒気がしてブルッときた。
「じゃあクリス。邪魔が入らなくなったから、本題に入ろうか」
「本題? 今までのは何だったんです?」
「いや、さっきまでのも問題ではあったんだけど、これを見て欲しい」
そう言って机の引き出しから一冊の薄い本を取り出した。
受け取り中を検めると、何とも言えない内容だった。
「あの…これって……」
「ここ最近巷で配布されているもののようでね。まぁ内容を見れば分かるけど、どう考えても他所の人間が描いたものだよね」
お父様の言う通り、これに関してはうちのメイドさん。或いは街の人が描いた内容ではない。
絵柄は確かに似せてあるし、ところどころエッチな表現もあるんだけど、明らかに偏ってるんだよね。思想が。
「これは明らかに宗教の教えみたいな内容ですね。同人誌の皮を被った経典や聖書みたいな感じです」
「そうなんだよ。調べたんだけどね、これを街で配っていたそうで、殆どの人が持っているらしい」
だからこの前街に行った時におかしい人たちが多かったのか。
「その描いた本人も視察に来るらしいから、彼らの意図を探って欲しいんだ」
「いやいやいや…。お父様、流石にこれは私には手に負えませんよ」
「最初はただ話を聞くつもりだったんだけど、メイド達がクリスなら解決出来るみたいな事言ってたから、任せちゃおっかなーって、パパは思いました。まる」
面倒くさいから押し付けたのね。何かあっても助けないですからね。
はぁ…。どんどん厄介な事が増えるなぁ…。
「そうそう。もう隠れているメイドはいないから、今のうちにクリスに聞いておきたい事があるんだけど、いいかい?」
「今度はどんなめんどくさい事押し付ける気ですか?」
「なっ! そ、そんな言い方しなくても良くない? 私だって好きでクリスに押し付けてるワケじゃないんだよ。やる事だって結構あるし……」
「はいはい。分かりましたよ。で、何ですか?」
「(反抗期なクリスもいいね)……って、あぁ、そうそう。このフィギュアを幾つか購入した時に気になったのがあって、これなんだけど」
床に置いた箱から、一番慎重に抱えて置いたのは魔改造されたフィギュアだった。
それもある一点が異様に長くて大きい。
「お父様はこういうのが趣味なんですね。私もです」
「いやぁ、そうなんだよ……………えっ?」
目が点になっている。たまにはこういう返しもいいわよね。
実際まぁ、嫌いではないわ。寧ろ好きな方よ。でもね、大きすぎるのが難点よね。そこを常識的なサイズにすれば私の好みなんだけどね。
………って何考えてるのかしらね私は。
最近暑いから頭がおかしくなったのかしらね。
そうよ。ぜーんぶこの暑さが悪いのよ。
「で、これのどこが気になるんです?」
「あ、あぁ…。えっと、このスカートからはみ出しているところなんだけど、どうして先のない靴下みたいのを履いてるんだい? これだと、先っぽがはみ出したままで、何かに当たったら痛いと思うし、萎えたら脱げちゃわないのかなって思ったんだが…」
「どうしてそれを私に聞くんです?」
「この前、メイド達が話しているのを聞いてね。年の割に大きいって話をね。クリスは一応男の子だから、胸じゃないとすると、あそこしかないかなって、それで、もしかしたら詳しいんじゃないかと思って聞いてみたんだけど」
「そういうのは、作った人に聞いてください」
最後の最後でとんでもないセクハラな質問されたわ。それも親に。
でも、確かに不思議よね。普通あんなに持続しないし、あの部分を保護するくらいなら全部被せちゃえばいいのにね。
それに伸縮性のある生地とも思えないから、絶対脱げるわよね。
お父様が変な事言うから私も気になってしまったわ。
「そうそう。こっちは男の子と女の子の二つが……」
そんなお父様が別の魔改造フィギュアを出したところで、部屋を抜け出したのだった。




