20 巷でクリス教なるものが流行っているらしい
* * *
あの後、怖くて街に近づけなかったが、あの陽キャ達が、暑さがおさまるかのように、段々と静かになっていった。
多分、遊び疲れたか、もうやる事がないのだろう。
お陰で、家にいても自分の時間を持てるようになり、少しゆっくりできるようになった。
そんな時、お父様に書斎に呼ばれた。
お父様に呼ばれる時は大抵ロクでもない事なのよね。今回は何かしら?
覚悟を決めて書斎をノックし、中に入る。
「やぁ、私のかわいいクリス。待ってたよー」
「今度は何ですか?」
「あれ、何か身構えてる?」
「そりゃあ勿論ですわ。だって、お父様に呼び出される時は、大抵大変な事なんですもの」
「そんな他人行儀な言い方しなくても…」
別にそんなつもりじゃないんだけどな。早く本題に入ってくれないかな。
「えっとだね…、クリスはクリス教というものを知ってるかい?」
「クリス教? なんですかそれ? メイドさん達が勝手に何か始めたんですか?」
クリス教。全く身に覚えがない。どうせあれでしょ? 俺の嫁ーの延長戦みたいな話でしょ。ホント迷惑よね。
「いや、これは街で広まっているようでね」
あー………。そういえば、この前何か祈られたわね。あれドッキリじゃないの? まだ、ドッキリ宣言されてないんだけど。
「街の住人の間で今、クリスが信仰の対象になっているようで……」
そう言ってお父様は下に置いていた箱から、本を数冊取り出した。
「これが、経典として広まっているそうなんだ」
そこに置かれたのは同人誌だった。
「…っうん…。いや、そのなんだ……。親としてこういういかがわしいのは流石にねぇ……。いや、別にクリスが好きならいいんだが、私としては、ちょっと憚られるというか」
「いや、なんかごめんなさい」
「いや、謝らなくていいんだよ。別に趣味なら仕方ないし。ただ、初めて読んだが、複雑な気持ちだよ」
ベッドの下に隠したエロ本をベッドの上に並べて置かれるくらいの気恥ずかしさね。
だってしょうがないじゃない。うちのメイドさん達がいつの間にか作って、売って、広めちゃったんだもの。
気づいたら手に負えないくらい大きなマーケットになっちゃったし。
まぁ、たまにお世話になってるから私も強くは言えないんだけどね。
でも、変よね。これが経典と言われるなら、もっと前から言われていてもおかしくないわよね。何でこのタイミングなのかしら?
複雑な表情のお父様は、更に箱から何かを丁寧に取り出した。
「これが、女神様として崇められている偶像らしいんだ。調べたところ、最低でも一人一個は持っているらしい…」
私のフィギュアだ。白いシスター服を着ているバージョンだ。
「他にもいっぱいあって、目移りしてしまったよ」
そういって、どんどんと置いていくお父様。もしかして、わざわざ買ったんですか? この量を……。
お父様の机の上には大量の私のフィギュアが並べられていた。
「正直こんなにあるとは思わなかったよ。でも、これならいつでもクリスを眺められていいかもしれないね」
子供としては複雑な心境です。
「しかし、驚いたのは、うちのメイド達も結構あるんだね。それにルイスに。サマンサ。そしてレイチェルまでも。私のは…無かったんだけど…」
悲しそうな顔をしているけど、多分需要が無いからじゃないですか?
追加で置かれたのは、ゴスロリ風のナース服のお兄様と、鬼ビキニのお姉様。そして、キュアアントシアンのお母様。
確かに多いですね。ちょっとお母様のは欲しかったりしますね。
いろいろな部分が脚色されてる気もするけど……って、そんな事考えてる場合じゃ無かった。
「あの…、女神ってなんですか?」
この前も女神様って言われた気がしたんだよね。
「最初に言ったクリス教の女神様らしいんだ。つまりクリスの事だね。まぁ、私としては女神より天使のが合ってると思うんだがね」
そこはどうでもいいんですのよお父様。
「それで、その得体の知れない新興宗教を調査しに王都からアイデアル教の幹部達が一週間後に視察に来ると連絡があったんだ」
「えっ!」
「そこで、クリスには、一応女神様として対応してくれないかなって思ったんだ」
待って待って。そもそも私その宗教には一切関係してないのに、何を対応するというの?
「いやいやいや、お父様。私関係無いって言いましたよね。下手したら投獄とかされちゃうじゃないですか」
やっぱりお父様に呼び出されたらロクでもない事になるのよ。




