13 もうこれ拷問って言っても差し支えないよね?
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「クリスきゅん。恋バナしましょ」
夜、私の部屋に押しかけてきたパジャマ姿のアンさんとキャロルさんにお姉様。そして、うちのメイドさん数名と、彼女達のメイドさんが何人か。あと、クオンさんもギャルっぽいキャミソールとショートパンツで来た。
もしかして寝かせてもらえない感じ?
完全に私の部屋で朝を迎えようとしているのか、お茶とお菓子は勿論。ソファやら椅子やら枕やら、人をダメにするクッションまでも持ってきている。
逃げようとして後ずさると、やたらと柔らかいものに当たる。
見上げるとメアリーが満面の笑みで立っていた。
「まぁまぁクリス様。ここはクリス様が誰を好きなのかはっきりさせるべきだと思うんです。まぁ、答えは分かりきってますが」
「何言ってるのメアリー。私に決まってるでしょ!」
「そんなわけないじゃないですかー」
始まってもないのに、いきなりドンパチするのはやめてほしいんだけど。
その後は、みんな夜中だというのに、明け方近くまで起きて、お菓子を食べながら誰が好きだとか、誰が誰を狙ってるだのといった話で盛り上がっていた。
普段、お肌の手入れが大変なんて言ってるけど、こういう事やめて早く寝れば美容にもいいと思うんだけどな。
しかし女子って話好きだよね。全然終わりが見えないんだけど。
私なんて最初に話振られて以降、ずっと蚊帳の外なんだけど。
というか、あんまりこういった話に興味がないのか、メアリーは私を抱きかかえたまま寝落ちしてしまっている。
毎晩の事だけど、よくこの体勢を維持したまま眠れるわね。
未だに脱出に成功した試しがない。
「そういえば、クリスきゅんはずっと、メアリーに抱っこされたままだけど、メアリーが好きなの?」
「まぁ、好きか嫌いかで言えば、好きですが…」
「あら!」
「おぉ!」
もう外が白んできたのに、色めき立つ面々。
「あ、だからずっとそのままなのね」
「いや、メアリーに拘束されたまま動けないので諦めてます。出来る事なら脱出したいのですが…」
「なーんだ。つまんないの」
「いや、でも言っても簡単に抜け出せるでしょうに」
そう言って、メアリーの腕を掴み動かそうとするキャロルさん。
「あ、あれ…」
「ちょっとキャロル。何遊んでんのよ」
「いや、ホントに硬いんだって」
「えー、ウソでしょー」
全く信じてないアンさん。
ちなみにお姉様は早々に寝落ちしたために期待できない。
「もし。私が外せたら、クリスきゅん抱っこして寝てもいいのよね?」
「まぁ、出来るなら」
「よっしゃおらぁあああ!」
こんな朝早い時間にそんな大声出したら迷惑ですよ? まぁ、脱出出来るんならなんでもいいか。
しかし、キャロルさん、アンさん他数名の健闘むなしくメアリーの手足はビクともしなかった。
「もう…これさぁ、無理だって。これで明日筋肉痛になったら嫌よ?」
「そうね…。というか眠いわ」
「あぁ………私もよ…」
残っている面々も、次々と限界を迎え、倒れるように眠っていく。
私も逃げ出したいんだけど、私を拘束したまま寝落ちしたメアリーのせいで逃げられない。
このままこの人達が起きるまでずっとこのままなんだろうか。
残念な事に、私以外の全員が眠ってしまった。
部屋が一気に静かになると、やっと眠気が訪れたのか、気絶するように眠りに落ちた。
目を覚ました時には、庭で眠っていた。
「え…。どういうことなの……」
夜寝るときのネグリジェのままだ。流石に女性陣がいる中でノーパンになるのは憚られたため、履いている。脱がされてない。
しかし、一体どうやってここまで来たのだろうか。不思議だ。
あのチャイルドシート状態のメアリーからどうやって脱出したのか、今後のためにも解明しておきたい。
こんなところにいても仕方ないので、裸足のまま屋敷へ戻る。
こういう時下が芝生でホント良かったなって思う。
今日も朝から蝉がうるさいなぁ…。
お兄様の愉快な仲間達は昨日あんだけ騒いだのに、今日も朝から元気だ。若いっていいね。
朝食が終わってすぐにアンさん達に連行される。
「クリスきゅんに会長。私たちと大富豪しましょ」
貴族が大富豪て…。笑うところかな?
「私もやるわよ」
「当然やると思ってたわ」
「じゃあ、声かけなさいよ」
「え? 必要なくない? いつもいるんだし」
「あ、あぁ…そうね。そうよね。ハブられてると思ったわ」
「……そんな事しないわよ」
「今の間は何よ」
それから主従入りまじりでカードゲームやらボードゲームで遊び、シメのジェンガで大盛り上がりして解散した頃には日を跨いでいた。
そんな事が連日連夜続いた……。




