14 避暑地
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「…………………」
「クリスこんなところにいたら暑いでしょ?」
「……。あ、お姉様……」
「ちょっとどうしたのよ」
真夏の真昼間に屋敷の屋根に体育座りしてどこか遠く呆っと見ていたら、急に視界が暗くなった。
日傘をさしたお姉様に声をかけられた。
屋敷の屋根の上で日傘をさしているってのもなかなかにおかしいわね。
しかし、よくこの場所が分かりましたね。
とりあえず人気のないところに逃げたのだけど、日焼け対策もせず座っていたから、正直暑い。暑いんだけど、あの喧騒の中に戻るくらいなら汗だくになった方がマシだと思ったのよ。
「…はぁ……。こんなところにいたら死んじゃうわよ。ちょっとこっち来なさいな」
そう言って、空を飛びながら、屋敷の外側に回り込む。
大きい屋根に遮られたバルコニーだ。完全に日陰になっていて、椅子が二つとテーブルが一つ。そして、奥に横長のベンチが一つ置いてあった。
ただ一つ不思議な点がある。
「こんなところあったんですね」
「外からじゃないと入れないからね」
なるほど。屋敷側には扉のようなものはなく、壁しかない。
真夏の真昼間だというのに、日陰になっているからか、それとも風が適度に吹いているからか気持ち涼しい。
「こんな窶れるまで我慢するなんて。無理しなくていいのよ」
「いやぁ……断る前に拉致されるので」
三日目からは誰もこないだろうところに逃げ込んでいるんだけど、二週間も続くと諦めてしまうものよね。
「なんか…ごめん。力になれなくて」
「いや、いいんですよ。ところでいつ帰るんですかね」
「少なくともあと半月くらいはいるんじゃない」
「おう…………」
うわきつ。そんなに陽キャの相手なんてできないよ。
「夏休みにずっと家に居る子供の食事の準備の大変さとか、リモートワークでずっと家にいる旦那の世話とかしないといけない母親の気持ちですね」
「ちょっと何言ってるか分からないけど、クリスが限界だってのは分かったわ」
「分かります? はぁ…。この前三日連続で私とお兄様とちっちゃいメイドさん達とで、ファッションショーやらされた時は発狂しそうになりました」
「ごめん…」
「お父様もお母様もお兄様も頼りになりませんね」
「ま、まぁこの場所なら見つからないから、ゆっくりしたらいいと思うのよ」
「えぇ、そうします」
外からしか入れないんなら大丈夫でしょ。
安堵し、深く椅子に身を沈める。背もたれに体がどんどん沈んでいく。ダメになりそう。
「じゃあ、何か冷たいものでも用意させましょうか」
パンパンと手を叩くと、どこからかメイドさんが現れた。
「お呼びですかサマンサ様」
「何か冷たいものとお菓子を持ってきて」
「かしこまりましたー」
そしてまた音もなく消えるメイドさん。
おかしいな。私の認識ではメイド=忍者ではなかったはず。
「お待たせしました」
数分後、背後から声を掛けられる。早いね。
メイドさんが持ってきたのは、透明な容器に入れられた黄金色の液体。中には数種類のフルーツとハーブが入ってる。
「こちらフルーツティーと焼き菓子になります」
フルーツティーにはミントと桃とオレンジが入ってる。
焼き菓子はフロランタンとナッツクッキーにビスコッティ。
メイドさんが透明なグラスに注いで手渡してくれた。
紅茶とフルーツの香りがとても濃い。香りを楽しんだ後に一口飲み込むが、暑かったのか喉がすごく渇いていたのか分からないが一息で飲んでしまった。
「…っく~っ………。きんっきんに冷えてる~~~。生き返るわ~…………」
「ふふ。それは良かったです。おかわりはいっぱいありますからね」
「ありがとう……って、ベルさんじゃない。気づかなかったわ」
「調理場に来たフィジーが、クリス様がぐったりしていたと報告をくれたので、代わりに私が来ました」
「ね、ねぇ。私のことは何も言ってなかったの?」
「そうですね。特には…」
「…あいつぅ……」
さっきのメイドさん、フィジーさんっていうのか。いっぱいいるから名前覚えきれないのよね。
「アメちゃんは預かってきましたが」
「……もらうわ」
もらったアメを口に放り、バリバリと噛み砕きながら食べるお姉様。
そして、一気にお茶を飲みほす。
「…っか~。これ美味しいわね」
「ありがとうございます」
「中のフルーツって食べられないの?」
「食べられますよ」
「食べていい?」
「…え、えぇ、どうぞ」
お姉様的にはナッツ系の焼き菓子よりフルーツのが好きなんだろうな。まぁ、喉乾きやすいものね。でも、これ一緒に食べると合うんだけどなぁ…。




